18 / 61

−3−

夕食はこれまでにないくらい賑やかだった。お父さんも楽しくなったのか、飲まずにとっておいた高い日本酒を開けたりして、あっという間に時間が過ぎていった。 「明日仕事なのでそろそろ帰ります。ご馳走様でした」 「またいつでもいらしてくださいね!これ、よかったら食べて」 そう言うとお母さんは先輩にタッパーが入った袋を渡した。 「ありがとうございます!助かります」 「先輩送ってくから、また車借りるね」 「道路濡れてるから気をつけて」 「はーい」 先輩と車に向かう途中、スマホが鳴った。知らない番号からだったので無視した。 「出なくていいのか?」 「知らない番号なので」 「そうか」 車に乗り込むと、またスマホが鳴った。同じ番号からだった。 「まだ時間あるから出てみれば?」 「···はい」 電話に出ると懐かしい声がした。 「もしもし···純?浩介だけど···」 「···!?」 「いきなり電話してごめん···」 「···」 ー声が出ない 「大丈夫だから」 そう言って先輩は震える手を握ってくれた。 「···もしもし。久しぶり」 「昨日とんかつ屋で純の姿を見かけて···ほんとは直接話したかったんだけど···」 「うん···」 「ずっと謝りたくて···。急に消えてごめん」 「うん···」 それから浩介は、父親が急死して母方の実家がある福岡で、妹2人の学費を稼ぐために昼夜問わず働いていたことを話してくれた。 「だから···純のことが嫌いになって消えたわけじゃないから。それだけは信じてほしい」 「···うん、わかった」 「純は今、幸せ?」 「うん。幸せだよ」 「そっか···それならよかった。じゃあ···」 「···浩介!」 「ん?」 「ありがとう」 「うん。···じゃあ元気で」 電話を切ると自然と涙が溢れてきた。 「大丈夫か?」 先輩が大きな手で涙を拭ってくれる。 「先輩···」 「どうした?」 「やっと自分のこと信じられる気がします」 「そっか」 「···先輩」 「ん?」 「ギュってしてもらってもいいですか?」 「うん。おいで」 ホテルに着くまでずっと手を繋いでいた。 「いい時間なので、もう部屋に戻ってください」 「もう少しだけ」 そう言って甘えてくる姿は昔飼っていたシベリアンハスキーのシロクマにそっくりだ。 「先輩は昔飼ってた犬に似てます」 「飼い主なら俺のこと可愛がらないとな」 「恥ずかしいこと言わないでください···」 「顔赤くなってるぞ」 グッと鼻先が触れるくらいまで先輩の顔が近づいてきて、思わず目を閉じた。 「おやすみ」 おでこにキスをして先輩は車を降りた。 「おやすみなさい!」 助手席の窓を開けて叫んだ。先輩は満面の笑みで手を振っていた。

ともだちにシェアしよう!