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俺、今から浮気します【4】

  タクシーの中では、俺も瑠威も一言も口をきかなかった。 おそらく瑠威はこの後自分がどうなるのか、そしてどうされるのか、少々パニックを起こしていたんだろう。 じゃあ俺はといえば...ただひたすら不愉快過ぎて何も喋る気にならなかっただけだけど。 マンションに着き、乗り込む時と同じように力任せに引き摺り降ろすと、相変わらず無言のまんまでエレベータに乗り込む。 「アンタ、本気かよ...」 「あ? 何、お前もしかしてビビってんの? さっきまではあんなに威勢良かったのに、周りに取り巻きいねえとオシッコちびりそうってか?」 「誰がビビるか、お前みたいな奴に」 「上等...」 強気な言葉を吐きながらも、その精神状態を表すように背中を丸める瑠威。 おかげで俺とそれほど変わらない位置に顔が来て、初めて真正面からその瞳をを覗き込んでやった。 もっと澱んだ、可愛いげの無い目をしてるのかと思ったのに...意外にもその目の奥には純粋な意志の強さを感じる。 視線が合った事で瑠威の瞳が困ったように、そして恥ずかしそうに一瞬揺れるのを見逃す事なく、俺はその唇に噛み付いた。 それ以上の行為を本能的に怖がったのか、瑠威は体を強張らせグッと歯を食いしばる。 「バ~カ、別にここでは何もしねえっての。あ、そうそう...言っとくけど俺、相手にひどい事すんのは嫌いだけど、泣いて縋って許しを乞うくらいまで屈服させるのは嫌いじゃないから。まあせいぜいギリギリまで虚勢張って、少しは楽しませてくれよ」 瑠威の唇の端をペロリと舐めてやれば、その顔色はますます青ざめていった。 上への移動を続けていた小箱の中に、到着を告げる高い音が響く。 しかし、ちょっと落ち着いて考えてみればだ...いくら今は俺の空気に飲まれて体の自由がきかないとはいえ、それでも本気で抵抗するつもりなら、殴りかかるなり蹴り飛ばすなりしてでも逃げようとするもんじゃないんだろうか。 さっきの対談での言葉はたぶん本物だ。 あのスタッフ達の慌てぶりを考えても、コイツはおそらく本当にケツを使ったセックスが嫌いだという事は現場では周知の事実なんだろう。 このまま部屋まで着いてくれば間違いなく犯されるとわかっていて、なぜ体を震わせながらも隣に立ってる? 体格はそれほど変わらない。 いや、寧ろ瑠威の方が大きいくらいだ。 俺を逆に組み伏せるとなると容易な話ではないだろうが、自分一人が逃げるだけならそう難しくはない。 とすれば...コイツは『逃げる事を望んでいない』という結論になるんじゃないのか? それをどう判断する? 俺への反発心や敵がい心がその根底にあるとして、これは単に肝が据わっているのか...それとも...? 俺の想像の通り後者が理由だとすれば、それはそれなりにやり方がある。 目の前の扉が開くと同時に、相変わらず腕を強く掴んだまま廊下の突き当たりまで真っ直ぐに進んだ。 鍵を差し入れたところで、いきなりドアが大きく開く。 「おう、おかえり。お疲れさんだったな。とりあえず社長には変な仕事入れるなってクレーム入れといたぞ。んで、たいそう生意気な子猫ちゃんてのは...ソレ?」 半歩後ろで青い顔をしている瑠威を顎でさす。 俺の表情から何かを感じ取ったのか、珍しく充彦の方も口許から笑みを消していた。 自分より10センチ近く上から冷たい目で見下ろされ、瑠威はさらに足を後ろに引く。 「そう、コレ。ごめんね、ちょっと迷惑かける。ほら、さっさと入れよ」 突き飛ばすように瑠威を玄関に押し込み、俺は後ろ手に鍵をかけた。 「ようこそ、子猫ちゃん。いつも大人しい勇輝をこんなに怒らせるとか、なかなか珍しいモン見せてくれてありがとね~。お礼にコーヒーくらい入れてやるからさ...おら、こっち来いよ」 「お、お前...自分の恋人がわけのわかんない事しようとしてんのに、止めるとかなんとかないのかよ!」 「止める? なんで? 俺はただ、特別お行儀の悪い子猫ちゃんに、きっつくお仕置きするから手伝えって言われてるだけだし。この世の中、お行儀の悪い子は嫌われるんだぜ。AV業界じゃ誰もが羨む勇輝じきじきのお仕置きだ、ありがたいと思えよ」 充彦は本当に猫にするように襟首を掴み、吊るすようにしながら瑠威をリビングへと引きずっていく。 俺も後に続けば、そこには頼んでおいた通りベッドの形状に変えられたソファと、ローションのボトルやバイブの入ったプラスチックケースがちゃんと置いてあった。 俺の言葉がただの脅しではなく本気だと言わんばかりのその光景に、瑠威がようやく力無く暴れだす。 「いいから大人しくコーヒー飲んで、さっさと服脱げよ。さっきも言ったけど、俺は別に乱暴するのは好きじゃない。ただな、お前がそうやってビビりまくって暴れるなら、暴れる気すら無くすくらいの事はするけど?」 俺の威嚇の言葉を聞きながら、ニヤついた充彦が瑠威の前にマグカップを置いた。 さも悪っぽい迫力を出そうとしてるわりに、わざわざちゃんと挽きたてのコーヒーを淹れてやったらしい。 お気に入りのハワイコナの香りが広がる。 「勇輝も飲む?」 「今はやめとく。まだコイツと馴れ合うつもり無いからさ。それに...リラックスしたくないから」 「オッケー。