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疑惑−1−

9月に入り、実さんが福岡に1週間出張に行くことになった。 「お土産買ってくるから」 「はい···」 寂しくて顔が見れない。 「ちゃんと顔見せて」 「嫌です···」 実さんの手が顔を包んだ。 「俺も寂しいよ」 いつも真っ直ぐに気持ちを伝えてくれる。 「美味しいご飯作って待ってます」 「うん、楽しみにしてる。そろそろ行くよ」 そう言っておでこにキスをした。 「行ってらっしゃい」 「行ってきます」 実さんがいない1人きりの部屋は、色を失いまるで違って見えた。 掃除をしてスーパーに行こうとした時、努から電話がかかってきた。 「もしもし、何か用?」 「今日から先輩出張だよね?」 「うん。さっき出たよ」 「あのさー···ちょっとお願いがあって」 いつになく真面目なトーンだった。  「お願いって何?」 「俺の従兄弟が東京に遊びに来てるんだけど、俺ん家狭いから純のとこに泊めてもらいたくて···」 努の従兄弟の話は初めて聞いた。 「無理なら全然いいんだけど···」 断ろうと思ったが、実さんのことでお世話になりっぱなしだからOKすることにした。 「分かった、いいよ」 「マジ!?ほんとに助かる!15時頃に家行くから宜しく」 「じゃああとで」 電話を切って外に出ると、強い日差しが肌を焦がす。モンスターみたいな大きな入道雲がビル越しに見えた。 15時過ぎにインターホンが鳴った。努の隣には同い年ぐらいの金髪のイケメンが立っていた。 「初めまして。努の従兄弟の柏木賢人です。お世話になります」 見た目は派手だが礼儀正しくて好感がもてた。 「初めまして。努の友達の峯岸純です」 「賢人は俺たちの一個下で工学部なんだ」 努の紹介によると、お母さんの妹の息子で、地元の宮城の大学に通っているそうだ。 「純のことは話してあるから」 帰るときに努が耳元で教えてくれた。 努が帰った後、賢人くんに食べたいものを聞いて夕飯の準備を始めた。エプロンの紐を結ぶのに手間取っていると、賢人くんが気付いて結んでくれた。 ー身長は実さんと同じくらいだな リクエスト通りカレーを作ってあげると、ものの5分で綺麗に食べ終わっていた。 「純さん、美味しいのでおかわりいいですか?」 「たくさん作ったから遠慮しないで」 「ありがとうございます。彼氏さん羨ましいです」 「大したもん作れないけどね」 「俺も純さんみたいな人と付き合いたいです」 聞き間違いだと思って、おかわりを盛ろうとした時賢人くんが今度ははっきりと言った。 「俺もゲイなんです」

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