20 / 61

−2−

教室に入ると、努が待っていた。 「おはよーっ、てなんか疲れてない?」 「寝れなくて···」 「なんかあった?」 「まぁ···昼飯の時に話す」 「おっけー」 講義が始まって10分もしないうちに努は寝始めた。 ーこっちが寝たいのに··· 講義が終わり学食に入ると、いつもの光景に戻っていた。 「···場所変えるか?」 「そうしよう」 大学の目の前にあるファミレスで食べることにした。大量の料理が努の前に並んでいる。 「んで、何があった?」 「今日先輩が泊まりにくるって···」 努は食べていたパスタを吹き出しそうになった。 「それで寝れなかったのかよ」 「僕にとっては一大事なんだよ···」 努はケラケラ笑っている。 「久々に会えるんだしいいじゃん」 「それはそうだけど···」 「もう恋人同士なんだから、思ってることがあれば先輩に伝えないと」 そう言うとものの10分で全ての料理を平らげた。 「話も聞いたし、今日は純の奢りな」 「わかったよ」 最後の講義が終わり、努はバイトに、僕は先輩と待ち合わせしている居酒屋に向かった。先輩はまだ来ていないようだった。他にも数軒飲み屋が並んでいて、仕事終わりのサラリーマンで賑わっていた。 ふと交差点に目を移すと、信号待ちをしている先輩と女性が親しげに話しているのが見えた。 ー誰だろう··· 心のなかに暗い影が広がる。見るのが辛くなり背を向けた。 ー僕は先輩に「普通」の幸せをあげられない 浩介が家族と一緒にいる姿がフラッシュバックする。 ーわかってるつもりだったのに··· その時、先輩の声がした。 「純、お待たせ」 「···」 どんな顔でしていいか分からず振り返ることができない。 「おーい、どうした?」 「···今日はやっぱり帰ります」 「純、どうしたんだよ!」 帰ろうとする僕の腕を先輩が掴んだ。 「離してください!」 「嫌だ」 そう言うと先輩は腕を掴んだまま、狭い路地に入っていく。 「何で帰りたいのか話すまで離さない」 「···さっき女の人と話してるのを見て、僕じゃだめだって思ったんです。子どもも産めないし···」 先輩は黙って聞いている。 「将来のこと考えたら僕じゃだめなんです···」 「だめだって誰が決めたんだ?」 「そ、それは···」 「俺の気持ちを聞きもしないで勝手に推測するな」 そう言って先輩はおでこにデコピンしてきた。突然のことで呆然としていると、大きな手が顔を包んだ。 「さっきの人は会社の先輩でたまたま会っただけだし、俺は純と離れるつもりはこれっぽっちもないから」 「で、でも···」 「でもじゃない。俺には純しか見えないよ」 まっすぐな眼差しが本心だということを告げている。情けなくて、でも嬉しくて涙が流れた。 「泣き虫だな」 先輩は僕が泣き止むまで人から見えないように隠してくれた。

ともだちにシェアしよう!