17 / 41
第三章 最後の一線 2 破瓜
馨には最近不満がある。遼真が最近明らかに馨のことを避ける。花見の晩に何が起きたのか馨は断片的にしか覚えていないが、あの日を境に遼真の態度が変わったのできっと何かがあったのだろうと推測する。
朝起きたら知らない天井が見えて一瞬慌てたが、ベッドからは知っている匂いがしたし、実際リビングを覗くと遼真がいたので安心して、飲んでいたコーヒーを一口もらった。二日酔いで頭が割れるように痛く、頭痛薬をもらった。
「しっかし、ここがおまんのマンションかえ。げにまっこと、立派なとこに住んじゅうのう」
「そうでもないよ。リフォームしたから新しく見えるだけで。それより、体は大丈夫かい」
「まぁ、頭痛いだけやき。けんど、もうちっくと寝ようかにゃ」
「そう。じゃあベッドで寝てくれないか。僕はこっちにいるから」
遼真は突き放すような口調で言い、馨は寝室へと追いやられた。昼過ぎまで寝て、起きると遼真の姿はなく、合鍵とメモ書きが置いてあった。馨は合鍵を使って部屋を出、一人でマンションを去ったのだった。
それから、遼真の様子がおかしい。馨を遊びに誘わない。電話も滅多にしてこない。馨から電話をして今度また競馬でもやりにいかないかと誘っても、仕事が忙しいからと断られる。恥を忍んで誘ったというのに無下にされ、思わずスマートフォンをぶん投げた。むしゃくしゃしてパチンコを回すことが増え、煙草の減りも早くなった。
そんなことが二週間、三週間と続き、馨は再び遼真のマンションを訪れる。借りっぱなしの合鍵を返したいという名目で、一応約束は取り付けていた。
朝から鬱陶しい曇天だったが、夕方から雨が降り始めた。馨はコンビニで拾ったボロ傘を差し、遼真の住む駅近高層マンションへと向かう。玄関先で手短にやり取りを済ませると、遼真はさっさと馨を追い返そうとした。しかし馨は強引に部屋に上がる。
「ちょっと、馨ちゃん」
遼真が咎めるが構わなかった。
「わしがおったらなんぞ困ることでもあるがかよ。女でも連れ込んじゅうがか?」
「まさか、そういうわけじゃ……」
「ほいたら別にえいやいか。今更気ぃ遣う仲でもないがやき。酒買うてきたき、飲もうや」
「悪いけど……あんまり、お酒って気分じゃないんだ」
遼真は頭を抱えて溜め息を吐く。
「何じゃあ、わしの酒が飲めんがか?」
「……じゃあ、一本だけね。あんまり長居はしないで」
しかし馨はなかなか腰を上げない。缶ビールを空けると、今度はチューハイを飲み始める。テレビでロードショーを見始め、つまみも順調に減っていく。
「ねぇ、馨ちゃん。そろそろ、帰って」
遼真がせっつく。心なしか頬が上気して、息もわずかに切れている。その理由を馨は知っている。
「にゃあ、効いてきたがか?」
「……何が」
「薬」
馨はにやりと口角を上げる。遼真は目を見張り、警戒して後退る。
「そがぁに危険なもんやないぜよ。ちっくと気持ちようなれるっちゅうだけのもんじゃ」
「だからって、盛るなんて」
「大丈夫大丈夫。わしも飲んでみたけんど、おかしなことはなーんも起きやせんき。安心しぃ」
馨は揚々と髪を解いて振り乱す。風に吹かれたように長い髪が躍り、肩に流れた。
瞬間遼真は目の色を変え、馨に掴み掛かった。長い髪は床に散らばり、馨は後頭部を強かに打った。遼真は馨を組み敷いて、両手両足を力任せに押さえ付ける。その鬼気迫る表情に馨は怯えた。本能的な恐怖が湧き上がる。こんな恐ろしげな顔をした遼真はついぞ見たことがない。普段は飄々として、くどいほどに紳士なのに。
