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後悔−1−
「お世話になりました」
「うん、元気でね」
賢人くんは寝ないでそのまま宮城に帰った。
実さんが帰ってくるまであと4日、また1人きりだ。
色んなことがありすぎて、ベッドに横たわるとすぐに眠気が襲ってきた。
ー実さんに会いたい···
手を伸ばしても空を掴むばかりだった。
目が覚めると外は真っ暗だった。
スマホを何回見ても実さんからの連絡はない。
お腹は空いていたが何もする気が起きなくて、久しぶりにデリバリーを頼んだ。
5分ほどしてインターホンが鳴った。
デリバリーにしては早いと思ってモニターを見ると努だった。
「賢人のこと、すまなかった」
開口一番、頭を下げられた。
「努のせいじゃないだろ」
「でも···このままじゃ気分悪いからさ」
「···うん」
「今起きたのか?」
玄関横の鏡を見ると、寝癖だらけだった。
「夜更ししちゃって···」
「いつも決まった時間に寝てるのに珍しいな」
「色々あって···」
「飯は?」
「デリバリーで頼んだからもうすぐ来る」
「じゃあ食べながら話聞くよ」
「うん、ありがとう」
努は夕飯を食べてきたと言っていたが、僕の食べ残しを綺麗に平らげていた。
「じゃあまとめると、賢人が堀内先輩に宣戦布告して、賢人と純がキスしたのを聞いて先輩から連絡がないってことでOK?」
「···そんな感じ」
傷口を抉られてるような感覚になり、努の顔が見れなくなった。
「俺が先輩の立場だったら、いきなり現れた恋敵とキスしたなんて聞いたら結構キツイな···」
「···」
「まぁ、起きたことにあれこれ言っても仕方ないし、先輩が帰ってきたらちゃんと話し合うこと」
「そうするつもり」
「純、逃げるなよ」
そう言うと努は帰っていった。
仕事が忙しかったおかげで、純のことをあまり考えずに時間が過ぎていった。あれから俺も純も連絡をとっていない。
帰りの飛行機で、通路を挟んだ席に座っている女の子が純と同じシベリアンハスキーのキーホルダーを持っているのに気づいた。今までの思い出が一気に蘇ってきて、泣きそうになるのを必死に堪えた。
ー帰ったら家にいるのかな
できれば会いたくないと思う自分が嫌だった。
でも、会ったらどんな感情になるのか分からないのも事実だった。
ーこんなに辛いなら付き合わなければ···
タラレバを言えばキリがないが、新幹線で再会する前に時間を巻き戻したいと思った。
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