8 / 61

−2−

「着くまでまだあるから、眠かったら寝ろよ」 「い、いや···先輩に運転してもらってるのに寝られません」 ーあくび我慢しながら言うなよ 東京から約2時間半、やっと目的地のペンションに到着した。ペンションは5人一棟で、峯岸とは同じ棟だ。残りの2組は夜のBBQ用の買い出しをしてから来るらしい。 ー結局寝なかったな 車を降りると気持ちのいい風が吹いていた。 「こっちはだいぶ涼しいなー」 「っくしゅっ」 誰よりも薄着な峯岸が腕をさすっている。 「ちょっと寒いか?」 「だ、大丈夫です···」 「風邪引いたら台無しだからこれでも着とけ」 リュックからジャージを出して渡した。 「あ···ありがとうございます···」 渡されたジャージに袖を通さずじっと見ている。 「ジャージに何かついてんのか?」 「い、いや···」 ー変なやつ 「チェックインするから荷物持って入るぞ」 「···」 「おーい、聞いてんのか?」 「···な、何ですか?」 「チェックインするから荷物持って入るぞって言ったの」 「わ、分かりました」 ペンションは2階建てで、5人で泊まるには十分すぎる広さだった。俺と峯岸以外の3人は買い出し組なので後から合流することになっていた。ベッドは1階に3つ、2階に2つと分かれていた。 「俺2階で寝るわ」 「あ、はい···」 「買い出し組は1階の方が準備しやすいだろうから、峯岸も2階な」 「え!」 「何だよ、嫌なのか?いびきかかないから静かだぞ」 「そういうことじゃなくて···」 「そういうことじゃないなら何だよ?」 「えーと···と、とにかく僕は1年なので1階で寝ます!」 ーなんか意地になってないか? 窓際のベッドで荷物を広げ始めた峯岸はさっき渡したジャージを着ていたが、サイズが大きくモモンガみたいだった。 ー1階は夜冷えそうだな 「やっぱり2階で寝るぞ」 「嫌です」 「子供かよ」 「子供ですもん」 また口を尖らせている。 「もし風邪引いたらどうすんだよ」 「引きません」 「1階は冷えるからだめだ」 「先輩に関係ないです」 「じゃあ俺も1階で寝る」 「なんでですか!?」 「移動も泊まりも一緒なんだから面倒見るのは当たり前だろ。体調崩して責められるのは俺なんだぞ」 「···」 「どうすんの?」 はぁと大きく息を吐き、立ち上がった。 「分かりました···」 「風邪引いても看病するから安心しろ」 「結構です!子供じゃないんで一人で大丈夫です」 「さっき自分で子供って言ってたくせに」 「そんなこと言ってません!早く2階行きますよ」 駆け足で階段に向かう峯岸の横顔は笑顔だった。 ー変なやつだけどなんか楽しいな

ともだちにシェアしよう!