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夕食はこれまでにないくらい賑やかだった。お父さんも楽しくなったのか、飲まずにとっておいた高い日本酒を開けたりして、あっという間に時間が過ぎていった。
「明日仕事なのでそろそろ帰ります。ご馳走様でした」
「またいつでもいらしてくださいね!これ、よかったら食べて」
そう言うとお母さんは先輩にタッパーが入った袋を渡した。
「ありがとうございます!助かります」
「先輩送ってくから、また車借りるね」
「道路濡れてるから気をつけて」
「はーい」
先輩と車に向かう途中、スマホが鳴った。知らない番号からだったので無視した。
「出なくていいのか?」
「知らない番号なので」
「そうか」
車に乗り込むと、またスマホが鳴った。同じ番号からだった。
「まだ時間あるから出てみれば?」
「···はい」
電話に出ると懐かしい声がした。
「もしもし···純?浩介だけど···」
「···!?」
「いきなり電話してごめん···」
「···」
ー声が出ない
「大丈夫だから」
そう言って先輩は震える手を握ってくれた。
「···もしもし。久しぶり」
「昨日とんかつ屋で純の姿を見かけて···ほんとは直接話したかったんだけど···」
「うん···」
「ずっと謝りたくて···。急に消えてごめん」
「うん···」
それから浩介は、父親が急死して母方の実家がある福岡で、妹2人の学費を稼ぐために昼夜問わず働いていたことを話してくれた。
「だから···純のことが嫌いになって消えたわけじゃないから。それだけは信じてほしい」
「···うん、わかった」
「純は今、幸せ?」
「うん。幸せだよ」
「そっか···それならよかった。じゃあ···」
「···浩介!」
「ん?」
「ありがとう」
「うん。···じゃあ元気で」
電話を切ると自然と涙が溢れてきた。
「大丈夫か?」
先輩が大きな手で涙を拭ってくれる。
「先輩···」
「どうした?」
「やっと自分のこと信じられる気がします」
「そっか」
「···先輩」
「ん?」
「ギュってしてもらってもいいですか?」
「うん。おいで」
ホテルに着くまでずっと手を繋いでいた。
「いい時間なので、もう部屋に戻ってください」
「もう少しだけ」
そう言って甘えてくる姿は昔飼っていたシベリアンハスキーのシロクマにそっくりだ。
「先輩は昔飼ってた犬に似てます」
「飼い主なら俺のこと可愛がらないとな」
「恥ずかしいこと言わないでください···」
「顔赤くなってるぞ」
グッと鼻先が触れるくらいまで先輩の顔が近づいてきて、思わず目を閉じた。
「おやすみ」
おでこにキスをして先輩は車を降りた。
「おやすみなさい!」
助手席の窓を開けて叫んだ。先輩は満面の笑みで手を振っていた。
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