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第36話 終わらない悪夢
接待で夜遅くに帰宅し、軽くシャワーを浴びて寝台へと潜り込んだ。黒は相変わらず酒に酔った様子もなく同じくシャワーを浴びて寝台へと潜り込んできた。
「明日は少し遅く起きても構わない」
「わかった。少しだけ話してもいい?」
抱きしめられたまま首を縦に振った黒が目を閉じて聞いていてくれる。
「これからどうするの?A国で何をするつもりなのか教えてほしい」
「秘密裏に進めているが、まずはA国のマフィアを傘下に入れるか一掃する。そして移民街を作り、ラストアイランドに住む者たちにもっと広い世界を見せてやりたい」
「道のりは長そうだね。特にマフィアを相手にするって大変そう」
「あぁ。平和的に交渉できれば良いが不可能ならば力を行使するしかない」
黒はこれからもA国だけでなく様々な国に爪痕を残し転々とするだろう。変わり行く世界を一番側で見ていられるのはとても幸せだ。
黒が目指すものはもっと膨大であり、今世だけでは到底消化できるものではないだろう。昔みたいな冷徹な黒に戻らないように上手く舵を取りながら、望む世界を手に入れられるように手助けするのが今の俺の使命である。
おそらくマフィアの一掃を行う上でかなりの犠牲が出る。その中に自分も含まれるかもしれない。
俺は共に幸せで穏やかに生きられればそれでいい。孤島で二人きり生涯を送るなんて思い描いたこともある。もちろん今もそれに変わりはない。
妹を助けて、黒と一緒に孤島で暮らす。観光や旅行で各国を巡り、様々な文化に触れて新たな人達と出会う。
あげればきりがない夢、希望。俺も強欲だ。黒はそのスケールが格段に違うだけ。
危険が伴い犠牲も多い。最終的に望むところが何かはまだわからない。それでも彼の作りだす世界には犠牲になった分の平和が訪れると願いたい。
「そっか。側で見ていたいな」
「心配せずとも誰よりも側で見ているだろう」
「そうだけど、目を瞑る度に瀕死の状態で死ぬかもしれないと不安になる」
本来、黒は簡単に人を切り捨てられた。それでも俺だけは特別に扱い側に置いた。
俺があの日撃たれて倒れる体を支えてくれた黒の表情を目を閉じるたびに思い出す。二度と帰ってこないんじゃないと恐怖して悲しんでいるような瞳だった。
薄れゆく意識の中で願ったのは長く生きて俺が見れなかった世界を見てほしいというものだった。自分の死が無駄にならないことを祈り、意識を手放したのだ。
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