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浩介に出会ったのは高校2年のときだった。工業高校の3年で野球部に所属していた。アプリで何度かやりとりをしたあと、ファミレスで実際に会うことになった。
ー会ってがっかりされたらどうしよう···
緊張と不安で待ち合わせより20分も前に着いてしまったのに、写真のままの浩介がすでに立っていた。
「あ、あの···純です。遅れてすみません!」
「浩介です。全然遅れてないし、むしろ俺、舞い上がっちゃってめちゃくちゃ早く来ちゃったよ」
そう言ってぎこちなく笑う顔は優しかった。
ーいい人そうでよかった
「中入ろうか」
「は、はい!」
最初はお互い探り探りだったが、話が尽きることはなくあっという間に3時間が過ぎた。グラスに残っていた氷は完全に溶けていた。
「暗くなってきたしそろそろ帰ろうか」
「そ、そうですね···」
ーまだ帰りたくないけど···
「ほんとはまだ帰りたくないんだけどなー」
「ぼ、僕もです!」
「そう言ってもらえて、俺すごい嬉しい」
「僕も浩介さんと同じ気持ちで嬉しいです」
「純君、可愛いね。家まで送るからもっと話そっか」
「は、はい!」
その日から毎日連絡を取り合い、距離がどんどん近づいていった。初めて会ってから1ヶ月後、仙台デートの帰りのバスで浩介から告白された。
「俺、純と会えてよかった」
繋いだ手が熱を帯びている。
「僕も浩介と会えてよかった」
浩介の肩に頭を預けた。
「あのさ···」
「ん?」
窓の外を流れる景色を見ていた顔がこちらを向いた。
「キス···していい?」
真剣な眼差しに吸い寄せられるように唇が重なった。嬉しさよりも恥ずかしさがこみ上げて、顔を背けた。
ーまだ家に着かないで
初めての彼氏、初めてのキス。
幸せな時間はそんなに長く続かなかった。
付き合ってから3ヶ月、浩介と音信不通になった。
メッセージは未読のままで電話も繋がらなかった。
理由が分からないまま、何度も記憶を引っ張り出して、自分のせいだと思いこむようにした。
ーだってその方が楽だから
話し終わった後、ベッドから起き上がると努が手で目を覆っていた。
「努、泣いてんの?」
「泣いてねぇよ···」
「なんで努が泣いてんだよ···」
「だって···ずっと辛かったんだろうなーって」
「だからって泣かなくてもいいだろ···」
気づいてたら自分も泣いていた。
「話してくれてありがとな」
「聞いてくれてありがとう」
いい友達を持ったなと心の底から思った。
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