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「着くまでまだあるから、眠かったら寝ろよ」
「い、いや···先輩に運転してもらってるのに寝られません」
ーあくび我慢しながら言うなよ
東京から約2時間半、やっと目的地のペンションに到着した。ペンションは5人一棟で、峯岸とは同じ棟だ。残りの2組は夜のBBQ用の買い出しをしてから来るらしい。
ー結局寝なかったな
車を降りると気持ちのいい風が吹いていた。
「こっちはだいぶ涼しいなー」
「っくしゅっ」
誰よりも薄着な峯岸が腕をさすっている。
「ちょっと寒いか?」
「だ、大丈夫です···」
「風邪引いたら台無しだからこれでも着とけ」
リュックからジャージを出して渡した。
「あ···ありがとうございます···」
渡されたジャージに袖を通さずじっと見ている。
「ジャージに何かついてんのか?」
「い、いや···」
ー変なやつ
「チェックインするから荷物持って入るぞ」
「···」
「おーい、聞いてんのか?」
「···な、何ですか?」
「チェックインするから荷物持って入るぞって言ったの」
「わ、分かりました」
ペンションは2階建てで、5人で泊まるには十分すぎる広さだった。俺と峯岸以外の3人は買い出し組なので後から合流することになっていた。ベッドは1階に3つ、2階に2つと分かれていた。
「俺2階で寝るわ」
「あ、はい···」
「買い出し組は1階の方が準備しやすいだろうから、峯岸も2階な」
「え!」
「何だよ、嫌なのか?いびきかかないから静かだぞ」
「そういうことじゃなくて···」
「そういうことじゃないなら何だよ?」
「えーと···と、とにかく僕は1年なので1階で寝ます!」
ーなんか意地になってないか?
窓際のベッドで荷物を広げ始めた峯岸はさっき渡したジャージを着ていたが、サイズが大きくモモンガみたいだった。
ー1階は夜冷えそうだな
「やっぱり2階で寝るぞ」
「嫌です」
「子供かよ」
「子供ですもん」
また口を尖らせている。
「もし風邪引いたらどうすんだよ」
「引きません」
「1階は冷えるからだめだ」
「先輩に関係ないです」
「じゃあ俺も1階で寝る」
「なんでですか!?」
「移動も泊まりも一緒なんだから面倒見るのは当たり前だろ。体調崩して責められるのは俺なんだぞ」
「···」
「どうすんの?」
はぁと大きく息を吐き、立ち上がった。
「分かりました···」
「風邪引いても看病するから安心しろ」
「結構です!子供じゃないんで一人で大丈夫です」
「さっき自分で子供って言ってたくせに」
「そんなこと言ってません!早く2階行きますよ」
駆け足で階段に向かう峯岸の横顔は笑顔だった。
ー変なやつだけどなんか楽しいな
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