43 / 61
疑惑−1−
9月に入り、実さんが福岡に1週間出張に行くことになった。
「お土産買ってくるから」
「はい···」
寂しくて顔が見れない。
「ちゃんと顔見せて」
「嫌です···」
実さんの手が顔を包んだ。
「俺も寂しいよ」
いつも真っ直ぐに気持ちを伝えてくれる。
「美味しいご飯作って待ってます」
「うん、楽しみにしてる。そろそろ行くよ」
そう言っておでこにキスをした。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
実さんがいない1人きりの部屋は、色を失いまるで違って見えた。
掃除をしてスーパーに行こうとした時、努から電話がかかってきた。
「もしもし、何か用?」
「今日から先輩出張だよね?」
「うん。さっき出たよ」
「あのさー···ちょっとお願いがあって」
いつになく真面目なトーンだった。
「お願いって何?」
「俺の従兄弟が東京に遊びに来てるんだけど、俺ん家狭いから純のとこに泊めてもらいたくて···」
努の従兄弟の話は初めて聞いた。
「無理なら全然いいんだけど···」
断ろうと思ったが、実さんのことでお世話になりっぱなしだからOKすることにした。
「分かった、いいよ」
「マジ!?ほんとに助かる!15時頃に家行くから宜しく」
「じゃああとで」
電話を切って外に出ると、強い日差しが肌を焦がす。モンスターみたいな大きな入道雲がビル越しに見えた。
15時過ぎにインターホンが鳴った。努の隣には同い年ぐらいの金髪のイケメンが立っていた。
「初めまして。努の従兄弟の柏木賢人です。お世話になります」
見た目は派手だが礼儀正しくて好感がもてた。
「初めまして。努の友達の峯岸純です」
「賢人は俺たちの一個下で工学部なんだ」
努の紹介によると、お母さんの妹の息子で、地元の宮城の大学に通っているそうだ。
「純のことは話してあるから」
帰るときに努が耳元で教えてくれた。
努が帰った後、賢人くんに食べたいものを聞いて夕飯の準備を始めた。エプロンの紐を結ぶのに手間取っていると、賢人くんが気付いて結んでくれた。
ー身長は実さんと同じくらいだな
リクエスト通りカレーを作ってあげると、ものの5分で綺麗に食べ終わっていた。
「純さん、美味しいのでおかわりいいですか?」
「たくさん作ったから遠慮しないで」
「ありがとうございます。彼氏さん羨ましいです」
「大したもん作れないけどね」
「俺も純さんみたいな人と付き合いたいです」
聞き間違いだと思って、おかわりを盛ろうとした時賢人くんが今度ははっきりと言った。
「俺もゲイなんです」
ともだちにシェアしよう!