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第34話 怪物が生まれたのは

「私が初めて父に歯向かったのは婚約者を狂わせた時だ。簡単に死なせず地下牢に5年以上監禁し、今までされてきたことをそのままやり返して惨殺した。私も最低だ」 「黒は自分の行いを悔い改めた。人は過ちを犯す。でもそこから何か学ぶ者と何も学ばず正しいと疑わないものでは全然違うんだよ」 「私は変われただろうか」 「うん。破壊の王だったなんて嘘みたい」  黒は人としての心を得て変わった。暴力だけでは人を支配できないし、そういう関係は脆いということを知った。 苦しむ者に手を差し伸べ支援する団体を立ち上げたり、身寄りのない子供を保護する施設を作った。特にラストアイランドにやってくる移民問題には尽力した。もう怪物や破壊の王なんかじゃない。今の彼は無敵だ。優しさに溢れている。 「破壊の王か。今なら昔の行いが誤っていたのだとわかる。正しいと思っていた自分が信じられないな」 「俺はこれからも強くなるし人として成長するよ。黒を守れるくらい」 「あぁ。戦闘において昔ほどの力はもうないからな。援護なしでは生きられない」 「だから我妻を護衛につけたの?」  我妻の戦闘能力は後遺症を負う前の黒に匹敵するくらいの実力を持つ。俺では敵わない。それでも強い護衛を一人つけたところで死角を防ぎきれるとは限らない。だからこそ俺も努力を惜しまない。戦闘能力が低下したとはいえ黒のポテンシャルは高いままだ。杖に剣を仕込んでしるし、銃の正確性も下がっていない。ただ動きの面で鈍感になった。 「我妻とは従軍していた時に出会った。肌の色のせいで軍の中でも浮いていたあいつに声をかけたのが始まりだった」 「それでいつの間に護衛に?」 「戦争が終わり退役したあと鮫牙に戻るときに着いていきたいと言われた。だが断ったんだ父親に会わせたら殺戮者に変えられると思ったから。そのかわり何かあるたび密かに協力してくれていた」 「そうなんだ」  黒は包み隠さず話してくれた。だから俺もそれに答えたい。自分の過去は黒に比べたらくだらない。平凡だった人生がどれだけ有り難いものか分かった。辛いことしかなかった彼の人生がこれから幸せに溢れてくれればいい。そして隣に居たい。移り行く時代の中でどう生き抜いていくのか俺はこれからも見つめ続けていく。 「これが私の過去だ。つまらないだろ」 「話してくれてありがとう。辛い思いさせてない?」 「大丈夫だ。周がそばに居てくれるんだろう」 「うん。離れないよ」 たとえ進んだ先が奈落に続いていたとしても、もう手を離したりしない。一度生死の境をさまよい黒に辛い思いをさせた。次に死ぬ時は一緒だ。置いて行ったりしない。 黒の手を優しく握り、手の甲にキスを落とした。

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