「りょ……ま」
「どうして、こんなことをするんだ。ねぇ、馨ちゃん。僕がどれだけ、我慢してるかも知らないで」
「りょ……おこっちゅう?」
怒っている風なわりに、遼真の口調は平坦で機械的で冷ややかだった。そのまま馨の首筋に顔を埋め、首筋から耳たぶをべろりと舐め上げる。ぞくぞくとした感覚が走り、馨はぶるりと体を震わせた。
「ひぁ……」
勝手に変な声が出た。口を押さえたくても両手が拘束されている。
「かわいい声。もっと聞きたいな」
「やぅ……ぅ、ふ……」
完全に遼真のスイッチが入った。容赦なく耳を愛撫し、舌を突っ込んではわざと水音を立てて舐める。自分の蒔いた種なのに、馨は恐ろしくて堪らなかった。酒と薬のせいで体は熱いのに、なぜか恐怖に震えていた。
「ひ……う、ぅぅっ……」
「ねぇ、馨ちゃん。僕のここ、君のせいでもうこんなだよ。責任、取ってくれるんだよね」
ごり、と硬い肉棒を押し当てられ、馨は小さく悲鳴を上げた。遼真は軽く腰を振り、馨の尻や太腿にそれを擦り付ける。
「ひゃ……あ、あ、」
「わかるだろう? これをここに挿れて、ナカを擦って、奥を突いてさ……そういうことがしたいんだよ、僕は。わかってるよね」
「ぅ、ぅう……」
「ねぇ、馨ちゃん。僕は君を、犯したいんだ」
馨の双眸からとうとう涙が溢れた。堰を切ったようにぼろぼろと溢れ出る。一度流れ出てしまうと止め処なく、馨はしゃくり上げて泣いた。
「……ごめん。泣かすつもりはなかった」
遼真は冷静に言い、馨を解放した。
「だけど、これでわかっただろう。君にはまだ、こういうのは早いんだよ。所謂……」
遼真は何かを言いかけ、唇を噛み締めた。
「とにかく、今日はもう帰ってくれないか。でないともっと酷いことをしてしまうよ。僕はもう、君を傷付けたくないんだ」
「や……やじゃ」
「どうしてさ。馨ちゃんだってわかってるだろう。セックスとかキスとか、反吐が出るほど怖いはずだ。だからもうしない」
「ち、ちゃう……怖いなぞ、そがなこと……」
馨は強がった。しかし遼真がぐっと顔を近付けると、馨は反射的に目を固く瞑って唇を強張らせる。遼真は溜め息を吐いて、何もせずに顔を離す。
「ほら、やっぱり怖がってる。拒絶してる」
馨ちゃんが出ていかないなら僕が出ていく、と言わんばかりに、遼真はすたすたと玄関へ向かう。ガチャ、と鍵の開く音がする。しとしとと雨の降りしきる音が響く。
「っ……そがぁなこと! わしが一番、誰よりもよう知っちゅうわ! このアホ!」
突然、馨が大声で叫んだ。遼真は驚いて足を止める。扉は再び閉まる。
「じゃけどわしは、おまんがまたいなくなることの方が、わしは、怖い!」
馨は弾かれたように駆け出し、遼真の背中に飛びついた。遼真は若干バランスを崩すが立て直す。
「もう二度と、離れとうない! どういてわからんがよ、このにぶちんがぁ……」
馨は遼真に縋り付いて嗚咽する。遼真は大いに惑い、振り向くことすらできない。
「ひょっと、わしみたぁなお手付きは抱けんちゅうことなが……?」
「まさか、」
「ほうじゃ。わしゃあどうせ穢れた身やき、おまんは――」
「違う!」
今度は遼真が大声を出す。馨はびくっと体を強張らせる。遼真はようやく馨の方を振り返る。肩に手を回し、そっと抱きしめた。
