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眩しさの通過点
紅夜のことを、気味が悪いと思っていた。あんなふうに誰かに心配されたり、構って貰ったりしたことがなかったから、京義は一体如何すれば良いのか分からなかった。どうすれば正解なのかを知らなかった。それは京義の過去に全く前例がない事実だった。
「・・・」
「・・・」
「こっちは俺のクラスメイトで友達の嵐!んで、こっちは俺と一緒に住んでる京義!」
そう、だからやっぱりその時も一体どんな顔をしていいのか分からなかった。日光の直接当たる屋上、京義は学校に居るときは決まってそこで眠ったりお昼を取ったりして過ごしていた。そこにいきなり、紅夜と紅夜の友達らしき人間がやって来たその時も。
「・・・オイ、あいはら」
「はい!何やろなー?」
「・・・何の真似だよ」
「せやから、嵐とも友達になったらええねん!むっちゃええ奴やから!」
「はぁ!?ちょ、ちょっと紅夜!」
「はいはいー?」
「俺こんな奴と仲良くする気なんてねぇぞ!」
「・・・こんな奴?」
「何ゆうてんねん!嵐は京義のこと悪い人やないってゆうてくれたやん!」
「そ、そりゃあんときは・・・」
「やろ!やったら仲良くしたらええねん!」
万事解決!と嵐の手と京義の手を取り、無理矢理握手させる紅夜は、何が楽しいのか知らないが、にこにこと嬉しそうだ。嵐は紅夜に向かって不平不満を大声で言っていたが、京義は相変わらずの無表情だった。
「だーかーらー!俺は薄野なんかと仲良くなりたくないんだってば!」
「な、何てことゆうねん!嵐なんてもう絶交や!」
「はぁ?何でそんなことになんだよ!」
「それに薄野やのうて京義!京義にはちゃんとけいぎってカッコええ名前もあんねん!」
「しーるーかー!大体お前だって苗字呼びされてんじゃねーか!」
「!!」
「・・・」
目の前で繰り広げられる煩いだけの喧嘩を見ながら、京義は一禾に持たせてもらった弁当を開いた。静かな場所が京義は好きだったが、こうなってしまっては仕方ないし、紅夜の手前席を外すことも出来ない。大人になったな、と自分を褒めてあげたい京義だった。
「あぁ!お弁当!そうや、お昼一緒に食べようと思って俺も持ってきてん!」
「何でコイツと一緒に食べるんだよ!教室帰るぞ!」
「嵐は帰ったらいいやん」
「!!?」
「俺は京義と食べるもーん。今日も一禾さんのおべんとは美味そうやー・・・!」
「・・・こーうーやー・・・」
「何や、好きにしたらええやん」
「・・・じゃぁ俺は帰って食べるからな!」
「えぇ!」
そんなことを言いながら、嵐が荷物を持ち上げ、行ってしまおうとするとお弁当を開けっ放しにしたまま、紅夜は慌てて嵐の後を追った。京義はそれを見ながら、一禾の作った甘くも辛くもない、丁度良い味の卵焼きを口に運んだ。屋上には自分たち以外は誰もいない。空は高くて、やっぱり青い。一段と日差しの強くなった今日、夏はもうそこまで来ているのかもしれない。
「何でやねん!一緒に食べたらええやろー!」
「じゃぁ教室帰るか?」
「何でそうなんの・・・」
「どっちかにしろ!」
「・・・京義はえらい別嬪さんなんやで・・・」
「・・・は?」
「嵐も気に入るわ!京義の顔よう見てみぃや。ごっつ綺麗な顔してんねんって」
「顔かんけーねーだろ!」
「えぇ!?」
嵐が紅夜の手を振り払って、階段を下りていく。残された紅夜は半べそで京義の側に戻ってきた。京義はその間にもそれを見ながら、特に何の感想もなく、ただ食べ続けていた。
「・・・はぁー・・・」
「・・・」
「いつもはあんなんちゃうねんで?ホンマにええやつやねん・・・」
「・・・」
「何でやろ、こんなカッコええ京義のどこが気に入らんのやろ・・・」
「・・・相原」
「・・・え、なに?」
「俺は別に良いから、友達のところ行ってやれよ」
「・・・へ?」
「気まずくなるだろ、俺は良いから」
一禾のお弁当は今日も、どこの弁当屋にも負けない、完璧だった。二人の為に一禾が6時起きで作っているだけある。京義は二人が言い争っている間に食べ終わってしまった弁当の蓋を閉めた。食事さえ終われば、京義はもうすることがない。後は少し眠るだけだ。
「ええー・・・」
「・・・マジで良いから」
「・・・ホンマに京義はええ奴やなぁ・・・」
「・・・」
紅夜が弁当を直して、立ち上がり申し訳なさそうに笑った。そしてようやく紅夜が去っていった。屋上の扉が閉められれば、ここはいつものように静寂を取り戻した。京義はふうと息を吐いて、コンクリートに寝転がった。日差しは強いが、まだ暑いと思うほどではない。京義はそれに目を細めて、そして目を瞑った。
別に誰に見つからなくても、誰に知られなくても、ここで真っ直ぐ生きていられると思っている。誰の証明も待たずに真っ直ぐ立ってみたかった。瞑った目の間から、僅かに差し込んでくる光が、どうも眩しい。
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