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第36話 終わらない悪夢

「俺も信じたい。来世でも黒と出会ってまた別の幸せを手に入れたい」 「そうだな。別の幸せを考えたことはなかった。マフィアとして生きることしか出来なかったからな」 「俺は妹のことがなければ警察官にはなっていなかったかもしれない。そうだったら黒とも出会ってなかった」 運命を信じたことはない。そんな俺を変えたのが黒だった。考え方も価値観も変えられた。 この人が運命の相手でなければ誰がそうだというのだろう。俺はこの少しざらつく硬い手を絶対に離さない。何があっても。 黒の唇が迫ってきた。鼻先が引っ付く位の距離で見つめ合う。躊躇なく晒される眼帯の下は他者が見ることのない特別なもの。その真相も知っているのはごく僅か。 黄色い瞳が真っ直ぐこちらを見つめ一切の威圧感がない。冷徹で人を見下していたはずのそれは全く面影を残していない。それでも仕事になれば鋭さが増し目が細められる。首領としてあるべき姿を取る為に。 「出会ったのは奇跡ということか」 「俺は世界に一人だけいる運命の相手だと信じている」 「運命の相手か。考えたこともなかったが、周がそうであればいい」 言われた言葉が素直に嬉しくて、自ら黒の後頭部に手を回して引き寄せ口付けした。この唇は俺だけのもの。今後誰ともさせない。 カサついて少し湿った唇が気持ちよく啄んでくる。こんなに気持ちいいキスは黒とするまで知らなかった。舌が口内を動き回り敏感な部分を刺激されると途端に体が跳ねる。 簡単にはしないと言うキスを俺にはしてくれる。特別な存在であることを態度で感じる。それでも不器用な黒はなかなか言葉にしない。不安にはならないけど寂しいとは思う。それでも幸せだ。 「黒。ん、したくなるから」 「しないのか?」 「だってこれ以上は」 離れていった唇の代わりに尻を揉まれた。窄まった所を何度も指で撫でられるだけで、そこは簡単に反応を示す。黒の形を完全に覚えた中は想像するだけで蠢く。 「ここは素直に欲しいと言っているがな」 「んん、触らなければ、そんな風にならないって」 「触れられると思い出すのか。どんな風に抱かれているのか」 耳元で囁かれ体が痙攣する。したくないと言ったら嘘になるが、明日のことを考えたら素直に抱いてとは言えない。 明日はA国のあるマフィアの首領との会食がある。平和的に解決できればいいが、できなければ銃撃戦になる。そんな時に腰が砕けて戦えないなんて情けないことできない。 「思い出すけど、ダメ。明日は重要な仕事があるから」 「私はその気だったんだが仕方ないな。明日は周の力が必要になる」 そう微笑んで言った黒に温もりを感じたくて擦り寄った。守りたい存在を確認するように抱きしめた。 感触が消えないように何度も背中を撫でて確かめ、眠りについた。明日のことはわからない。それでも一瞬一瞬を大切に生きたい。|黒璃秦《ヘイリーシン》と共にーー

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