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電話越しの純の声は、大丈夫ですと言いながらも明らかに落ち込んでいた。ただでさえ年末で忙しいのに、インフルエンザで同僚が何人か休んでさらに仕事量が増えていた。 「堀内はクリスマス予定あるのか?」 上司の塚本さんが缶コーヒー片手に聞いてきた。塚本さんは新人教育係として、入社以来お世話になっている頼れる上司だ。結婚していて飼い猫を溺愛している。 「恋人とデートに行くつもりだったんですけど···」 「まぁこの忙しさじゃ厳しいなー」 「ですよね···」 「プレゼントは買ったのか?」 「まだです」 「もう明後日だけど大丈夫か?」 「···なんとかします」 塚本さんは腕組みをしてしばらく考えた後、立ち上がって俺の肩を叩いた。 「俺も手伝うから明後日は有給取れ」 「え!でも···」 「そんな様子じゃ仕事終わらなそうだしな。ご褒美があったほうが頑張れるだろ」 そう言って塚本さんは、いつの間に買っていた新しいコーヒーを置いて自分の席に戻った。確かに純のことが気になって仕事は思うように進んでいない。 「ありがとうございます!」 「無理はするなよー」 「はい!」 仕事終わりに純に電話をした。 「先輩お疲れさまです。どうしたんですか?」 「明後日休み取れたから!」 「···」 反応がない。 「聞こえてるか?」 「会えないと思ってたから···めちゃくちゃ嬉しいです!」 ーその声が聞きたかった 「俺も嬉しいよ」 「僕の方が嬉しいです」 「うん、ありがとう。明後日はどっか出かけるか?」 「ケーキだけ買いに行って、夕飯は僕が作ります」 「了解。あー楽しみすぎて熱出そう」 「熱出たら楽しめないですよ」 「ははっ、そうだな。じゃあ明後日は昼過ぎに迎えに行くから」 「分かりました」 「じゃあおやすみ」 「おやすみなさい」 イブ当日、純を迎えに行く前にプレゼントを買いに来た。買い物に来ているのはデート中のカップルだらけで、純に早く会いたい気持ちがさらに膨らんだ。 「堀内先輩!」 後ろから声がする。振り向くと金子だった。 「金子か。何してんだ?」 「バイトのメンツでパーティーするんで、その買い出しです」 「ふーん、そっか」 「もっと興味持ってくださいよー。先輩は純のプレゼント買いに来たんすか?」 ーなんで分かるんだよ 「まぁそんなとこ」 「先輩から会えないかもって電話があったとき、めちゃくちゃ落ち込んでましたよ」 「その時一緒にいたのか?」 「そうです。ちょうど一緒に買い物してて」 ーいい友達を持ったな 「プレゼント選び手伝いましょうか?」 ご飯を期待している目をして努が聞いてきた。 「いや、買い出しの邪魔しちゃ悪いからな」 「そうですか。じゃあ俺行きますね」 「ん、またな」 ラッピングされた箱を鞄に入れて純の家に向かった。

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