んで、これからどうすんの?」 香りに引き寄せられるようにチビチビとマグカップに口を付けていた瑠威の肩がビクリと震える。 「コイツさ、散々これまでビデオでネコ役やってるくせに、ケツで今まで一回も気持ちよくなった事が無いんだってさ。だからね、ちょっとそっちを教え込んでやろうかと思って。普段はケツに突っ込まれて喜んでるカマ野郎にガン掘りされてアンアン喘ぐなんてなりゃ、そりゃあ笑えないくらい滑稽だろうな」 「へぇ...もしかして、勇輝にそんな事言ったわけ? あ~らら、こりゃあとんだ跳ねっ返りのバカ猫だわ。じゃあ、ブチ込むとこからは勇輝がやるとして、とりあえず先に俺がドロッドロに溶かして喘がしといてやろうか?」 最初はそのつもりだった。 前戯は充彦に任せたほうが快感を得るのは早いだろう。 男を感じさせる事は俺よりも慣れてる...それは誰よりも俺の体が知ってるから。 でも...瑠威の様子を見てて考えが変わった。 ここから充彦には、ある意味一番大切な役を頼まなければいけない。 「いいよ、今日は全部俺がやる。充彦にはさ...ちょっとお願いがあんだけど」 「うん、何?」 「俺がコイツ犯してるとこ、一部始終録画して」 俺の言葉に、瑠威がダンッと激しい音をさせてマグカップを机に置いた。 まだ飲みきれていなかったコーヒーがテーブルに少し溢れる。 「ふ、ふざけんな! 仕事でもないのに録画なんてされてたまるか!」 「うるせえよ...お前は俺に、ビデオ一回分の出演料で買われたんだろうが。発売しようがプライベートだろうが、ビデオ回して何が悪い。ほら、飲み終わったならさっさと服脱いでそこに横になれ」 「だ...誰がやるか、バーカ!」 慌てて踵を返し、部屋から逃げ出そうとする瑠威の髪を掴む。 「バカはどっちだ、バカ。お前はな...喧嘩売る相手を間違えたんだよ」 いや、本当は...たぶん一番正しい人間に喧嘩売ったんだ。 本人にそんな意識は無かっただろうし、俺の方はまだ相当不愉快ではあるけれど。 だけど瑠威の抱えてる物が想像通りなら...そう、お前が俺に喧嘩を売るのは必然だったはず。 俺はほくそ笑みながら、瑠威の安っぽいシャツを力任せに左右に開く。 シャツよりも更に安っぽいボタンは、まるでポップコーンのようにピンピンとあちこちに飛び散った。 そのまま投げつけるようにその体をソファベッドの上に倒し、細い首にグイと手のひらを食い込ませる。 「ひどくされるのと気持ちよくされんの...どっちがいい? お前に選ばせてやるよ。まあどっち選んだところで...最後はザーメンまみれでここにひっくり返ってんのは一緒だけどな」 首を押さえつける手に力を込める。 そのまま落ちても困るんで頸動脈だけには触れないようにしていたが、それでも押さえた場所からはグギッと変な音がした。 瑠威の手が必死に俺の肩をタップする。 俺は眦に滲んできた涙をペロペロと舐め取りながら、首もとの手を外してやった。 「ほら、どうして欲しい?」 「......気持ちよく...」 「あ? 聞こえねえんだけど?」 「き、気持ちよくしてみろよ、バ~カ!」 「おう、してやるよ。ただしな...」 今度はその顎をガシと掴む。 首を落ちる寸前まで絞められた恐怖からか、俺と視線を合わせる事もできないまま瑠威の体はカタカタと小さく震えだした。 そっと体を倒し、耳をチロチロと舐めながら孔にフーッと優しく息と言葉を吹き込む。 「いいか、今から俺と充彦の言いつけは絶対だ。言われた事は必ず守れ。そしたら...これ以上の乱暴はしない」 その約束は守ると言うように顎を掴んだ手を離し、そっと頭を撫でてやった。 髪を梳き、キュッと体を抱き締めてやると、ゆっくりと腕の中の強張りが解れていく。 「ちゃんと俺の言うこと聞く?」 壊れた人形のように瑠威はカクンカクンと頷く。 「よし、じゃあ最初の言いつけだ。お前は気持ちよくして欲しいんだろ? 痛いのも苦しいのも嫌なんだよな?」 瑠威の首は、またカクンカクン動いた。 「じゃあ、ちゃんとお願いしようか。俺の目を見ながら言ってみ? 『気持ちよくしてください』って」 ま抱き締めたままの体が再び強張った。 当たり前なんだろうが、戸惑うその口から言葉自体がなかなか出てこない。 瑠威の目は、怯えとプライドで細かく揺れていた。 大丈夫...これ以上力任せに脅す必要はない。 瑠威はもう...俺の手の中だ。 「ちゃんと言えたら、驚くくらいに気持ちよくしてやる。お前が知りたがってる事教えてやるし、お前の世界が変わるから、絶対に。いや、変えてやるよ。だからな、あんなくだらないスタッフに無理矢理作られた小さな嘘っぱちのプライドなんて捨てて、俺に縋って甘えてみろ」 俺の言葉に驚いたように瑠威の目が大きく開く。 その体の小さな震えはいつの間にか止まっていた。 一度その目をギュッ閉じ『ハァ...』と大きく息を吐くと、今度はしっかりと開いた大きな目を真っ直ぐに俺の方に向ける。 「勇輝...さん...気持ちよく...俺を気持ちよく...してください...」 上出来だとその頭を撫で、充彦がカメラを構えたのを確認すると、瑠威の唇にゆっくりと...そしてしっかりと俺の唇を合わせた。

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