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「式はどうするの?」
食事が終わった後、お母さんが聞いてきた。
「やるつもりです」
実さんが僕と目を合わせて答えた。
「そうと決まれば、もう準備始めないと!」
なぜかお母さんが張り切っている。
「私も手伝いたいです!」
茜ちゃんも乗り気だ。
僕達のことはそっちのけで2人で盛り上がっていた。
「父さんも来てくれる?」
実さんがお父さんに聞くと、もちろんと答えた。
店を出ると空がオレンジ色に染まっていた。
茜ちゃんとお義父さんに別れを告げ、帰りの電車に乗った。お母さんは僕達のとこに一泊してから帰るらしい。
「まさか純が結婚するなんてね」
お母さんは嬉しそうだけど寂しそうだった。
「僕もまだ信じられないよ」
左手の指輪を見つめる。
「指輪見せて」
お母さんに見せると、お父さんとの馴れ初めを話してくれた。
「お父さんとはね、お見合い結婚だったの。最初はまた断ればいいかって思ってたんだけど、会ってみたら私にはもったいないくらいのいい人でね。交際が始まっても、ずっと私なんかでいいのかなって自信がなくて···。でもお父さんがある日言ってくれたのよ。僕と一緒にいるときの自分は好きかって。お父さんといるとね、怖いものなしで何でもできるような気がして自分に自信が持てたの。それから自分のこともちゃんと好きになろうって思ったのよ。指輪をもらったときは本当に嬉しかった」
お見合い結婚だということは昔聞いた気がするが、ほとんどが初めて聞く話だった。
「純は実さんといるときの自分は好き?」
「うん。実さんを好きになって自分のことを信じられるようになったんだ」
「そう。それならきっと大丈夫ね」
僕の掌に指輪を置いて、両手で包み込んだ。
「純が幸せなら私もお父さんも幸せよ。だから周りに何を言われたとしても胸を張ってね」
「ありがとう」
お母さんの優しさが伝わってきて涙が頬を伝った。
お母さんも目を潤ませている。
「寝顔もイケメンなのね」
僕の隣で寝ている実さんを見てお母さんが笑った。
「ほんと、顔も性格も良くてさ。不平等だよ」
今度は2人で笑い合った。
「ん···何か言ったか?」
実さんが目を覚ました。
「何でもないです」
「顔も性格もいいって聞こえたけど」
「聞こえてたんですか···」
「俺からしたら純の方が完璧だよ」
「あらあら、いいもの見ちゃった」
お母さんが間に割って入った。
「実さん、純のこと宜しくね」
「一生幸せにします。お義母さん」
電車の中で言うことじゃないとは思ったが、僕達らしくていいな、とも思った。
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