23 / 61
−2−
電話越しの純の声は、大丈夫ですと言いながらも明らかに落ち込んでいた。ただでさえ年末で忙しいのに、インフルエンザで同僚が何人か休んでさらに仕事量が増えていた。
「堀内はクリスマス予定あるのか?」
上司の塚本さんが缶コーヒー片手に聞いてきた。塚本さんは新人教育係として、入社以来お世話になっている頼れる上司だ。結婚していて飼い猫を溺愛している。
「恋人とデートに行くつもりだったんですけど···」
「まぁこの忙しさじゃ厳しいなー」
「ですよね···」
「プレゼントは買ったのか?」
「まだです」
「もう明後日だけど大丈夫か?」
「···なんとかします」
塚本さんは腕組みをしてしばらく考えた後、立ち上がって俺の肩を叩いた。
「俺も手伝うから明後日は有給取れ」
「え!でも···」
「そんな様子じゃ仕事終わらなそうだしな。ご褒美があったほうが頑張れるだろ」
そう言って塚本さんは、いつの間に買っていた新しいコーヒーを置いて自分の席に戻った。確かに純のことが気になって仕事は思うように進んでいない。
「ありがとうございます!」
「無理はするなよー」
「はい!」
仕事終わりに純に電話をした。
「先輩お疲れさまです。どうしたんですか?」
「明後日休み取れたから!」
「···」
反応がない。
「聞こえてるか?」
「会えないと思ってたから···めちゃくちゃ嬉しいです!」
ーその声が聞きたかった
「俺も嬉しいよ」
「僕の方が嬉しいです」
「うん、ありがとう。明後日はどっか出かけるか?」
「ケーキだけ買いに行って、夕飯は僕が作ります」
「了解。あー楽しみすぎて熱出そう」
「熱出たら楽しめないですよ」
「ははっ、そうだな。じゃあ明後日は昼過ぎに迎えに行くから」
「分かりました」
「じゃあおやすみ」
「おやすみなさい」
イブ当日、純を迎えに行く前にプレゼントを買いに来た。買い物に来ているのはデート中のカップルだらけで、純に早く会いたい気持ちがさらに膨らんだ。
「堀内先輩!」
後ろから声がする。振り向くと金子だった。
「金子か。何してんだ?」
「バイトのメンツでパーティーするんで、その買い出しです」
「ふーん、そっか」
「もっと興味持ってくださいよー。先輩は純のプレゼント買いに来たんすか?」
ーなんで分かるんだよ
「まぁそんなとこ」
「先輩から会えないかもって電話があったとき、めちゃくちゃ落ち込んでましたよ」
「その時一緒にいたのか?」
「そうです。ちょうど一緒に買い物してて」
ーいい友達を持ったな
「プレゼント選び手伝いましょうか?」
ご飯を期待している目をして努が聞いてきた。
「いや、買い出しの邪魔しちゃ悪いからな」
「そうですか。じゃあ俺行きますね」
「ん、またな」
ラッピングされた箱を鞄に入れて純の家に向かった。
ともだちにシェアしよう!