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第4話
二人は今、お互いに自分のベッドで壁に凭れ、向かい合わせに座っている。
暗い部屋に薄明かりが差しているけど、はっきりと姿が見える訳じゃなく、黒いシルエットがこれから始まることへの期待と興奮が入り混じった感情を掻き立てる。
航太は決して他人とこういう行為を共有するような人間ではない。ただ、こうすることで朋也と対等になりたいとどこかで思っているのかもしれない。
「朋也、自分の触ってみて…」
「うん…」
いざとなると始めるタイミングが掴めないまま時間が過ぎていて、きっかけを作ろうと航太が声をかけると、ようやく朋也がベッドの上に乗せたままだった手を動かしてズボンの中へ忍ばせたのがわかった。
航太も同じように自分の右手をズボンの中へ入れボクサーパンツの上から自身をなぞると、ゾクッと背筋に電流が走るのが伝わる。
ここに来て二年経つけど、自慰行為をするのは初めてだった。いつも部屋には朋也がいたし、したいと思う瞬間があったわけでもなかったというのが本当のところだ。
静かな部屋には、少しだけ息遣いが変わったお互いの呼吸と何となく手を動かす度に擦れるズボンの音がする。
「んっ、ぁっ…」
微かに届いた甘い吐息に朋也が感じているんだということが伝わってきて、航太も自分の中にある羞恥心を捨てて、ようやくパンツの中へと手を潜り込ませると直で自身に触れた。
そこは驚くほどに硬さを増している。なぞっていただけの手でゆっくりとペニスを上下に擦る。
「くっ、んっ…」
久々の感覚に、思わず声が漏れる。
マスターベーションってこんなに気持ちいいものだっただろうか?
いや違う。
この状況だからなのかもしれない。誰かとではなく、朋也と一緒だからだ。
「航太…、ねえ…全部脱いでいい? もう、苦しくて…」
「いいよ。俺も脱ぐから…」
朋也の言葉でお互いに着ていた衣服を脱ぎ、顕になった中心部を何の引っ掛かりのないまま扱いていく。
さっきまでの恥ずかしさが嘘のように、今ある快感に身を任せながら、自然と自身へ与える刺激が増していた。
「んっ、んっ、あっ…」
朋也もこの現状に夢中になっているのか、だんだんと堪えていたはずの声が漏れ始めていく。
その声が耳の奥深くまで届いてきて、航太の神経を支配する。
お互いに自分のモノに触れるというだけの話だったにも関わらず、航太は朋也の感じている姿を近くで見たいと思い始めていた。
「なあ朋也…」
「んっ、なに…?」
「そっち行っていい?」
「えっ、なんで…」
「俺…、朋也のしてるとこちゃんと見たい」
「なに、言って…るの? ダメ…だよ。恥ずかしいから…」
「俺も一緒に気持ち良くなりたい…。だから、行っていい?」
「う、うん…」
無理強いはしたくないけど、もっと近くに朋也を感じたくて航太が問いかけると、恥ずかしい気持ちからかか細いOKの返事を確認できた。
動かしていた手を止めて、ゆっくりと立ち上がり一歩一歩朋也へと近づいていく。
だんだんと薄暗い光の中に、何も身につけていない姿がはっきりと浮かび上がってくる。
すでに自分で行為をしていた中心は、力を失うことなく隠そうと両手で覆っていても隠しきれずに主張していた。
自分よりも少し背の低いサラサラの髪で切れ長の目をしたカッコイイというよりキレイな顔つきの朋也。意識したことなんてなかったけれど、その体つきは中肉中背で思っていたよりもずっと色白だった。
すぐ隣に腰を下ろし、両足を伸ばして自身を握ると、航太はそれを上下に動かし始める。
こうすれば朋也は間違いなく、同じようにするとわかっているからだ。
こんな風に余裕な振りをしていても、実際は余裕なんてあるわけない。
自分だって素っ裸で誰かに見られながらペニスを扱くなんてこと初体験で、しかもその相手が朋也である。
何となく見られている感じがして、航太は視線だけを朋也へ向けると、両手で隠していたはずの手はいつの間にか性器を握っていて、航太の動きを真似するように上下に動かしていた。
「はぁっ…、ねえ航太…、見せ合うのって自分だけでするより興奮するね…」
言葉通りに隠しきれない甘い吐息が朋也から漏れていて、航太は気がつくと自身の中心から手を離し、朋也の手に自分の手を重ねていた。
「朋也のここ、直接触りたい…。いい?」
「やっ、だって…。俺…そんなこと…」
「じゃあ、俺のは朋也が触ってよ。今度は、お互いに触り合いっこしよう」
「けど俺…、航太に触れられたら一瞬でイッちゃうから…」
「大丈夫、イっていいから…」
「う、うん…」
頷くのと同時に、朋也の手が航太の手の下からするりと抜けていき、航太の手の中に朋也の肉棒が直接触れた。
