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引越−1−
1月下旬、実さんと不動産屋に足を運んで候補を3つに絞り込んだ。男同士の同棲ということで、断られるかと思っていたが、担当の女性がとても感じのいい人で安心した。
「本日3軒とも内見可能ですが、いかがいたしますか?」
まだ昼前だったので、夕方には見終わるだろう。
「お願いします」
「かしこまりました。車の準備してきますので、少々お待ちください」
女性が席を立つと、隣に座る実さんと目が合った。
「いい人でよかったな」
「ですね」
5分ほどして女性が戻ってきた。
「準備できましたので、行きましょう」
1軒目は実さんの条件に合った、駅から徒歩5分圏内の物件だった。築浅のマンションでオートロック、宅配ボックスなど設備が充実していた。
「築浅で駅近なのですぐ埋まってしまいます」
「そうですよね」
窓から見えるのは隣のマンションの壁で、日当たりは悪そうだ。
「どうする?」
「次見てみましょう」
「そうだな。お願いします」
2軒目は僕の条件に合った、商店街やスーパーが近い物件だった。築20年の木造アパートだったが、管理が行き届いていて綺麗だった。
「周りに公園も多くて、夜はかなり静かです」
「それはいいですね」
広さは十分だったが、木造ということもあり隣の足音や会話が響きやすかった。
「最後見てみるか?」
「はい」
「かしこまりました」
最後はどちらの条件にも当てはまる物件だった。
築年数は一番古かったが、内装はリフォーム済みで新築のようだった。
「家賃もご希望の範囲内ですし、前向きにご検討頂ければと思います」
「純、どうする?」
その時、実さんが起きるのを待つ間、朝食を作る姿が思い浮かんだ。
「ここにしましょう」
不動産屋に戻って4月から入居する契約をした。
不動産屋を出ると実さんのお腹が鳴った。ちょうど夕飯時だった。
「あー···何か食べに行くか?」
「そうですね。何がいいですか?」
「部屋も決まったしお祝いするか」
「じゃあ焼き肉行きましょう」
「賛成!」
焼き肉屋に入ろうとしたとき、電話が鳴った。
「もしもし」
「努だけど」
「どうしたの?」
「いや、暇なら飯でも行かないかなーと思って」
「あーこれから実さんと焼き肉食べるんだけど」
「まじ!?俺も行っていい?」
実さんに聞くと、仕方ないなぁと苦笑いしていた。
「あと20分くらいで着くから」
「はいはい」
「カルビとライス頼んどいて!」
「もーわかったよ」
電話を切ると実さんが耳元で囁いた。
「帰ったら純のこと食べていい?」
ー答えは分かってるくせに···
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