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第36話 終わらない悪夢
最近、嫌な夢を見るんだ。自分が死んで黒が悲しんで薬物に走るって夢…」
「それは夢だ。以前も言っただろう。お前が死んだら私も後を追うと」
「そんなの嫌だよ。黒の野望はどうなるの」
「私の野望の中には周も含まれている。それを失って平然としていられない」
過去に置いていかれた恐怖を味わった黒だからこそ本当にやりかねない。間違いなく自ら幕引きをするだろう。
俺は愛する者の為なら死んでも構わない。それが残るものへの重荷なるとも知らず。人は己の欲望を押し付ける身勝手な生き物だ。
「黒が俺を守って死んだら生きる心地はしないと思う。黒もそう思っていたの?」
「あぁ、実際に生きた心地がしなかった。婚約者を自ら殺した時、あれだけ重たい引き金を引いたことはなかった。気が触れるくらいおかしくなりそうだった」
「婚約者か」
「裏切られたと何処かで思っていたから後を追うつもりはなかった。最愛の人だったのかも最近は怪しい」
俺と黒が進むことのできない婚約という立場に居たのに何故薬を求め肉欲関係を止められなかったのだろう。亡くなってしまっては聞くこともできない。
黒の中で永遠の存在としてこれからも記憶に居座り続け、初めて愛した女として消えることはない。
「最愛の人だったんでしょう。これからも変わらない。彼女のこと忘れられないだろうし、忘れろとは言わない」
「初めて好きになった人を殺した。忘れられないだろうな。だがお前のことも記憶に残る。最後に愛した男として誰よりも側にいるのだから」
「彼女のことを記憶から消したいくらい本当は嫉妬してるんだよ。俺だけのものにはならないんだって」
こんな風に醜い感情を持つほど俺は黒を愛している。誰かに執着したのは初めてで、今までは束縛せず奔放にしてきた。
「誰かのものになったことは今までない」
「でも好きだった人はいるだろう」
「周も同じだろう」
「最愛と呼べる人はいなかった。黒だけだ」
抱きしめられた体に擦り寄り鼻一杯に黒の香りを吸い込む。いっそ全て一つになれたら別れる恐怖を感じずに済むのに、現実は残酷だ。いつだって誰かが置いていかれる。
「私が初めて自分の意思で好きになり愛したのは周だけだ。出会ったのも父親に仕向けられたからではない」
「黒は生まれ変わりって信じる?」
「馬鹿らしいと思うかもしれないが、輪廻の輪を信じている。生まれ変わった先でもまた最愛の人と出会えるという」
馬鹿らしいとは思わないが、そういう事を黒が信じていたのは意外だった。宗教とか迷信に流されることはないと勝手に思っていたからだ。
生まれ変わったら俺はまた黒と出会いたい。今とは違う状況で出会って別の幸せを手に入れたいと思う。もしマフィアと警官という立場でなく別の職種に就いていたらどうなっていたのかと時折考えることがある。
後どのくらい生きられるかわからない。明日には死んでいるかもしれない。それでも俺は黒と生きたいと願う。
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