「違うよ、違うんだ、馨ちゃん。怖がってるのは僕の方だ。まだ赤ちゃんだった君と出会った時から、僕はずっと君が大好きで、大切にしたくて、守りたかった。……なのにあの日、あの夏の日、僕は君を見殺しにしたんだ。穢れているのは僕の心の方だ。あれから僕は、君のそばにいることが怖くなったんだ……」
遼真は苦しげに声を詰まらせた。意外な言葉に馨は呆気に取られた。
「……まさか、おまんがそがぁに思っちょったらぁて、知らざった」
「笑ってくれよ、馨ちゃん。僕はいまだにあの頃の、ちっぽけな僕のままなんだ。……まるで、あの日から全てが止まったままのような気がする。辛いのは君の方だったのに、僕は自分のことばっかりで。あれ以上、君に怖い思いをさせたくなかったんだ」
「……ほうでもない。りょーまにいやんは、いつでもかおるを優先してくれたちや。受験勉強で忙しゅうても、かおると遊ぶ方を優先してくれた。やき、かおるは、りょーまにいやんさえおれば、他には何にもいらなんだのに」
大の男が二人、小さな子供のように抱き合って昔話を交わす。
「僕はもう二度と君を怖がらせたくないし、傷付けたくもないし、泣かせたり怯えさせたりもしたくないんだ。だから――」
「いんや、それはちゃう。あの頃のかおるなら、りょーまにいやんにならなんぼでも怖いことされてもえい、言うち思う」
遼真はどきりとして馨の顔を見る。しかし馨は遼真の肩に顔を埋めて頑なに見せようとしない。
「わしかてにゃあ、怖いもんは怖いぜよ。けんど、いつまでも怖がりよっても埒が明かん。わしは、おまんになら、抱かれちゃってもえい、思うたき……」
遼真は思い切り反動をつけ、勢いよく馨を抱き上げた。突然のことでバランスを崩した馨は、泡を食って遼真にしがみつく。
「なん……なんじゃあ、急に……」
「今のって、本気なのかな」
「は、え……」
遼真は馨を抱きかかえて寝室に運び、ベッドに寝かせた。その上にゆっくりと覆い被さる。馨は息を呑み、顔を背ける。
「……やっぱりやめとこうか。君がいくらいいと思っても、体の方はまだ……」
遼真は馨の髪から頬を撫で、服の上から体を撫で回す。馨は遼真の目を見られず、微かに震えながら遼真の手に撫でられていた。ここまできて、遼真も馨もいまだに躊躇している。
「今日はもう、このまま寝ようか。色々喋ってすっきりしたし」
「や、いやじゃ……」
「でも、」
「だめじゃ! きょ、今日はそのつもりで来たがや……やき、もう……もう、抱け!」
馨は叫んだ。叫んだが、振り絞ったその声は震えていた。
「……本当に、いいの?」
「えい言うたらえい! んっ……」
不意に唇が重なった。馨は固く目を閉じ、唇を強張らせる。口を開けるなどもってのほかで、ずっと真一文字に結んだままである。遼真は馨の緊張を解すように、慎重に馨の唇を舐めた。
「んん……りょ、ま……いきが……」
遼真が口を離すと、馨は激しく息を弾ませる。
「鼻で呼吸するんだよ」
「わっ、わかっちゅうっ……」
「次はもっと深いやつ、してもいいかい」
「ふかいの……?」
「うん。息はもっと苦しくなるし……そこまでいったら、僕はもう止まってやれないかもしれないけど。君がいいと言ってくれるのなら」
馨はなかなか答えない。遼真は馨の唇を指でなぞり、少し開いて捲れさせた。今が旬のイチゴのように、いやに鮮やかに艶々光る。薄いわりには柔らかく、押し込めば弾き返す弾力がある。
「ぅ、……え、えい……」
馨はとうとう呟く。
