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第33話 懐かしい顔ぶれ

 A国、午前9時。  優雅にモーニング珈琲を飲み新聞を読んでる黒から、また突然の報告があった。燈や沈恋が来るらしい。相変わらず事前には言ってくれない。 「いつ?」 「今日だ」 「なんでまた突然?」 「サプライズの方がいいだろう」  ニヤリと笑う黒は意地悪に成功した子供のような無邪気さがあった。冷酷さはなりを潜めているが、完全に死んでいるわけではない。いつまた現れるかわからない。いずれにしても俺は臆する事なく何処までも着いて行く。飽きられて捨てられるその日まで。  俺たちは|永久《とわ》の誓いを立てたわけじゃない。だからこの関係性は一時のものであったとしても何ら変ではない。繋ぎとめているのは肉体と気持ちだけ、黒は2度目の婚約をするつもりはないはずだ。辛い過去のせいで簡単にはできないだろう。  愛の言葉や甘いささやきを期待しているわけじゃない。彼なりに関係性を変えようと努力してくれたのを肌で感じているから多くを望もうとは思わない。今のままでいい。 「ったく、いつも突然だよな。スケジュール管理をしてる我妻は知っているんだろう」 「あぁ、現状のスケジュール管理は全て我妻に任せている。なんだ、まさか妬いてるのか?」 「別にそんなんじゃない」 「素直じゃないところも良いな」  これが彼なりの愛情表現だ。不器用だけどちゃんと伝えようと努力してくれいる。愛を知らない男が裏切りを受けすっかり心を閉ざし、錆びて開かなくなった扉を少しずつ開けようとしてくれている。黒自身、戸惑いはあるだろう。 「それで何時にこっちへ来るんだ?」 「11時半の予定だ」 「燈と会うのは5年ぶりぐらいかな」  あの抗争から一度も顔を合わせていない。電話でも会話しても内容は業務的なものだけだ。仕事に私情を持ち込まないところは昔の燈と何ら変わりない。  この5年でラストアイランドを任され統括する立場になった燈の人生にも変化はあったんだろうか。鷹翼の残党を狩り島全体が一つの国みたいで、王様のような立場は責任が重すぎる。でも燈ならやるはずだ。それを見越して黒も彼に全権限を委ねたに違いない。 「あいつもこの5年で変わった」 「見た目が?」 「それもそうだが私生活でもな」 「え、何?」  含みのある言い回しに探ろうとするがそれ以上黒は何も言わなかった。ただ楽しそうに笑っている。この5年で変わった黒を見て燈はどう思うだろうか。未だに想っているなんてことはないだろうが、諦めていなかったらどうしよう。燈は我妻と同様に腕のあるいい男だ。 「さ、外で飯を食って空港に行くぞ。沈恋も報告があるらしいしな」 「報告って何だろう」 「さぁな」  そういって珈琲を飲み干し立ち上がった黒に続いて部屋を出た。冬のA国は寒い。首を縮めていると黒がマフラーを巻いてきた。昔の彼なら誰かの為に何をするなんてしない人だった。そんな彼と共に迎えの車に乗り込んだ。

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