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俺、今から浮気します【勇輝視点】

  2月も終わりに近付き、俺達が表紙になった雑誌が発売されて2週間が過ぎた。 おかげさまで、売り上げは上々らしい。 元になっているファッション誌からは、これまでにも『料理』やら『ダイエット』なんてテーマでは何冊か別刊が発売になってるそうだが、これまでで一番早いペースでの増刷が決まったらしい。 テレビでも『人気ファッション誌が男性ヌードに本格進出し大成功 その成功の要因は?』なんて特集まで放送になった。 ま、俺は番組の放送中も女優さん相手に腰をヘコヘコ振りまくってて、残念ながらどんな風に紹介されたのかは見てないけども。 現場では、その雑誌の発売前と発売後で一向に態度も様子も変わらない俺に対して妙に気を遣うかのような、けれど少しホッとしてるようなこれまでとは違う空気が漂っていて、なんだかちょっと居心地が悪い。 「もう俺達とは一緒に仕事なんかできない!なんて言いだすのかと思ってたよ~」 今日の相方である大島さんに、ポンと強めに肩を叩かれた。 「アタシもアタシも。正直さぁ、勇輝くんがこうやってAVの現場に帰って来てくれると思わなかったんだよね~。なんせ今やファッションモデル様なわけだし」 大島さんと二人がかりで目一杯可愛がってあげる本日の主役は、俺と一番相性がいいと言われてるアリちゃん。 いつものように俺が持ってきた差し入れのチーズケーキを頬張りながら、ちょっとだけ寂しそうに笑って見せる。 「あのね? なんかさぁ、最近行く現場行く現場でおんなじような事結構言われるんだけど...俺、今のところこの仕事辞めるつもりなんか全然無いよ? だいたい帰ってくるも何も、最初から離れたつもりなんて無いんだし」 「でもさ、最近の勇輝、現場の仕事以外のオファーがすごい増えてるらしいじゃん。それこそ現場に出る暇も無いくらい」 「まあね、確かに依頼はあるし、仕事も増えてる。でも、俺はあくまで『AV男優』としてそういう仕事はこなしてるつもりだから。今はちょっと事情があって撮影セーブせざるを得ないってのもあるんだけど、あと2ヶ月もすれば今まで通りだよ。俺の仕事はモデルじゃなくて男優です」 「イヤン、さすがはアタシの勇輝くん、超カッコイイーーーッ! あ、そうそう...そう言えばアタシも雑誌買ったんだけどぉ...」 「ウソーッ!? そんなのわざわざ買わなくても、連絡くれたらあげるのに」 「いいの! 勇輝くんLOVEで、尚且みっちゃんファンのアタシが、あんな美味しい雑誌買わないわけないんだから。あそこに『写真集、発売決定!』とか書いてあったじゃない?」 「それだよ、それ。今俺が現場仕事減らされてる原因。肌の調子とか体調とか整えないといけないからって。別にこれまで通りでもなんて事はないのにさぁ...」 「だからぁ、写真集まで出すような人気者なんだなぁって思っちゃったら...やっぱり...ほら、別の世界の人になっちゃったみたいで淋しいなって...」 「んもう、雑誌に載ろうが写真集出そうが、俺は俺だよ? アリちゃんが大切な仕事仲間で友達なのも変わるわけないじゃない」 「アホか、勇輝! 俺もそこに入れとけよ!」 全員いつ本番の声がかかってもいいように、ガウンだけ着てベッドの上でワイワイガヤガヤ。 今日は、メチャクチャ甘い顔で甘い声なのに下ネタ大好き...なんてギャップでいつも現場を明るくしてくれる大島さんと、エッチの最中は妙に恥ずかしがり屋でキュンキュンさせてくれるのに、カメラが止まった途端にサバサバですごい元気なアリちゃんが一緒だから、撮影前から俺も結構テンション上がってる。 そんな俺達を見てるスタッフも本当に楽しそうで、そのせいかちょっとテンションのベクトルは変な方向に向かいだした。 「ちょっとさ、今日は内容変更しよっか? その調子で楽しそうにリラックスして喋ってる姿も入れさせてよ。で、適当なとこで誰かがチューでもしてもらって、そっから本番開始にしたいんだけど。あ、誰かとかって言っても、大島さんと勇輝くんのチューはやめてね」 「ああ~ん、アタシ恥ずかしがりやさんだから、そんな風に言われても急に自然に喋るとかできな~い」 「よく言うわ! ほっといてもアリちゃんが一番できるだろ。俺らなんて、そんな慣れてない状況、緊張しすぎてチンポ勃たないよなぁ?」 「ん? 俺はいつでもどこでもどんな状況でも大丈夫ですよ? バッチリギンギンです」 「おいおい、お前どんだけエロい人なんだよ~」 もうカメラは回ってるんだろうけど、そのまんまでいいって言われたせいかさっきと全然ノリは変わらない。 良かったらどうぞ...