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教室に入ると、努が待っていた。
「おはよーっ、てなんか疲れてない?」
「寝れなくて···」
「なんかあった?」
「まぁ···昼飯の時に話す」
「おっけー」
講義が始まって10分もしないうちに努は寝始めた。
ーこっちが寝たいのに···
講義が終わり学食に入ると、いつもの光景に戻っていた。
「···場所変えるか?」
「そうしよう」
大学の目の前にあるファミレスで食べることにした。大量の料理が努の前に並んでいる。
「んで、何があった?」
「今日先輩が泊まりにくるって···」
努は食べていたパスタを吹き出しそうになった。
「それで寝れなかったのかよ」
「僕にとっては一大事なんだよ···」
努はケラケラ笑っている。
「久々に会えるんだしいいじゃん」
「それはそうだけど···」
「もう恋人同士なんだから、思ってることがあれば先輩に伝えないと」
そう言うとものの10分で全ての料理を平らげた。
「話も聞いたし、今日は純の奢りな」
「わかったよ」
最後の講義が終わり、努はバイトに、僕は先輩と待ち合わせしている居酒屋に向かった。先輩はまだ来ていないようだった。他にも数軒飲み屋が並んでいて、仕事終わりのサラリーマンで賑わっていた。
ふと交差点に目を移すと、信号待ちをしている先輩と女性が親しげに話しているのが見えた。
ー誰だろう···
心のなかに暗い影が広がる。見るのが辛くなり背を向けた。
ー僕は先輩に「普通」の幸せをあげられない
浩介が家族と一緒にいる姿がフラッシュバックする。
ーわかってるつもりだったのに···
その時、先輩の声がした。
「純、お待たせ」
「···」
どんな顔でしていいか分からず振り返ることができない。
「おーい、どうした?」
「···今日はやっぱり帰ります」
「純、どうしたんだよ!」
帰ろうとする僕の腕を先輩が掴んだ。
「離してください!」
「嫌だ」
そう言うと先輩は腕を掴んだまま、狭い路地に入っていく。
「何で帰りたいのか話すまで離さない」
「···さっき女の人と話してるのを見て、僕じゃだめだって思ったんです。子どもも産めないし···」
先輩は黙って聞いている。
「将来のこと考えたら僕じゃだめなんです···」
「だめだって誰が決めたんだ?」
「そ、それは···」
「俺の気持ちを聞きもしないで勝手に推測するな」
そう言って先輩はおでこにデコピンしてきた。突然のことで呆然としていると、大きな手が顔を包んだ。
「さっきの人は会社の先輩でたまたま会っただけだし、俺は純と離れるつもりはこれっぽっちもないから」
「で、でも···」
「でもじゃない。俺には純しか見えないよ」
まっすぐな眼差しが本心だということを告げている。情けなくて、でも嬉しくて涙が流れた。
「泣き虫だな」
先輩は僕が泣き止むまで人から見えないように隠してくれた。
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