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母さんの葬式から1週間が経った。
茜は隣りの鹿沼市に住んでいるお祖母ちゃんと暮らすことになった。
父さんとは連絡を取り合って、月に一回会うことになった。仕事には昨日から復帰している。
「もう大丈夫なのか?」
上司の塚本さんが心配そうな顔で聞いてきた。
「はい···何とか」
「キツかったら遠慮しないで言えよ」
「ありがとうございます」
「仕事終わったら久しぶりに飲まないか?」
「はい」
「もしあれなら恋人も一緒にどうだ?」
「聞いてみますね」
すぐに純にメッセージを送った。すぐにOKとスタンプが送られてきた。
「大丈夫だそうです」
「じゃあいつもの店で」
そう言うと塚本さんは自分の席に戻った。
塚本さんはまだやることがあるということで、先に居酒屋に向かった。
「実さん、お疲れ様です」
純が先に来ていた。
「待ったか?」
「さっき来たばっかです」
「そっか。塚本さんは後で来るから先に入ろう」
「はい」
店員さんに3人と伝えると、半個室に案内された。
「いいお店ですね」
「ここ忘年会とか新年会とかでよく利用してるんだけど、雰囲気もいいし料理も美味しいんだよね」
「そうなんですね」
ビールとつまみを何品か頼んだ後に、塚本さんが合流した。純のことを見ても驚かなかった。
「初めまして、峯岸純です」
「純くん初めまして、実の上司の塚本剛です」
「いつも実さんがお世話になってます」
そう言って純は塚本さんのビールを注いだ。
「いやいや、こっちこそ世話になってます」
今度は塚本さんが純のビールを注いでいた。
そのやりとりが面白くて、笑ってしまった。
「何笑ってるんだよ」
「いや、何でもないです」
「何だよ、言えないのか?」
「大したことじゃないんで」
俺と塚本さんのやりとりを見て今度は純が笑った。
「なんか兄弟喧嘩みたいですね」
今度は3人で笑った。
「笑う元気が戻っててよかったよ」
塚本さんは俺の肩を叩いた。
「俺の親父もさ···10年前に急死して。死ぬ前日に電話で話したときは元気だったのに」
初めて聞く話だった。
「実感が湧くまで時間がかかったけど、明日死んでもいいように悔いなく生きなきゃ駄目だなって思ったんだよ」
ー明日死んでもいいように悔いなく生きる
その言葉が今なら痛いほど分かる。
これから先もずっといると思ってた母さんが突然いなくなった。
当たり前だと思ってた幸せは、失って初めて当たり前じゃなかったと気付く。だから、これからは当たり前だと思うのはやめよう、そう心から思った。
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