なんてチーズケーキの隣にはトレーに乗った冷たいビールまで置かれた。 「うわっ、変な撮影! 酒付き?」 「いいじゃん、いいじゃん。変な撮影上等でしょ」 「あ、ちょっとちょっとぉ、アタシの話聞いてってば! だからね、勇輝くんて今度写真集まで出すとか書いてあったじゃない? だからね、もうこのままAVの仕事とか辞めちゃうっていうか、やってる暇なんて無くなっちゃうかなぁって思ってたの!」 「俺も俺も。お前、モデルなんてキラキラな世界を見ちゃうわけじゃない? 俺を捨ててさ、一人だけ違う世界に行っちゃうのかと...」 「バカだなあ。捨てるわけないだろ、洋司...お前だけ残してこの世界を離れたりするもんか...」 ふざけて俺よりも数段いかつい体をガバッと抱き締める。 よりによって、スタッフさんからやめてくれと釘を刺された『俺と大島さんのチュー』で本番開始しちゃうのか? ま、それも面白いと思うけど。 「いやーん、アタシも混ぜて混ぜて」 俺達が抱き合ってる所にアリちゃんがボンッと飛び付いてきた。 それを二人でしっかりと抱き止め、両側からその頬にチュッチュッとキスしていく。 あからさまにホッとしたように息を吐いてるスタッフの気配が面白くて、ちょっとだけ吹き出しそうになった。 それにしても、こんなにグダグダで色気の欠片も無いような会話から入って、果たしてエッチまで到達できるのか?なんて思ってたけど、さすがにそこはそれぞれよく知った者同士。 ついでに言えば、全員がプロ中のプロ。 例え悪ふざけの延長線であっても、素肌が触れ合えばちゃんとそんな気分になってくる。 頬への軽いキスは少しずつ欲を帯び、片方が舌を絡ませれば片方は耳から首筋を舐める...と、いつもと変わらない熱くてイヤらしい行為は順調に進んでいった。 ********** 「お疲れさま。大丈夫?」 ベッドにぐったりと横たわったままのアリちゃんの体を濡れたタオルでそっと拭い、ガウンを掛けてやる。 「うっわ、ヤバいわぁ...さすがに業界屈指の体力自慢二人が相手だと、体も頭もおかしくなりそう」 「どう? 風呂まで行けそう?」 大島さんは早々に下着だけ着け、ベッドへと戻ってきた。 「そこは行けるとは思うんだけど...でもなんか、まだ脚がガクガクしてる。え、もしかしてこの後どっか行くの?」 「ん? 俺はQさんと飲みに行く約束してんだけど、勇輝とアリちゃんはどうする?」 「アタシ、行きたーい。勇輝くんは? 知らない仲ってわけじゃないんだし、みっちゃんも呼んじゃえばいいんじゃない?」 話を向けられて、俺は時計を見る。 「うわぁ...すっげぇ行きたいんだけど、俺まだこの後仕事なんだよ...おまけに、本番があるんだ」 「マジか!? ハード3Pの後で本番とか、えらいタイトなスケジュールだな」 「まあね...今度の写真集の事もあるから、名前売るのにいいかもってうちの鬼社長が引き受けちゃって。そんなにハードな内容ってわけでもないみたいだし、連チャンでもいけるでしょとか簡単に言われた~。ただ、今まで出たこと無い会社での絡みだから、実はちょっと不安だったりすんだなぁ...仕事セーブするんじゃなかったのかよ」 「出た事無い会社? 何、ヤバめのトコとか?」 俺はスマホをタップして次の現場を確認する。 「まあ、別にヤバくはないだろうけどね。『ゴールドライン』って知ってる?」 「...お前それ...知ってるも何も、ゲイビの会社じゃん」 「うそ! やだ、勇輝くん、みっちゃん以外と絡んだりしちゃ嫌だよぉ。そんなのファンは許さないんだからぁ」 「いやいや、ゲイビだったら出ないっての。男性主観のノーマル絡みだってさ。なんかね、その会社の人気トップの男の子...あ、この子元々ストレートらしいんだけど、その子とそれぞれ女性との絡みを撮った後で対談すんだって。あんまり気乗りしないんだよなぁ...ほら、知らない現場ってやっぱ緊張すんじゃない」 「そうかぁ...勇輝ったら、そんなんでも多少は人見知りするもんな」 「そんなんて言うなーっ!」 「ハハハッ、悪い悪い。んじゃ、また今度みっちゃんも誘って一緒に飲みに行こうぜ」 「その時はアタシにも声かけてね」 俺は立ち上がり、グッと背伸びする。 「じゃあ俺、シャワーだけ浴びたら次行くわ。先に帰るけどごめんね」 「はいは~い、頑張ってね」 「お疲れ」 俺はスタッフに挨拶をしながらシャワールームに向かう。 少しでも明るい現場であればいいんだけど...。 ここ最近で一番楽しかった撮影の後だからなのか、余計に今から向かう現場に不安を感じつつ、俺は少し熱めのシャワーで体にこびりついた色んな物を丁寧に洗い流していった。

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