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第31話 ライバルの真意
あれからも我妻が何度も凝視してくる。彼を怒らせるようなことはしていない筈なのに眼差しに優しさは一切ない。品定めされるような舐めるような視線だ。
ほら会議中の今も黒が書類を読んでいる隙を見てはチラチラとこちらを見ている。何かあるなら直接言ってくれればいいのに。
「以上、通常通り本日も各々やるべきことをやってくれ」
黒の締めの言葉で会議が終わった。最後まで会議室に残ったのは黒と俺と我妻の3人。気まずい空気が流れた。ぞろぞろと出て行き空いた頃合いを見計らって黒が杖をつき立ち上がった。それに続くように後を着いて行こうと扉を出ようとした瞬間、目の前でドアが閉まった。
え、俺まだ出てないんだけど‥なんか不機嫌だったような…
「黒‥どうしたの!?」
「先に戻っている…」
ドアが越しに聞こえてきた声と遠退く足音を聞きながら呆然とすることしか出来なかった。今一番一緒に居たくない人物と二人きりになってしまった。もしかしたら黒はわざと二人きりにしたのかもしれない。お互い話し合えって言ってるのかも‥
「我妻」
「はい」
「以前から思っていたけど、何で俺をジロジロみてくるんだ?何かしたかな‥」
「…あなたが‥どうしてかと思いまして」
我妻の言っている意味がわからない。次の言葉がなかなか出てこないのか、沈黙が続いた。
焦れったいな。こっちから聞いてやったんだから素直に言えばいいのに、なんか腹立ってきた。
「何が?」
「どうしてあなたが首領とお付き合いされているのかと不思議に思いました。別段容姿が飛び抜けて良いというわけでも、魅了されるような特技があるわけでもない…ただの平凡」
「その平凡さが良かったんじゃないか」
「理解できません。あれほど人を惹きつけてやまない首領が下の下と付き合うなんて‥私との関係はあの人の中ですでに過去で、清算されてしまったんですね…」
二人の過去については知らない。まるで肉体関係でもあったんじゃないかと匂わせるような言い回しはやめてほしい。モヤモヤする。
我妻が饒舌に話し始めて、内容が結構心に刺さった。貶されるとは思ってなかった。熱視線を感じていたから、てっきり好きになられたのかと勘違いしてしまった。
「あなたに負けているとはどうしても思えません…私の方が首領を守る力を持っているはずです」
「俺と黒は心で通じ合ってる。どんなことも受け入れて形にした。強固な繋がりを持っている。我妻に入る隙なんてない」
「そうでしょうか‥あなたの体が善かったのではありませんか?まぁあなたにテクニックがあるとは思えませんが…」
「体目当てなら俺じゃなくてもいくらでも相手はいた。それでも黒は俺を選んだ。だから体目的じゃないことはわかってる」
我妻は余程自分のテクニックに自信があるのか鼻で笑われてしまった。黒と肉体関係にあり調教済みなら、仕込まれてて当然だ。でも俺は黒に調教されてない。だから未だに下手くそと言われるけど、それでも黒は強要してこない。
自分の良いようにしようとは思わない。互いに善くなる為に抱き合うのに調教なんて必要ない。
「自信満々ですね。本当に強固な結びつきがあるなら試してみませんか?私が誘惑して首領が抱くかどうか」
「そうすれば諦めつくのか?」
「えぇ、諦めて差し上げます」
こうしてとんでもない方向に話が進んだ。黒が選ぶのは我妻ではないと信じているが、不安が無いわけではない。
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