「いいのかい? もう止まれなくなるよ」
「えい、言うたら、えい……や、やさしゅうしとうせ……」
再び唇が重なった。馨は相変わらず目も口も結んだままである。
「馨ちゃん、少し口緩めて」
「んん……?」
「口開けて。ちょっとでいいから」
遼真が舌を滑り込ませると、馨は体を跳ねさせる。
「んむ? ……んっ、んんっ……」
「平気?」
「はぁ、ん……えい……」
「じゃあもっと……」
「えぁ……んむ、ん……」
馨は閉じそうになる唇を一所懸命に開いて遼真を受け入れた。遼真の舌はまるで一つの優しい生き物のように馨の口内を弄(まさぐ)った。歯列をなぞり上顎を撫ぜる、その動きを追いかけるうちに馨の舌もにわかに躍り出し、遼真の長い舌に絡み付く。たっぷりの唾液が二つの口から溢れ出て唇の端を伝う。
「りょ、……ま、待っ……くるしい」
口を離すと銀糸が引く。馨は胸を押さえ、苦しげに息を整えた。
「はぁ、し、死ぬかもしれん……頭ぁ、ぐるぐるしゆう……」
「大丈夫? 気持ち悪くないかい」
「だ、大丈夫……じゃけど、心臓がどきどきしておかしい……体も熱うて、頭も、ぼーっとしよる……わし、こんまま死ぬがか?」
「死なないよ。好きな人とこういうことすると、みんなそうなるんだよ」
「ほんに?」
「うん。僕も今、すごくどきどきしてるよ。だから、ね」
遼真は馨の下穿きにするりと手を差し入れる。寝巻のようなスウェットなので、ベルトを外す手間もない。遼真は直接、馨のそれに触れた。
「ひゃ!」
「大丈夫、ちゃんと勃ってる。痛いとか気持ち悪いとかないかい?」
「ぁ、わ、わからん、ようわからん」
遼真は馨のそれを撫でる。案外慣れたような手付きで、掌で優しく包むように撫でる。馨は両手で顔を覆い、初めての感覚と羞恥心に悶えていた。
「ゃ、あ、やじゃ、やっ、こわい、りょーまっ」
馨が訴えると遼真は即座に手を止め、馨の顔を心配そうに覗き込む。
「怖い?」
「だってこがぁな……は、初めてやき……」
「けど、自分でもするだろう? それとそんなに変わらんよ」
亀頭を掌で挟まれ、ぬるりと滑るように擦られる。馨はびくびくっと腰を跳ねさせた。何とも言えない、悲鳴に近い嬌声を上げる。
「やっ、やめぇっ……こし、こしぬけてまう……」
「けど馨ちゃん、今自分で腰振って、僕の手に擦り付けてるじゃないか」
指摘されて気づく。羞恥が限界突破して、馨は涙を零した。洟を啜りながらも、くねくねと腰を動かす。先走った粘液を遼真の手に擦り付け、粘液を纏いぬるぬるになった遼真の手が馨の敏感なところを擦る。さながら永久機関である。ぴりぴりした甘い痺れが全身を駆け巡るが、それをどこへどう逃がせばいいのかわからず持て余す。
「あぅぅ……いやじゃあ、こがぁな、……ひぅ、う、りょーまぁ」
「僕は今何もしてないよ。馨ちゃん、気持ちいいんだね」
「わっ、わからん、……けんど、とまらん……っ」
「それが気持ちいいってことだよ。一回出しとこうか」
「だ、だす……?」
「一回イッたら落ち着くから」
そう言うや否や、遼真は馨のそれを逆手で握ってごしごし扱き始めた。馨はもう何が何だか訳がわからなかった。いやいやとかぶりを振ってひたすら喘ぐことしかできない。体の内に渦巻く熱が快感なのかどうなのかわからない。脳が正常に機能しているかどうかすら怪しい。腹の中でぐるぐる、頭の中でも熱いものがぐるぐるしている。
