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第33話 懐かしい顔ぶれ

 空港のエントランスで待っていたら赤い口紅を引いた女性が嬉しそうにヒールを鳴らして駆けてきた。そのまま黒を抱きしめた。 「っ、沈恋」 「黒、会いたかったわ」  頬にキスをした沈恋は嬉しそうにほほ笑んでいる。黒は相変わらずの無表情のままだが、俺を見る表情に何かを悟ったように沈恋が此方に向かってきた。相変わらずの巨乳に嫌でも見てしまう。バレたら後で黒にお叱りを受けそうだ。 「周、久しぶりね。黒とは順調そうで良かったわ。自分では気づいてないかもしれないけど、黒の表情が優しくなったわね。安心した」 「順調だよ。恋人ってちゃんと認識してくれてるみたい」 「そう。でも彼は過去のトラウマで臆病になっている部分がある。だから傷つけたらだめよ?何かあったら相談に乗るんだから、連絡してきてちょうだい」  沈恋は頼りになる。派手な服装だけど凄くまじめな人だ。そんな彼女も昔は死んだ魚のような目をしていた。薬物中毒に陥り戻れないところまで来ていた。でも今は澄み切った綺麗なグレーの瞳が輝いて見える。そして以前はなかった左手の薬指にリングが嵌められていた。結婚したようだ。相手は薬物から抜け出すために献身的に介抱してくれたらしい。    こうして沈恋の熱い抱擁を受けた。そしてすぐ後ろから燈がやって来た。 「沈恋、一人で行くなと言っただろう」 「いいじゃない。久しぶりに会えるんだもの。ほら貴方も黒に挨拶しなさいよ」  な、なんだ。どういうことだ。沈恋と燈が親し気に話している。もしかして沈恋の旦那は燈なのか?そんなはずない。予想だにしていなかったことに驚いて燈と沈恋を何度も交互に見つめた。  燈が黒に挨拶をしている間に、沈恋が声を小さくしてこそこそと話しかけてきた。 「私、燈と結婚したのよ。言ってなかったわね」 「え、なんで、何があったんだ!」 「昔から優しく接してくれる人だったの、でも燈は黒が好きだったでしょう。だから脈なしだって思っていたんだけど。抗争の後、全てを任された彼を支えている間に愛が芽生えちゃったみたい」  突然の事で開いた口が塞がらなかった。紆余曲折しすぎだ。堅物な燈が結婚だなんて、世の中どうなるかわからないものだな。もしかして黒は知っていたのかもしれない。  朝、燈の私生活に変化があったようなことを言っていたはずだ。また知ってて黙っていたのか。  燈が俺の元にやってきて抱擁された。昔みたいに邪険にされないのが不思議だ。認められたみたいに感じる。気のせいかもしれないけど。 「燈、結婚したのか?」 「あぁ。2児の父親でもある」 「え?」  燈が黒の方へ視線を向けたのでそちらを見ると、黒が子供と話をしている。意外と子供の扱いが上手いのかもしれない。面白そうに子供たちが笑っていた。黒がポケットからキャンディーを取り出して渡している。良い伯父さんって感じだ。 「大変だったわよ。双子だなんて初産だったのに。1回で二回分痛い思いをしたわ。でも子供のいる生活って悪くないわよ。大変なことも多いけど」  沈恋がそう言った。子供を持つなんて考えたこともない。男女のカップルならまだしも、俺と黒は男同士だから不可能なことだとわかっていた。でも沈恋の言う子供のいる生活ってのも体験してみたい。その前に結婚をしなければならない。幸いA国は同性婚が認められている。だから男同士でも何ら問題はないだろう。ただ黒がそれを望まないかもしれない。怖くて聞いてみたことはないが。   「黒って、ああ見えて意外と子供の扱い上手いわね。怯えると思っていたけど予想が外れたわ」  確かに沈恋の言う通り、黒は子供の扱いに慣れているように見えた。子供達も危害を加えてくる人ではないと安心しているように懐いている。意外といいパパになるかもしれない。そんな風に思ってしまった。

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