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純から謝罪のメッセージが届いていたが、どう返したらいいのか分からずそのままにしていた。
仕事から帰ってきて、疲れていたのかスーツを着たまま寝てしまっていた。時計を見ると深夜1時を過ぎていた。スマホを見ると10分前に純から着信があった。
ーこんな時間にどうしたんだ?
電話するかどうか悩んだ末、かけることにした。
「もしもし」
純は泣いていた。
「どうした?何かあったのか?」
「実さん···ごめんなさい」
「昨日のことはもう怒ってないよ」
「そのことじゃありません···」
「そうじゃないなら何だ?」
「···」
「黙ってちゃ分からないだろ」
「···賢人くんとキスしました」
ーあの従兄弟とキスした···?
「僕、実さんがいなくて寂しくて···気付いたらそうなってました···」
「もういい。聞きたくない」
「実さん!」
電話を切ってスマホの電源も切った。
ー何が信じる、だ···
心に黒い塊が影を落とす。
「賢人くんとキスしました」
純が泣きながら放った言葉が耳から離れない。
ー俺がいなくて寂しくて気づいたらそうなってた?
「何だよそれ···」
心の声が漏れ出した。
「何だよそれ!」
怒りと悲しみで泣きながらベッドを何度も叩いた。
電話が切れたあと何回もかけ直したが繋がらなかった。涙がどうやっても止まらない。
「大丈夫ですか?」
扉の向こうで賢人くんの声がする。
答えようと思っても声が出ない。
「純さん、扉開けてください」
鍵を開けると賢人くんに抱き締められた。
「すみません、俺最低ですね···」
肩に顔を埋めて枯れるまで泣き続けた。
「落ち着きましたか?」
静かに頷いた。
「俺、明日帰ります」
「でも···」
「努には伝えてあります」
賢人くんが淹れてくれたコーヒーに泣き腫らした自分の顔が映る。
「そっか」
「好きな人にそんな顔させて一緒にいられるほどタフじゃないんで」
そう言って悲しそうに笑った。
「翔太って元カレの名前?」
ふと店員さんが言っていたことを思い出した。
「寝言で何回も呼んでたって店員さんから聞いた」
「やっぱりそんな簡単に忘れられないですね」
溢れそうな感情をコーヒーを飲んで抑えているように見えた。
「俺、翔太がノンケだから別れたんだってずっと逃げてました。ほんとはそんなこと関係ないのに···。だから純さんの話を努から聞いたとき、2人が別れれば逃げてる自分を正当化できるって思ったんです···。ほんとにすみません」
そう言うと賢人くんは頭を下げた。テーブルに涙が落ちている。
「ずっと辛かったね」
震えてる金髪を撫でた。
「辛かったです···」
「辛いときは泣いていいんだよ」
泣き止んだ頃には外は明るくなっていた。
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