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翌朝、喪服に着替えて宇都宮に向かった。お母さんとは駅で待ち合わせしている。
風が落ち葉を揺らして、冬の気配が近付いていた。
テレビで今年一番の冷え込みだと言っていた。
「純、寒くないか?」
ホームで実さんがマフラーを巻いてくれた。
「ありがとうございます」
「いよいよだな」
吐いた息が白く染まった。
「大丈夫ですよ、きっと」
実さんの手を引いて電車に乗り込んだ。
昨日2人ともあんまり寝れなくて、電車に乗ってすぐ眠りについた。目が覚めると、実さんが何かを見ていた。
「何見てるんですか?」
「茜が昔の写真送ってくれてさ。みんな若いだろ」
写真には、笑顔溢れる家族が写っていた。
「実さん、真っ黒ですね」
「テニスばっかやってたからなぁ」
「昔もモテたんじゃないですか?」
写真の少年は今の面影が残っている。
「まぁバレンタインの時はすごかったよ」
「自慢ですか?」
「純が聞いてきたんだろー」
その時、宇都宮にまもなく到着するというアナウンスが流れた。
「行こうか」
「はい」
駅の改札を出たところにお母さんがいた。
「お母さん!」
「純!実さん!」
「わざわざありがとうございます」
実さんが深々と頭を下げた。
「急なことで実さんも大変だったでしょ···。元気な姿見れて本当に嬉しい」
そう言って実さんを抱き締めた。
「俺も久しぶりにお母さんに会えて嬉しいです」
「時間だからそろそろ行かないと」
会場にはタクシーで向かった。
会場にはすでに茜ちゃんとお父さんがいた。
まだ気まずいのか微妙に距離を空けて座っている。
お母さんに実さんの家族を紹介して、法要が始まった。
法要が終わり、場所を移動して夕食をみんなで食べることになった。昨日実さんと相談して、食事のときに結婚の報告をすることになった。
お店は実さんが昔家族でよく行っていた庶民的な洋食屋だった。店内は家族連れで賑わっていた。
料理が運ばれてくる前に実さんが口を開いた。
「えっと···みんなに話があります」
「結婚の話?」
茜ちゃんに言い当てられて2人とも目を見合わせた。
「な、なんで···」
「いや2人揃って左手の薬指に指輪してるんだから分かるでしょ」
その言葉にお母さんも頷いていた。
「···なんだよ、緊張してたのに」
「誰も反対しないよ。もちろんお母さんもね」
茜ちゃんがお母さんの遺影を机に置いた。
「式はどうするの?」
お母さんが実さんに聞いた。
「やるつもりです」
「お母様にも2人の晴れ姿見せたかったわね」
実さんと挨拶に行ったときのことを思い出して涙が溢れ出した。実さんも目頭を押さえていた。
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