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実さんは何も言わず歩き続けた。
僕も何も言わず後ろからついていった。
しばらくして実さんが足を止めたのは、小さな公園の前だった。
「ここさ···小さいとき母さんとよくキャッチボールした公園なんだ」
公園を眺める顔は微笑みながらも泣きそうだった。
「思い出の公園なんですね」
実さんの隣に立つ。
「母さんはさ···俺と妹に寂しい思いさせないように父親の代わりもしてたんだって大人になって気付いた」
「いいお母さんですね」
「そ、いい母さんなんだよ···。だから純のこと紹介したかった」
そう言うと実さんはブランコに座った。
「このまま帰るつもりですか?」
僕も隣のブランコに座った。
「いや、ちゃんと話さないとなって。ちゃんと話して認めてもらいたい」
「実さんの準備ができるまでここにいます」
大きな手を両手で包んだ。
指輪が雲の隙間から射し込む夕陽を反射する。
「そろそろ行くか」
「はい」
手を繋いで戻ろうとしたとき、こちらに向かって走ってくる人影が見えた。
「···母さん」
「実、ごめんなさい」
実さんのお母さんは泣いていた。
「実にはお母さんと同じ思いをしてほしくなくて···傷ついてほしくなくて···だから反対したの」
「母さん、俺もいつか裏切られるんじゃないかと思ってずっと怖かった。でも、純に出会って変われたんだよ」
実さんのお母さんが僕を見る。
「ごめんなさい···ひどいこと言ってしまって」
「気になさらないでください。理解してもらうほうが難しいことは分かりますから」
「実のこと宜しくお願いします」
そう言って深々と頭を下げた。
「こちらこそ宜しくお願いします」
頭を上げると実さんが泣いていた。
家に戻ると実さんの妹が帰宅していた。
「初めまして!堀内茜です」
部活帰りなのかジャージを着ていたが、背が高くモデルみたいだった。
「初めまして、峯岸純です」
「お兄ちゃん、やるじゃん」
茜ちゃんが実さんを肘でつつく。
「茶化すな。お土産あげないぞー」
「ひどーい」
兄妹だと言われなければカップルにも見える。
「もう喧嘩してないで座りなさい」
「はーい」
夕飯は実さんの大好物のハンバーグだった。
「美味しかったです!ご馳走様でした。食器洗うの手伝わせてください」
「ありがとう、純君」
実さんと茜ちゃんはリビングでテレビを見ている。
「仲いいんですね」
「年が離れてるから距離感がちょうどいいのかも。
2人とも私の宝物」
「僕なんかでいいんでしょうか···」
「実が決めた人なら大丈夫。実について何か知りたいことがあれば何でも聞いてね」
そう言って実さんのお母さんは笑った。
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