「あぅッ、あぁ、ッ……き、きもち……きもちえい……っ!」
ひとりでに腰が跳ね、馨は吐精した。びくん、びくん、と何度か痙攣する。しばらく息ができず、溺れた金魚のように喘いだ。
「馨ちゃん」
遼真が耳元で囁く。馨ははっと目を開いた。一瞬意識が落ちていた。
「ごめん、やりすぎたね」
「わ、わしは……死んだが?」
「死んでないよ。一回イッただけ」
「逝った? や、やっぱり死んじゅう」
「死んでないって。ちゃんと生きちゅうよ」
遼真はふんわりと馨を抱擁した。硬いものが馨の腰に触れる。遼真は恥ずかしそうに目を伏せた。
「おまん、これ……」
「いや、ごめん。そういうつもりじゃなかったんだけど」
「この期に及んで何を言いゆうが。これ、こんままやと辛いろう?」
テントを張った遼真の股間を、馨はすりすりと撫で回した。触るとますます張ってくる。馨は可笑しくなって、おもちゃで遊ぶみたいにそこを弄くった。
「ちょっ、馨ちゃん」
「にゃはは、何じゃあ、さっきはあがぁに怖い顔してわしを追い詰めたくせにぃ。ずいぶんと情けない顔しゆうのう、りょーまぁ」
「馨ちゃ、ほんまにやめぇ」
「どういてぇ。気持ちえいくせに。ほれほれ、わしもおまんをイかせちゃろう」
「も、ほんに、やめ」
遼真はいきなり起き上がり、馨に馬乗りになって両手を縫い付けた。その表情は鬼気迫るような、というより切羽詰まったような表情をしている。見慣れない遼真の姿に馨は怯えた。
「りょ……」
「ごめん。怒ってるんじゃないよ。だけどその……僕も結構いっぱいいっぱいだから、あんまり煽られると我慢できなくなる」
馨は遼真の股間に目を落とす。今まさに飛び立とうとしているロケットのようではないか。しかもその目的地は己の股座ときている。馨はごくりと喉を鳴らした。
「別に、我慢せんでもえい、言うたら?」
遼真もごくりと喉を鳴らす。
「すっ、好きにしたらえい。わしの全部、おまんにくれちゃる……」
遼真は馨の下着に手をかけ、するすると脱がした。馨は赤面し、顔を背けて視線を逸らす。
「本当に、いいんだね」
「えい……何回言わすが、このにぶちん」
「ごめんね。ゆっくりするから、痛かったらすぐ言って」
ローションなど用意しているわけもないので、遼真はオリーブオイルを台所から持ってきた。自身の右手にぶち撒け、馨の尻にもとろとろと垂らす。油を丹念に塗り込んで、蕾を徐々に押し広げていく。そっと指を入れてみると反射的に馨の腰が逃げる。
「苦しくない?」
「ぅん……むずむずしゆう」
「痛くないんだね」
「はぅ……んん……き、きもちえい……」
馨は目を瞑って遼真の愛撫を受け入れる。あの夏の日のことを、どうしようもなく思い返していた。
夏真っ盛りの、一番暑い時期だった。太陽が容赦なく照り付け、汗も一瞬で乾いた。蝉がわんわん鳴いて、藪蚊に全身くまなく刺された。やんちゃ盛りのあの頃はいつでも全身痣だらけ、生傷だらけ。しかしあの日負った傷だけはまるで別物だ。あの日、騒がしい陽射しの届かない、息の詰まるような狭い場所で――
「馨ちゃん」
遼真の声で、馨は追憶の旅から戻ってきた。いつのまにか素っ裸に脱がされている。
「ごめんね、飽きちゃったかい?」
「ううん。おまんに触られるがは、どういてか全然嫌な感じがせんち思いよっただけじゃ」
「……っ、それって……」
「何を照れよる。指でするんはもう終わりなが?」
「うん、たぶん大丈夫。かなり解したから……」
