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結婚−1−

結婚式は来年のお義母さんの命日に挙げることになった。式場はいくつか見に行って千葉にある海が見えるチャペルに決めた。 式場のスタッフさん曰く、同性カップルでも式を挙げられるところが最近増えているそうだ。 「以前こちらでも式を挙げられた方がいました」 「そうなんですね」 「はい。ご家族だけの式でしたが、とても温かい雰囲気で見ていてこちらも幸せになりました。ご招待される方はご家族とご友人でお間違えないでしょうか?」 「はい、それでお願いします」  「かしこまりました」 そう言うとスタッフさんは電話を取りに行った。 実さんはお義父さんと茜ちゃん、楓先輩と塚本さんが、僕は両親と努が参加することになっている。 「いよいよって感じだな」 実さんがソファに深く座り直した。 「ですね。綺麗な式場で嬉しいです」 「純の好み聞いといてよかった」 「え、誰に聞いたんですか?」 「お義母さんに聞いたら、海が見える白いチャペルがいいんじゃないかって教えてくれたんだよ」 「そうだったんですね」 「気に入った?」 「うん。昔、何かの映画で見てこういうところで式を挙げるのがずっと憧れだったんです」 真っ白な式場を見ているとほっぺたにキスされた。 「誰かに見られますよ」 「俺たち夫夫なんだからいいだろ」 「だめです。大人しくしててください」 「ケチ」 実さんは腕組みをして口を尖らせている。 「わかりましたよ、はい」 ほっぺたを膨らませて顔を近づけた。 空気を押し出すように唇が当たった。 「これで満足ですか?」 「まだ」 そう言うと今度は逆のほっぺたにキスをした。 何か言おうと思ったが、ちょうどスタッフさんが戻ってきたのでやめた。 「お待たせいたしました。式の3ヶ月前から打ち合わせをしたいのですが宜しいでしょうか?」 「はい、お願いします」 「ありがとうございます。本日はこれで終わりとなりますので、お気をつけてお帰り下さいませ」 「ありがとうございました」 「ちょっと海見ていこうか?」 帰りの車中で実さんが言った。 「いいですね」 車を降りると、冷たい海風が体を通り抜けた。 「おいで」 実さんのコートに包まれると体温が戻ってきた。 「綺麗な海だなー」 眩しい日差しが波に反射してキラキラしている。 「綺麗ですね」 波の音だけが聞こえる。 「いい式にしよう」 そう言って後ろからギュッと抱きしめてくれた。 「はい」 振り向いてキスをした。

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