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大阪LOVERS【13】
結局いつも通り、終わりが見えないんじゃないかってくらい長い長いセックスをして終わった。
我慢などせず、欲求と衝動のままに射精する...そんな初めての経験もしてみたけれど、終わってみればなんのことはない。
俺にとって最高に気持ちのいいセックスというのは体内を駆け巡る快感に歯を食いしばり耐え、自分なりのリズムをギリギリまで保ったまま何度も何度も勇輝を絶頂へと追い上げておいて、そしてようやく最後に二人で最高潮を迎える事。
そんないつも通りの事こそが最高だと実感したにすぎなかった。
今までにも、始めて早々勇輝の顔をザーメンまみれにしたり、一方的に攻められて我慢する事なく連続で射精したりって事が無かったわけじゃない。
しかしそれはあくまでも『演技者』としての自分が大半を占めている状態で、そこには俺自身の感情はそれほど求められてはいなかった。
そんな時の射精は、多少の快感を伴うただの生理現象でしかない。
勿論、そこに至るまでの過程に精神的な高揚感があったとしてもだ。
今日の射精も、結局は生理現象だった...最初は。
気持ちの入っていない行為は、結局何も満たさない。
尽くして尽くして、泣かせて悶えさせて縋りつかせて、そして快感に意識の朦朧とする勇輝を見るまでは自分の欲をその直前まで抑え込む...これこそが俺にとっての最高のセックスで、そこまでして初めて幸福感と満足感に包まれる。
こうして考えてみると、周りは俺をSだと言うけれど本当はMなんじゃないだろうか。
勇輝の表情を懸命に窺いながら自分の欲求は限界まで堪え、ただひたすら勇輝に快感を与えて追い詰める。
自分の欲の解放よりも勇輝の望む物を与えてやる事にこそ俺の喜びを見つけるのだから、どうしても俺をSだと言うならそれは『サディズム』のSではなく『サービス』のSだろう。
そうすると勇輝の自称Mは、『マゾヒズム』のMではなく『マネージメント』というところか。
本人は知ってか知らずか、俺に目で体で、そして吐息で自分の望みを伝えてくる。
それを間違いなく俺が汲み取るはずだと。
『甘えたい』
『激しくされたい』
『焦らされたい』
『解放されたい』
俺はそんな勇輝の希望の通りの行為に及ぶのだから、俺達の関係において本当にイニシアチブを握っているのはどちらなのかなんて明白だ。
そう考えれば、俺がSで勇輝がMだという周囲の評価は間違いではないのかもしれない。
勇輝を風呂に入れてやりそのつま先を、ローションにまみれた尻とペニスを、そして胸から脇へと丁寧に洗ってやる。
「ねえ、ほんとに帰るの?」
激しい行為の後で瞼が重くなっている勇輝が少し唇を尖らせた。
その唇に軽くチュッと唇を合わせて、小さく肩を竦める。
「このままゆっくり眠らせてやりたいのはやまやまだけどね、少しでも暗いうちに帰る方がお前の女装も目立たないだろ? それに、さすがに俺もちょっと疲れてるみたいだし...このまま寝たら集合時間までに起きられる自信が無い」
「......なるほど、納得」
クスッと笑いながら俺の手からシャワーヘッドを取り上げると、今度は勇輝が俺の体を丁寧に洗い始めた。
最初こそまた何やら悪いイタズラでも思い付いたのかと思ったが、どうやらそんなつもりは毛頭無いらしい。
肌の表面を滑る手の動きには、怪しげな他意は微塵も感じなかった。
ふと、セックスの最中に勇輝が感極まったように口走った言葉が脳裏を過る。
「なあ...俺ちょっと夢中でちゃんと聞いてやれなかったんだけど...さっき、何言いかけたの?」
「ん? 何が?」
「ほら、何か言ってたじゃん...仕事がどうとか......」
俺のその言葉でようやく何の事を言っているのか思い出したらしい勇輝は、少し困ったような悩んでいるような奇妙な顔をした。
「あれはね...うーん...とりあえず今は忘れて?」
「いやいや、忘れてって......」
「ごめん。気になるのはわかってんだけどさ、俺もまだ上手く言葉にして全部を伝えられるほど気持ちに整理ついてないって言うか...何を言えばいいのか、自分でも固まってないんだ。ただ今日イベントやってみて、んでこうして充彦とエッチして、なんか思わず頭に浮かんだ事をいつの間にか口にしちゃってて...だからね、なんて言うか......」
「うん、そうか......」
一生懸命に自分の言葉を探す勇輝の体をそっと抱き締める。
「んじゃ、まだ気持ちの固まってない言葉を、今無理に探さなくていい。ちゃんと言うべき言葉が見つかったら教えてくれんだろ?」
「......うん」
「じゃあ、俺に言うのはその時でいいよ。決心の付いてない言葉を中途半端に聞いて、俺が変な勘違いでもしたら困るからな。だから今は忘れる、大丈夫」
「じゃあさ...ちゃんと俺の中で固まった気持ち、代わりに一つ言ってもいい?」
「うん、勿論。どうぞ?」
「あのさ...充彦が嫌じゃないなら、俺もう...タチ役はいいかなって思ってる」
唐突な言葉に少しだけ体を離し、思わず勇輝の顔を見つめた。
その顔はまるでウブな生娘のように真っ赤になっている。
「あのさ、俺ね...やっぱり充彦が俺にしてくれるほども充彦を気持ちよくしてあげられてないと思うんだ。ほんと、俺最高に気持ちよくて幸せで...こんな風に充彦に思わせてあげられてる自信が無いっていうか......」
「ふ~ん、そりゃ奇遇だな」
いつまでも勇輝の手の中にあったシャワーヘッドをフックに掛け、改めてその体を強く抱き締めた。
勇輝の腕は素直に俺の背中へと回される。
「俺も、勇輝を上手くコントロールしてあげてる自信無いからさ、やっぱりネコは無理なんじゃないかなぁって思ったとこ」
「...ん? コントロールって何の事?」
「まあ...俺は勇輝にメロメロだって意味かな」
「そんなもん、俺もだっつうの!」
「......ああ、知ってる。ずっと前から知ってたよ。これからもっとメロメロにしてやるから...覚悟しとけよ」
頬を両手でそっと包み、その顔を上げさせて真っ直ぐに俺を向かせる。
「これ以上メロメロになったら、俺どうなっちゃうんだろ?」
「簡単な話じゃん...ただ幸せになるんだよ」
そのまま、深く唇を合わせた。
背中に回った勇輝の手に力が込められる。
なぜだか俺も勇輝も目は閉じず、お互いの近すぎる瞳をずっと見つめていた。
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