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翌朝、リビングに賢人くんの姿はなかった。
努にも電話してみたが、そのうち帰ってくるだろと呑気なことを言っていた。
実さんには昨日のことで謝罪のメッセージを送ったものの、既読無視されている。
ー既読なだけマシか···
塾のバイトが終わって、22時頃帰ってきても賢人くんはまだ帰ってきていなかった。ダメ元で電話すると、知らない声がした。
「もしもし」
「あ、あの賢人くんの電話ですよね?」
「この子、賢人くんって言うんだ」
「えーと···どちら様ですか?」
「俺、ゲイバーの店員なんだけど酔っ払って寝ちゃったんだよね。迎えに来てもらえます?」
「分かりました!すぐ行きます」
教えてもらったバーの名前は昨日2人で行ったところだった。
店に着くとカウンターで寝ている賢人くんが見えた。店員さんは昨日と違う人だった。
「あ、あのさっき電話した···」
「あ、どうも。この子酒弱そうなのにガンガン飲んでて。静かになったなーて思ったら寝てました」
「ご迷惑かけてすみません···」
「この子あんたの連れ?」
「そういうわけじゃ···」
「まあ何でもいいけどさ。何人かこの子持ち帰ろうとしてたから追っ払っといた」
「ほんとにすみません···」
「タクシー呼ぶなら電話するけど」
「何から何まですみません」
タクシーが来るまでの間、肩を揺らしたりして起こそうとしたが、ピクリともしなかった。
タクシーが店の前に着いた。結局乗せるのも店員さんに手伝ってもらった。
「そういえば、寝言でずっと名前呼んでた」
扉が閉まる前に店員さんが言った。
「名前ですか?」
「そう、翔太って言ってた」
「そうですか」
賢人くんは出発してすぐに目を覚ました。
「あれ、なんで純さんが?ん、ここどこ」
「バーで寝てたから迎えに来たんだよ。今家に向かってる」
「そうですか···」
そう言って僕の肩に頭を乗せて、もう一度寝た。
家に着くと、賢人くんはまっしぐらにソファへと向かった。
「お水飲む?」
グラスに入れた水を持っていくと、辛そうな表情をしていた。
「大丈夫?」
「ちょっと頭痛くて···」
「なんで未成年なのにお酒飲んだの?」
「心配してくれてるんですか?」
「友達の従兄弟だから当たり前でしょ」
「それだけですか?」
「うん、それだけ」
「そうっすか···。水ください」
伸ばした手がグラスに当たり、水がこぼれた。賢人くんの服が濡れて白い肌が透けている。
「タオル持ってくる」
取りに行こうとしたとき、腕を引っ張られて賢人くんに覆いかぶさる形になった。近くで見るとまつ毛が長い。
「俺じゃだめ?」
実さんに会えない寂しさが判断を鈍らせて、潤んだ瞳に吸い込まれそうになる。
賢人くんの顔がゆっくり近づいてくる。
頭では分かってるのに体が動かない。
唇が重なって、ハッと我に返った。
「ごめん···」
逃げるようにトイレに駆け込んだ。
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