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第四章 同棲 3 花火
同棲を始めて二か月ほどが過ぎた、七月のとある土曜日。その日の夕ご飯はたこ焼きだった。たこ焼き器を使い、大量に作った。その日遼真は夕飯作りに精力的で、わざわざ鶏の唐揚げを揚げたり、たこ焼き器でベビーカステラを焼いたりした。馨はそれらをつまみにのんびり酒を飲む。
すると突然、大きな爆発音が響いて静寂を切り裂いた。馨はびっくりしてビールの缶を落としかけたが、遼真は浮き立ったような雰囲気ですぐさまベランダへと駆けていく。
「花火、始まったよ」
再び破裂音が鳴り、閃光が夜空を白く染める。
部屋の灯りを消し、テーブルを窓際に移動させて花火を眺めた。毎年恒例、近所の河川敷で行われる花火大会らしい。川からマンションまでは結構距離があるが、花火は案外綺麗に大きく見え、迫力があった。
遼真は、今日花火大会があることも部屋からそれが見えることも以前から把握していて、だから夕食にたこ焼きを作ろうなどと言い出したのだ。家にいながら祭りの雰囲気を味わえる。
「おまん、知っちょったならもっと早う言いや」
「言ったよ。何回か言ったのに、馨ちゃん全然聞いてないんだもの」
いくつもの花火が絶えることなく夜空を彩る。熱心に空を眺める遼真の横顔を、七色の雫がきらきら照らす。
「りょーまは花火が好きなが?」
「うん。やっぱり、日本の夏って感じがするし。あの丸い花火が、特にいいんだよね。ここからだと落ち着いて見れるし」
「ふぅん」
馨は花より団子ならぬ花火よりビール派だったが、花火を見つめる遼真の横顔を見ていると、花火自体もなんだかとても良いもののように思えてくる。つい食指が動いて、遼真の男の部分に手を伸ばした。
「ちょっ、馨ちゃん? 何だい急に」
「別に。おまんは黙って花火見よったらえい」
「そんなこと言われても……」
馨は本当に手慰み程度に遼真のそこを弄(まさぐ)った。酒を飲んだり何か食べたりしながら、視線も窓の外を向いていた。しかし遼真のそこはみるみるうちに硬く張って、窮屈そうにズボンを押し上げる。くっきりと浮き上がったその輪郭に沿って、馨は指先ですりすりと撫でた。
「馨ちゃん、」
「んー?」
「ほんまにそれ、やめとうせ」
「にゃはは、花火よりこっちがえいか?」
「っ、ああもう」
遼真は悔しそうに舌打ちをして、その場に馨を組み伏せた。夢中でキスをして、肛孔に指を潜らせる。馨ははしゃぐ子供のように、きゃあきゃあと足をバタつかせた。
「朝までしちょったき、すっと入るかもしれんにゃあ」
「もう、あんまり焚き付けないでくれよ。昨日はなかなか乗り気になってくれなかったくせに」
「さぁ、どういてかはわしにもわからんけんど……んぁ、そこ……」
「ここ、気持ちいい?」
「あぅ、んん……わからん……りょーまのこと見よったら、急に、しとうなって……」
馨は口元に手をやり、あえかな吐息を漏らす。窓の外では菊の花のような真ん丸い花火が咲いていた。大きいのや小さいのが続けて開いて、夜空を艶やかに濡らす。
二人はベランダに出た。ベランダに出て、間近に花火を見ながら交わった。馨は欄干にもたれ、後ろから突かれる度に身を捩った。両隣の部屋から灯りが漏れていたが、気にしている余裕はなかった。
「あんっ、あっ、りょーまぁ、そこ、そこやじゃ、あっ」
「気持ちいいの?」
「ちが、あっ、わ、わからんっ……んぅっ、や、やじゃあ……っ」
「けど、馨ちゃんのここは嫌がってないみたいだけど」
ここ、というのはピンと勃った雄蕊のことなのか、はたまた雄を咥え込む蕾のことなのか、遼真がどちらを指して言ったのかわからないが、ともかくどちらも嫌がってはいなかった。しかし中のとある箇所を刺激されると、馨はどうしても嫌だと口走ってしまう。そこはまるで快感を生み出すスイッチのようで、そこを擦られると腰がじんと痺れて重たくなる。
「りょっ、りょーまぁっ、あん、あっ、いかん、」
「何がいかんの……馨ちゃん、かわいいよ」
「ひっ、い、いかん、もぉでる、でてまう」
「いいよ、出しなよ」
遼真は甘く囁いて馨の中心を愛撫した。後ろから突かれて前を抜かれて、馨は引き絞ったような悲鳴を上げる。
「ひぃ゛ッ……あ゛っ、ち、ちがぁ……」
「いいよ、出して。ここ外だから」
「ちがっ、ちがぅうっ、……しょ、小便、小便でるきっ」
「ああ、そりゃまずいな」
