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冬の寒さが次第に和らぎ、春の気配が近付いていた。実さんの車に乗って、新居用の家具を見に大型家具屋に向かった。
「ほら」
実さんが左手を出すと手を繋ぐ合図だ。
「うん」
運転中は手を繋ぐことが増えた。
実さんは楽しいのか鼻歌を歌っている。
家具屋は引っ越しシーズンということもあり、家族連れやカップルで賑わっていた。大きなカートを2人で押しながら家具を見ていった。
「なんか新婚みたいだなー」
「ですね。こういうの夢でした」
「同棲も?」
「そうです。夢が叶いすぎてバチが当たりそう」
「ははっ、悪いことしてないんだから大丈夫」
ベッドコーナーに行くと、近くにいた店員さんに話しかけられた。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「あの、クイーンサイズのベッドを探してて」
「あちらにございますのでご案内します」
「ありがとうございます」
「ルームシェアですか?」
どう答えようか迷っていると実さんが同棲です、と答えた。店員さんは驚いた様子でこちらを見た。
ーこれが普通の反応だよね···
「し、失礼いたしました。な、何かあればお気軽にお申し付けください」
そう言うと自分の持ち場に戻っていった。
「店員さん、びっくりしてましたね···」
「男女のカップルと変わらないのにな」
実さんは気にしてないようで、ベッドの寝心地を確かめていた。
「あの···実さん」
「ん?」
「あんまり外で同棲のこと言わないでほしいです」
「なんで?」
「ああいう反応されるから···」
「だからって隠すのか?」
「そうじゃなくて···」
「俺と付き合ってるのは恥ずかしいことなのか?」
実さんの声が大きくなる。
「そうじゃありません!」
声がホールに響き渡った。買い物中の人たちが何事かとこちらを見ている。注がれる視線に耐えられず、トイレに駆け込んだ。追いかけてきた実さんの足音が近づいてくる。
「純、ごめん」
扉の隙間に実さんの影が見えた。
「僕こそごめんなさい···」
「扉開けてくれないか?」
鍵を外すと、実さんに抱き締められた。
「俺、純のことになると周りが見えなくなって···。ごめん、嫌な気持ちにさせて」
大きな手で頭を撫でられる。
「僕こそ大きな声出してごめんなさい」
「あんな大きい声出るんだな」
そう言って、実さんはふっと笑った。
「今笑うとこですか?」
「ごめん、ごめん」
「戻りましょう」
扉を開けて出ようとすると今度は後ろから抱きしめられた。
「ずっとトイレにいるつもりですか?」
「もうちょっとだけ、ね?」
「分かりました」
売り場を一通り見て、気に入ったソファとベッドは取り置きしてもらうことにした。
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