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勇気−1−
目が覚めると雨の音が聞こえた。努は爆睡していたので、起こさないようにリビングに下りるとお母さんが新聞を読んでいた。
「おはよー」
「あ、起きたのね。朝ごはん食べる?」
「んー努が起きたら一緒に食べるよ。昼過ぎに出かけるから、また車借りていい?」
「じゃあ帰りにスーパー寄ってこれ買ってきてくれる?」
渡されたメモ帳は文字でびっしりと埋め尽くされていた。
「こ、こんなに!?」
「だって努くんよく食べるから。宜しくね!」
「···はーい」
努は何時になっても下りてこず、結局昼前に起こしに行った。朝ごはんが昼飯になり、先輩を迎えに行く時間になった。
「自分を信じろよー」
寝癖まじりのボサボサ髪で真面目なことを言う努の姿に吹き出してしまった。
「なんだよ、笑うなよー」
「緊張がどっかいったわ。行ってくる」
「大丈夫だから、な?」
「うん」
雨は朝より強くなり、観光するには最悪の天気だった。
「結構降ってるなー」
「すみません···」
「なんで純が謝るんだよ」
「いや、誘ったのにこんな天気で···」
「まぁ純から誘ってくれると思わなかったから嬉しいよ。で、どこ連れてってくれんの?」
「上杉謙信が祀られてる上杉神社です」
「へーそんなとこがあるのか」
「10分足らずで着きます」
「ん、了解」
休日は観光客で賑わう上杉神社だが、天気のおかげか人影はまばらだった。
「こんなに人が少ないの珍しいです」
「雨でよかったかもなー」
「ですね」
「ここにはよく来んの?」
「高校と大学受験のときにお守り買いに来ました」
「そうなんだ」
先を歩く先輩の顔は傘で見えないが、声は楽しそうだった。
ー今なら言えるかも
「あ、あの···先輩」
「ん?」
先輩は足を止めてこちらを向こうとした。
「振り返らないで聞いてください。顔見ると泣きそうなので···」
「うん、どうした?」
「昨日は心配かけてごめんなさい···」
「あー体調不良じゃなくてよかったよ」
「実は···音信不通になってた元彼が店にいて···。奥さんと赤ちゃんも一緒にいて···つらくて···」
雨の音が響き渡る。
「こんなにつらいなら、誰かを好きになるのはもう止めようって思ったんですけど···」
水溜りに映る自分の顔が涙でにじんでいく。
「堀内先輩のことが···先輩が···好きです!」
その瞬間、先輩に強く抱き締められた。
「せ、先輩···?」
「今まで気づいてやれなくてごめんな」
先輩の声が震えていた。
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