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「準備できたか?」
「んーちょっとまって···携帯どっかいった」
努のスマホは足が生えてるのかってぐらいいつも見つからない。
「はぁー···先輩迎えに行くから早く」
「あ、あった!お待たせ」
そう言って僕より先に家を出る。
「遅れるから早く鍵開けてー」
「それはこっちの台詞だっつの」
「俺、後ろ座るから」
「はいはい」
ホテルに着くと先輩が入り口で待っていた。いつもジャージに見慣れているせいか、私服姿が新鮮だった。
「あれが堀内先輩?」
努が前に乗り出して興味津々に見ていた。
「そ。イケメンだろ」
「イケメン過ぎて浮いてる」
「何だそれ」
ーそう···先輩は僕にはもったいない
「迎えありがとな」
「全然大丈夫です」
先輩が助手席に座るや否や、努が自己紹介を始めた。
「堀内先輩、初めまして!純の友達の金子努です。同じ学部でバスケ部に入ってます!」
勢いよくまくしたてる努に先輩は若干引いていた。
「あー···宜しくな。純から聞いてると思うけど、同じサークルで出張でこっちに来てる」
「はい!色々聞いてます!純が2人きりだと気まずいみたいなんでついてきちゃいました」
「ふーん」
ー余計なこと言うなよ···
先輩の視線を痛いくらい感じながら、なんとかとんかつ屋に着いた。狭くて急な階段を上って引き戸を開けた。
「いらっしゃーい」
「こんばんはー18時に予約した峯岸です」
「あー!純くん、帰ってきてたのね!」
続いて入ってきた先輩を見て、おばさんが小声で囁いた。
「純くん、あの人は?」
「大学のサークルの先輩です」
「やっぱり都会はすごいわー」
そう言って座敷の席に案内してくれた。店内はカウンター、テーブルがほとんど常連客で埋まっていた。
「いい雰囲気の店だな」
壁に貼られたメニューを見回して先輩が呟いた。
「料理なんでも美味しいので」
「全然気まずくないじゃん」
努がやけにニヤニヤしている。
「うるさい···早く決めろ」
「なぁに食べよっかなー」
努とのやりとりを見てた先輩がふっと笑った。
「仲いいんだな」
「そんなことないです」
「純、ひどい」
大きな体を無理やり丸めて落ち込んだふりをしている努が面白くて、先輩と目を合わせて笑った。
それから美味しい料理に酒が進み、努がウトウトし始めた。
「こいつ子供みたいだな」
「こんな大きな子供いませんよ」
「ん?何か言ったかー?」
「何でもないから寝てろ」
「置き去りにして帰るなよ···」
そう言って壁にもたれると寝息をかき始めた。
「トイレ行ってくるんでちょっと見ててください」
「ああ」
立ち上がってトイレの扉を開けると、ちょうど人が出てくるところだった。
「あ、すみません」
「こちらこそ」
顔は見えなかったが、すれ違ったときに感じた甘ったるい香水の香りが鼓動を早くさせた。目で姿を追うと、赤ちゃんを抱いた女性のテーブルに腰掛けた。
ー見間違いなんかじゃない···
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