遼真は冷静に言う。テーブルに手を伸ばし、二リットルのペットボトルを手にした。中身の緑茶がまだ残っている。
「馨ちゃん、これ飲んで」
「はぁっ? の、飲めん……も、漏れるち言いゆうろうが、こんアホぉ」
「やき、これ飲んで空にして、そこにしたらいいじゃないか」
「は、おまん、何言うて……」
「僕も半分飲んだから、ね、馨ちゃん」
無理やり飲み口を突っ込まれてはもう飲むしかない。しかし二口ほどで咳き込んでしまい、吐き出してしまう。
「も、もぉいやじゃっ、いじわるしなやぁ、りょーまのあほぉ」
「もう、わがままなんだから」
結局遼真が全部飲み干して、空になったボトルの口を馨の股間に宛てがう。
「ほら、もう出していいよ」
馨は顔を赤くして息む。しかし何も出ない。そもそも、ベランダでペットボトルに排尿させられるというこの状況こそ、訳がわからない上に死ぬほど恥ずかしい。馨はとうとう涙を滲ませた。
「ひぐっ、うぅっ、なんも出んよぉ……したいのに出んん」
「困ったなぁ」
遼真は呟き、馨にボトルをしっかり持たせた。そして、いまだ天を向いたままの芯を再び扱き始める。馨はびくっと腰を揺らした。
「あ゛ッ、ま゛っ……」
「たぶん、一回イかないと出ないんじゃないかな」
「ひぁ゛っ、やっ、ま、待っとうせ」
「けど、僕ももう出したいし……ね、馨ちゃん。撒き散らしてもうても構わんき、こんまま、ね」
先ほどよりも激しく、腰を打ち付けられて前を抜かれた。馨は長い髪をぐしゃぐしゃに振り乱して喘ぐ。
「んゃ、やじゃあ゛ッ、そこ、そこ押さんでぇ、漏ってまうきぃっ」
「出していいんだよ、馨ちゃん」
浅瀬にある、あの快感を生み出すスイッチを突かれると、もう立っているのも苦しい。膝がガクガク震えて力が抜ける。それでも、遼真がしっかりと腰を掴んでいるため座り込むことができない。
「あぐっ、あ゛ッ、あぁいかん、いかんちやぁっ、りょーまっ、りょぉまぁ゛ッ!」
河川敷の花火大会はフィナーレを迎える。無数の大輪の花がどっかんどっかん打ち上がって、夜空はまるで炎のように橙色に燃え盛って、無数の火の粉がぱらぱらさらさら天を滑って、色とりどりの光の粒が馨の腕をも染め上げる。
「ひぅ゛……い、いく、いく゛ぅ……ッ!」
刹那、馨は胸がぎゅうっと切なくなった。空のボトルに白濁した粘液が放たれ、間髪入れずに琥珀色の液体が勢いよく流れ込む。馨は腰を震わせ、恍惚としながら全てを出し切った。
「あ゛っ……はぅ……ん゛ん……」
遼真もほとんど同時に果てた。夢中で馨を掻き抱いて、奥の方へと腰を擦り付ける。遼真の熱を孕んだ吐息が耳たぶをくすぐり、馨はそれだけでまた切なくなる。
「りょ、ま……」
キスを求めて振り返る。そっと唇が重なったかと思うと、激しく舌が入り乱れる。唾液を交換し、熱を分け合う。今夜は熱帯夜だ。
*
祭りの喧騒はどこへやら、二人は暗い静かな部屋で水分補給をしていた。暑い中で激しい運動をしていたものだから、水分も塩分も足りていない。ひとしきり休憩した後、馨はふぅっと深い溜め息を吐いた。
「……おまんも、なかなかの数奇者じゃのう」
「まぁ……正直、自分でもちょっと引くよ」
「いや、悪い意味やのうて……普通、嫌じゃろ。いくら好きでも、あがぁな汚いところは見とうないろう」
「けど、小さい頃はよく並んで立ちションとかしよったし……馨ちゃんがお母さんにおむつ替えてもらっちゅうとこも見たことあるし……」
「そら大昔の話やか。何じゃあ、おむつ替えらぁて……」
馨は赤くなって唇を尖らせる。
「わしゃあ、もう赤ん坊やない」
「わかっちゅうけど、馨ちゃんのかわいいのはあの頃から全然変わらんよ」
「やかましい。わやにしなや」
「してないって。かわいいよ、馨ちゃん。漏らしても好きだよ」
「やき、やかましい言いゆうろうがぁ!」
馨は遼真をぽかぽか殴る。遼真は愉快そうに肩を揺らして笑う。
「ごめんね、もうしないから」
「ほんまか」
「これからは、する前にちゃんとトイレ行こうね。あと、お酒の飲み過ぎもやめようね」
「ふん。わかっちゅうわ、そがなこと。花火もほとんど見れざったし」
「来年は、もっとちゃんと花火も楽しもうね。馨ちゃんがよければ、会場まで行ってもいいよ」
「別に、部屋から見るがぁでえいけんど……」
「じゃ、約束ね。指切り」
小指を絡めて指切った。
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