そこはもうガチガチに硬くて、一掻きすればビクンと反応を示す。航太は、もっと気持ち良くなってもらいたいという思いで、朋也のモノを包み込むと、上下に擦っていく。
「あっ、んっ…、航太…、航太…」
「朋也…、気持ちいい?」
「んっ、本当に航太が俺に触れてるなんて…」
「信じられない?」
「だって俺…、俺…」
何か言いたげに言葉にしようとしているけど、航太からの刺激に漏れそうになる声を必死で堪えようとしているのか、航太に触れている手は添えられているだけで、もう片方の手は朋也自身の口元にある。
「朋也、声聞かせてよ…。気持ちいいならちゃんと教えてくれなきゃわかんない」
「そ、んな…恥ずかし…いし…」
「じゃあ…やめてもいい?」
「あっ…、ダメ…やめちゃ、ヤダ…」
少し意地悪く扱いていた手を止めると、朋也が潤んだ目で止めないでと懇願してくるから、航太の胸の奥深くがドクンと鳴った。
ーこんなに可愛いなんて…、俺はどうかしている?ー
そんなことが頭を過ぎるけど、正直もうどうでもいい。
今はただ、目の前にいる朋也に触れていたい…。
航太は止めた手を再び動かし始めた。
「んっ、あっ、あ、はぁ…」
「自分でするのとどっちが気持ちいい?」
「こっち…航太に触れられてる方が…いい…」
「そっか…。俺も、この方がいい。まずは、朋也をイかせてあげる」
そう告げると、航太は手の動きを一気に加速させていく。
「あっ、あっ、んっ…あぁっ…俺…もう…出ちゃう…」
「いいよ…出しな…」
「んっ、あっ、あっ、ダメッ、もう…航太…」
いつの間にか朋也の口元にあった手は航太の腕を掴んでいて、その手にグッと力が入ったのがわかる。
限界が近いのだろう…
航太も手を止めることなく上下に擦り、頂点へと導いていく。
「あっ、あっ、イキそう…航太…、んっ、あぁっ…イクッ…あっ…」
ビクンと体が震えたと同時に、朋也の先端から勢いよく液体が飛び出した。
それを受け止めようと手を伸ばすけど、間に合わずにベッドを汚してしまう。
「ゴメッ、俺…先に…」
「ううん。俺もイキたい…握ってもらっていい?」
「うん…」
一緒にと言ったことを気にしてなのか朋也が謝ってきたけど、航太は首を横に振り優しい口調で問いかけた。
すると、恥ずかしそうに頬を赤くしながら朋也の手がそっと航太の主張している部分を包み込む。
その上に自分の手を重ねると、航太は自身をゆっくりと扱いていく。
「うっ、あ…くっ…」
「すごい…どんどん大きくなってく…」
「だって、朋也に見られてるから…。俺だって興奮する…」
「俺たち、一緒だね」
「そうかも…。これでもう、何も隠すことなんてない」
「えっ?」
「ううん…。何でもない…」
お互いに見られながらの行為は恥ずかしくて、でもあの日見た朋也の姿より、こうして同じ空間でこんなにも近くでそれぞれを感じることができたことで、不思議とずっと胸の中にあったグルグルしていた気持ちがスーッと軽くなった気がした。
朋也は自分が先にイッたことを気にしてか、航太を気持ち良くさせようと一生懸命に手を動かしているけれど、そんなことしなくても握られているだけで十分に航太も反応していた。
航太は自分の手を離し、全てを朋也に委ねる。
「あっ、くっ、んっ…」
「航太…気持ちいい?」
「うん、気持ちいい。すごく…いい…」
「ほんと?」
「うん…」
「良かった。もっと、気持ち良くなって…」
航太は、全神経をピンと張り詰めた。
どんどんと与えられる刺激に血液がドクドクと溢れるように循環し、頭が真っ白になっていく。
「あっ、俺ももう…」
「航太…、イッていいよ…」
「んはぁ…あっ、くっ…イクッ…」
朋也と同じようにビクンと体を震わせると、勢いよく先端から白い液体が飛び出し、朋也がそれを受け止めようと手を伸ばす。
「間に合った」
「ってか、溢れてるし…」
「あっ、ほんとだ…」
「どんまい」
「もう…」
受け止めきれなかったものがツーッと朋也の腕へと流れているのを見て、恥ずかしさを隠すように二人でクスクスと笑う。
ああ、こういう時間が好きだった。
一緒に過ごすこういう時間が当たり前だったんだ。
「俺、ちょっと手を洗ってくる」
そう言って立ち上がろうとした朋也が「うわっ」と声を出したかと思えばバランスを崩して航太のお腹の上に手をついた。
「おい…」
「あっ、ご、ごめん」
「ベッタべたじゃん」
「だって…、まだ余韻残ってるんだから…」
少し唇を尖らせて目を逸らしながら告げてくる姿が可愛くて、またどうでもいい気持ちになってしまう。
「このままシャワー浴びようか?」
「一緒に?」
「そうだけど、いや?」
そう問えば、必死で首を横に振っている。
ちょうど何も着ていないわけだし、二人はそのままユニットバスへと向かった。
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