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緊急配信!? クイーン・ビー・エクスプレス【4】

「改めてって言ってもなぁ...うん、じゃあちょっと先の夢も含めて話をしようか。これをご覧いただいてる方はもうご存じだと思いますが、わたくし坂口充彦はですね、今年いっぱいをもちましてAV男優という仕事から引退することになりました。実はもう絡み...というか、AVの方の出演についてはすべて撮影を終わってます。今後は写真集の宣伝を兼ねてのテレビ出演と雑誌のインタビューにグラビア、あとはモデルの仕事くらいかなぁ...あ、まだ内緒だけど企画物はあったね。でもまあ、AV男優としての仕事ではないか」 「これは誰でも感じる疑問やと思うんやけど、なんで引退せなあかんかったん? そもそも、今引退せなあかん理由って結局何?」 「俺が料理とかお菓子なんかをいつも作ってるっていうのはみんな知ってると思うんだけど、これって元々は趣味じゃなくて...一生の夢だったんだんだよね。パティシエとしていつか自分の店を持ち、俺のお菓子を食べてくれる人を一瞬でも幸せにしたいって思ってた。これでも、その為の学校にもちゃんと通ってたんだよ?」 「それがまた、なんでこっちの世界に来る事になったん?」 「うーん...まあ、あまりにも重い話なんで詳しくは言えないんだけど、まあザックリ言っちゃうと家族の裏切りにあって学校に通えなくなったんだ。借金取りに追っかけ回されたりして、パティシエなんて甘い夢を見てられなくなったの。ただ今回、俺をそんな状況から助け出してくれた人からのたっての希望で、もう一度夢を追うことになりまして...春から改めて製菓の専門学校に通います、はい」 「......とまあ、ここまでの話はね、実は俺らも前から聞いてて知ってたんですよ。んで、これは純粋に俺の疑問」 「おう、何?」 「まずね、今回のイベントに来てくれた人やったらようわかったと思うんやけど、みっちゃんのお菓子とか料理のレベルって『プロ並み』なんてもんやなしにもう『プロ』やん? いや、ほんまに手際とかもすごかってんて、そばで見てても。そんなみっちゃんが、今更学校て行かなアカンもんなん?」 「技術っていう事だけで言うなら、まあ一回り下の同級生には負けないと思うよ、実際の話ね。学校通ってる時にも、結構有名な店でバイトさせてもらったりもしてたし。ただ、俺がそっちの世界から離れてた間に、お菓子の流行も作り方の主流も随分と変化してるんだよね。そういう意味で、今の洋菓子の世界での主流を知りたいっていうのが一つ。あと、こっちの方が大きいんだけど、この10年弱で食品に関しての法律も変わってるし、社会情勢だとか店の経営方法なんかの変化ってのも大きかったはずなんだよね。だからそんな『学科』の方を改めてきっちりと勉強したいって思った」 「ふ~ん...でもな、みっちゃんて勇輝くんみたいに現場掛け持ちしてるってわけでもないし、本番もせえへんわけやん? 今までのペースでなら、引退なんかせんでも仕事続けられるんちゃうの? 辞めたいと思うくらい、この仕事嫌やった?」 「嫌ではない、これは間違いないよ。でも、やりたいんだ、俺がやるべき仕事なんだって気持ちがものすごく薄くなってたのも間違いないんだよね。これは仕事の内容がダメなんじゃなくて俺自身の問題なんだけど。やっぱり男優である以上、ちゃんと絡んで女の子気持ちよくさせて、男の子勃起させてナンボだと思ってるから、それをできない俺は失格だろって気持ちはあった」 「でも! みっちゃんは絡み無くても女の子惚れさせるし、見てる方もガチガチになるから需要があったわけじゃないですか。何よりこのビー・ハイヴに移籍した事で、無理に本番が無くたって十分見てる人を喜ばせられる作品への出演は可能になったわけですし......」 「俺、擬似すらダメだからさ...抱いてるフリもできないとか、やっぱり相手の女優さんに失礼だろ?」 「そしたら、結局は仕事を続けられへんから引退なん?」 「いや、違うよ。この世界は俺にとって特別だからさ...無様でも相手に失礼でも、ほんとは勇輝と同じ世界にいたかった。でも、これから本気でパティシエを目指すにあたってね、ゆっくり修行の時間がある若い人と違って、俺はそこそこ力付けたらすぐにでも店を起ち上げないといけないんだ、恩人の為にもさ。だからお菓子の勉強と同時に経営だとかって事も実践で覚えていかなくちゃいけない」 「充彦は、うちの事務所で経営だの経理だのって事務作業の手伝いするんだよね?」 「そ。あとは勇輝のマネージャーね。コラムなら家とか事務所ででも書けるし、モデルの仕事は俺に時間合わせてくれるなんてありがたいこと言ってもらってるんで、この二つだけ継続させてもらうことになってるけど」 「未練は無いん? 不安とか?」 「......あるよ、未練も不安も...実はどっちもある。勇輝と違う世界に一人で行きたくないって気持ちが強いから情けなくてもAV男優の看板は下ろさなかったんだし、これまでは採算なんて度外視してたからこそお菓子作りを楽しいと思ってたのかもしれないだろ? 経営って現実を考えないといけなくなった時、それでも俺は夢をちゃんと持ち続けてられるのか、やっぱり正直怖いもん」 「あのぉ...充彦、今の話聞いたらさ、俺の話を先にしたくなったんだけど...いいかな?」 「ん? この流れに関係のある話なの?」 「......うん、関係あるよ。つかさ、相当大事な話...のつもり」 「ああ、じゃあ...ちょっと勇輝の話を先に聞かせてもらう?」 「......あ、えっとぉ、スタッフさんからもオッケー出てるんで、ではちょっと勇輝くんの話を先に聞かせてもらいましょうか?」

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