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朝食を食べた後、着替えて茜ちゃんと池袋駅に向かった。
「人多すぎ···」
さっきまでの元気が嘘みたいに、人疲れしていた。
「後で甘いの奢ってやるから」
実さんがそう言うと茜ちゃんの目の色が変わった。
「言ったからね!ちゃんと約束守ってよ!」
「はいはい」
「はいは一回でしょ」
「はーい」
「ほんとに仲いいですね」
「仲良くない!」
2人の声が重なって、気まずそうに目を背けた。
茜ちゃんは即決型であっという間に紙袋で両手が塞がった。
「お兄ちゃん、これとこれ持って」
「はいよ」
実さんはあちこち連れ回されてお疲れのようだった。
「純さん、これあげる」
いつの間に買ったのか、渡されたのは可愛いシベリアンハスキーのキーホルダーだった。
「ありがとう、茜ちゃん」
「それお兄ちゃんに似てるでしょ。家族の証だから大事にしてね!」
ー家族の証か
気づいたら泣いていた。
「もー純さん泣かないでよぉ」
茜ちゃんも泣いていた。
「なんで茜も泣くんだよ」
実さんは僕と茜ちゃんを交互に見て笑っていた。
「もらい泣きしちゃって···」
「大事にするね」
「うん」
ポケットから家の鍵を取り出して、キーホルダーをつけた。
約束通り、買い物の後は実さんの奢りでパンケーキを食べた。その後、茜ちゃんを改札で見送った。今度はお母さんと一緒に遊びに来るそうだ。
帰り道、夕日が綺麗だった。
「朝からバタバタでしたね」
「うん。でも家族っていいなって改めて思ったよ」
「そうですね。実さんと付き合って、家族の支えは大事だなって今まで以上に感じます」
「俺たちも支えてもらってる分、ちゃんと返さないとな」
「はい」
2人の影がゆっくりと近づいていく。
「実さん」
「ん?」
「やっぱり実さんに似てます」
キーホルダーを実さんの顔の横に並べる。
「それ今言うかぁ」
少しムッとした実さんの左頬にキスをして逃げた。
家に着くと2人とも息が上がっていた。
「大人になって走るもんじゃないな···」
「ですね···走り方忘れました···」
部屋に入って水を飲もうとすると実さんに横取りされた。
「何するんですか!」
「さっきのお返し」
そう言って口移しで水を飲ませてくれた。
「美味しい?」
「美味しいも何もただの水です」
「つまんねーの」
ソファに座ろうとする実さんを引き止めてキスをした。
「美味しいですか?」
「もっと頂戴」
「ご自由に」
窓から入った風がキーホルダーを揺らした。
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