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第34話 怪物が生まれたのは

「黒」 「私は愛情を知らずに育てられた。だから愛情を示す方法がわからない。肉体関係に頼っている所がある。それでも自分なりには伝えているつもりだ。周にちゃんと伝わっているだろうか」 「伝わってるよ。俺は黒に愛されている。不器用な愛だけど」  黒は戸惑っているんだと思う。愛情を知らないまま大人がいい年になって初めて愛情を知った。衝撃を受けただろうし、理解が追い付かないだろう。それでも愛情を返そうと努力してくれているのをひしひしと感じる。だから少しだけアドバイスをしてみようと思う。 「黒が好きだし、愛してるからもっと知りたい」 「私の何を知りたいんだ?」 「黒の幼少期の事とか、好きなこととか。もっと色々知って、今以上に距離を縮めてみるのはどうかな?」 「過去なんて良いことなんて何もないぞ」  それでもいいと伝えると黒にベッドへ誘われた。もちろん抱き合うわけじゃない。ただお互いにリラックスできるから素直にベッドに寝転がった。まるでピロートークみたいだ。 「1~3歳くらいの記憶はあまりない。覚えていることも断片的で印象に残ったことだけだ。それでも知りたいなら話す」 「うん。嫌なこと思い出させてしまうことになるのかな」 「構わない。私を今以上に愛そうとしてくれているんだろう」  黒の手をそっと握った。今から聞くことはきっと明るいものばかりじゃないだろう。だから少しでも触れていたい。どんな過去も全て含めて愛したいから。 「4歳の誕生日に父から銃をプレゼントされたことを鮮明に覚えている。その次の日実弾を使っての訓練が始まった」 「そんなに早くから?」 「あぁ。今だから異常だとわかる。父は私を息子ではなく後継ぎとしてしか見ていなかった」  黒が人を駒扱いしていたのはそういうことがあったからなのかもしれない。受けてきた教育によって人は変わる。それが普通だと認識してしまっていたのだろう。 「5歳の時、父に部屋に呼び出された。部屋に行くと父が知らない女を抱いていた。そして父は私にこういった。そこで一部始終を見ていろと」 「どうして?」 「肉体関係に愛はないと教えるつもりだったのかもしれない。そのおかげで私は肉体関係に抵抗がなかった。そして私はその女に童貞を喪失させられた。父の命令で抱くように強要されたんだ」    黒の言った通り、暗い過去ばかりだ。 冷酷非道な黒が誕生したのは父親が全ての元凶な気がした。破壊の王という怪物を意図的に作りだしたとしか思えない。 「その後私は父に抱かれた」 「え、それって」 「近親相姦だな。父が必要であればわが身を捧げても成し遂げろと言って、私を何度も犯した」 「そんな酷い」  近親相姦を体験した事も肉体関係に抵抗を感じない一つの要因といえるだろう。それを父親は命令して無理やりさせたのだ。おそらく黒の父親は命令に必ず従うように教育し、抗えない様に逃げ道を与えなかったはず。弱音を吐く事も拒む事も許されずどれだけ嫌なことでも我慢して耐えなくことを幼くして覚えさせたらしい。父親は間違いなく異常者だ。わが子をわが子とも思っていないように感じる。  その結果、徐々に心を閉ざしていったのだとしたら、墓を暴いて父親を殴り殺してやりたい。我が子にここまで酷いことをできる親がいることは思わなかった。 「父のと肉体関係は16になるくらいまで続いた。私だけではなく兄も同じだったらしい。最低な父親だろう」 「黒。ごめんなさい。もういいよ。話さなくて」 「こんなこと聞きたくなくなっただろう。私は周が思っているより汚れた人間だ。人を簡単に殺め、脅迫し虐げ、全て奪い尽くす」 黒はただ殺人兵器として生み出され、父親の思うままに生きてきたのだろう。どれだけ辛くても泣かないのはきっとそのせいだ。心で何も感じなくさせられてしまったんだ。 「黒。辛かったよね」 「耐えるしかなかった。父は歯向かえば我が子でも容赦なく罰を与える。だから怖くても抗えなかった」 「黒」 悲痛な表情を浮かべて握る手に力を込めた。黒を抱きしめて何度もキスをした。辛い時は泣いてもいいんだと耳元で囁く。 「どうすれば泣けるのかわからない」 「ねぇ、黒。こんな言い方はしたくないけど、父親の誤った教育のせいで黒は明らかに欠けてる部分がある」 「あぁ、それは周と居て実感している。私は何処か欠如し歪んでいる」  黒の全てを奪いつくした父親の存在が亡き今も呪縛のように離れない。考え方を掌握し、操る一種の洗脳のようなものかもしれない。愛されたことのない怪物はごく当たり前のように人から全て奪っていた。でもそれは過去の事。自分の考えや意思のままに生きていいはずだ。それを誰も奪ってはいけない。

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