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第33話 懐かしい顔ぶれ
燈夫婦と食事を済ませて屋敷に戻ってきた。二人きりの寝室で黒は飲み足りなかったのか、一人で晩酌をしている。俺もたまには付き合ってみるかと思い戸棚からグラスを取り出した。
「周も飲むのか?」
「うん、たまには付き合うよ」
「バーボンでいいか?」
「うん」
黒がグラスを受け取りお酒を作ってくれている。晩酌に付き合うのは久しぶりだ。毎晩飲む黒をベッドの上で見つめながら他愛ない話をする事が多い。今夜は少し気疲れした。
懐かしい顔ぶれに会えたけど、日常とかけ離れていて変な感じだった。
「つかれたか?」
「少しね。黒は子供の相手してて疲れてないの?」
「疲れた。普段ない刺激だからな」
「だね。二人が結婚して子供まで居るなんて予想外すぎた」
鮫牙の中で初めての子供だ。マフィアが結婚なんて出来ないと決めつけていた自分が恥ずかしい。俺の場合はお互いに男同士なわけで、現実的に子供は望めない。だから子供を持つことはないだろう。結婚するのかも分からない。
悪事や犯罪なんかと縁遠い子供たちの瞳に我々はどう映っているのだろうか。いつか知ることになるだろう。世界は幸せだけで回っているわけではないと。大半は悲しいことばかりだ。 大切な人を失い、夢を失い、仕事を失い、理由は様々だが大人はそういう過程を経て徐々に心は濁り、子供の頃の純粋さを失う。そして人を傷つける。己を守る為なら他者を傷つけても平気な者もいる。
特にマフィアという反社会的勢力は幸せには縁遠い職業といえる。束の間の幸せも突然奪われることだってある。だから今この瞬間、黒と過ごせる時間を大事にしたい。
「今日2度目のサプライズだろう」
「驚いたよ」
「お前も子供が欲しいか?」
「え」
黒がまさかの事を聞いてきた。それで俺が欲しいって言ったらどうするつもりなんだ。できもしない子供の事で思い悩むなんて嫌だ。黒の遺伝子を持った子供はさぞ可愛いだろうが、それでも望めない事だ。
「欲しいとは思うよ。でも俺たちじゃ無理でしょう」
「そうだな。養子か代理出産なら望みはあるが」
「その前に俺達結婚してない」
その言葉に黒がグラスをサイドテーブルに置き真剣な眼差しでこちらを見てきた。なんだか目が逸らせない。威圧してないけど、少し怖い。何を言われるんだろうか。
「周は私と結婚したいのか?」
「え、あの」
「私は1度失敗している。だから結婚に踏み切るには大きなハードルを感じる。それでも周は結婚を望むか?」
「したいけど、無理させたくない」
本心だった。俺ばかり独りよがりになりたくはない。結婚という永遠の関係を築くなら黒じゃないと嫌だ。でも彼の過去を思うと素直には言えない。彼なしじゃ、もう生きていけないのに。
「無理はしてない。周が望んでいるのか聞いておきたいんだ。私と永遠に寄り添う覚悟があるのか聞かせてくれ」
「一生一緒に居たい。黒なしじゃもう生きていけない。そう思っている」
「そうか。そんな風に言われたのは初めてだ」
「俺もそんな事言ったの初めてだよ」
黒が抱きしめてきた。彼の熱を感じているだけで安心する。なくてはならない存在にいつの間にかなっていた。出会ったころは憎い存在だったのに、今は離れ難い相手だ。こんなに大切な人が金輪際現れる事はないだろう。
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