遼真は粛々と服を脱ぎ、裸になった。その中心にそびえるものがあまりにも立派で、かつモンスターのようにおどろおどろしい見た目をしていたので、馨は思わず両目を塞いだ。しかしちらりと指の隙間から盗み見る。赤黒く光る猛々しいものが、どくんどくんと脈打っている。まるで生娘のような反応をする馨を遼真は気遣う。
「馨ちゃん?」
「や、いや、だって……そっ、そがぁに太いらぁて、思わんで……」
「えへへ、そうかな?」
「照れなや。褒めちゃあせん……」
「けど……僕かてもう限界ぜよ。馨ちゃん、入ってえい?」
丁寧に伺いを立てつつ、遼真は馨の膝を持って股を開かせる。中心に陣取り、避妊具を被った男性器を蕾に押し当てる。馨はびくびくしながら、指の隙間からその様を凝視した。
「入るぜよ、馨ちゃん」
「待っ、そがな太いの、は、入らん――」
馨が怖気づいても遼真は止まれない。ぐっと押し込んで、そのまま突き抜けた。
「ひぃ゛っ……ふ、太……」
「まだ半分やき、もうちっくとがんばって」
「いやじゃ、あ゛っ、……もう入らんっ、太うて、入らんん゛っ」
「あんまり褒めよると、もっと太うなってまうよ」
「いかん、いかんちやぁ、腹ぁ裂けてまうき……りょーまぁっ」
「大丈夫やき、落ち着いて、深呼吸して」
人体とは神秘なもので、絶対無理だと思ったことが案外可能だったりする。受け入れる器の二倍の容量はあろうかという巨大な肉塊がぴったり収まってしまった。寸分の狂いもなく、馨の隙間をぴったり埋める。
「りょ……くるし……」
「ごめんね、苦しいね」
「やぅ……う、くるし……」
遼真は落ち着かせるように馨の頭を撫でた。すると馨がはらはらと涙を流すので、遼真はぎょっとして腰を引いた。
「ち、ちが……抜かんで」
「けど、泣いてるじゃないか。慣らすの足りなかったかな」
「ちゃう……もう、苦しゅうないき、抜かんで」
「無理してない?」
「しやせん……やき、もっとこっち来て、ぎゅうってしとうせ」
馨は子供のようなポーズで抱っこをねだった。上半身がぴったり密着し、馨は夢中になって遼真にしがみついた。胸から腹から腰から局部まで、全てが一つに絡み合う。素肌が直接触れ合い、うっとりするくらい心地いい。
「りょーま、りょーまぁ」
「急にどういたの、馨ちゃん。また泣いて」
遼真の舌が馨の涙を優しく舐め取る。
「なんちゃじゃないき、……りょーまぁ、もっと……」
馨は遼真を掻き抱いてすりすりと頬を寄せる。髪の毛の匂いを嗅ぎ、口に含んで甘噛みする。嗚咽のせいか、腸壁がひくひく引き攣れる。
「……わしゃあずっと、おまんとこうなることを待ちよった気がする」
「馨ちゃ」
「りょーまぁ、好き」
遼真はついに我慢をやめた。乱暴に腰を打ち付け、奥まで突いて擦り上げ、痙攣する蜜壺を掻き回した。馨は上擦った嬌声を発する。
「僕かて、ずうっと待ち詫びたよ。君とこうなれる日を、ずっとずっと待ちよった。こんな気持ちになるなんて、知らざった。馨ちゃん、好きじゃ、ほんに好き、世界で一等好きやきに……」
三擦り半以上は持ったが、しかしほんの数往復で果てた。遼真はばったりと馨の上へ倒れ込み、愛おしげに抱きしめる。
「まっことよかったちや。ありがとう、馨ちゃん」
馨はふうふうと息を切らし、こくりと頷いた。
「けんど、なんぞ眠い……こじゃんとだれたき、眠うて眠うて……」
瞬く間にまぶたが下がり、馨はすとんと眠りに落ちた。
ともだちにシェアしよう!