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緊急配信!? クイーン・ビー・エクスプレス【5】
「勇輝くんがどうしても今せなアカン話って...なんなん?」
「えっとね...俺は中学を出てからすぐ、年齢を偽って、ゲイバーでボーイをしながら売春という形で体を売って生活してきました」
「勇輝っ!」
「ちょっ、勇輝くん! いきなり何を言い出して......」
「ごめんごめん、みんなに何の相談もしないで。ただ、今回の週刊紙の記事読んでね、有ること無いこと好きに書かれるって事がほんとに怖くなったんだ。俺ら男優でもこんな記事になるんだよ? ほんとかどうかの確認も何も無しに、いきなり記事にされてるんだよ? そんなのさ、この先何を書かれるかわかんないじゃない...せっかく充彦が新しい世界に進もうとしてるってのに。俺の過去を面白おかしく記事にして、嘘もホントもごちゃ混ぜになってて...それがもし、これから充彦が動く時の足枷にでもなったらどうすんの」
「せえけど、それ言うたら...言うたらアカン話やん......」
「ごめん、ちょっとカメラ止めて。お前、勝手にそんな話したら......」
「あ、止めなくて大丈夫。充彦も慎吾も、ほんと心配いらないから。俺ね、この記事出てから、今後迷惑かけるかもしれない可能性のある人に片っ端から連絡して謝って、ちゃんと許可もらってきたんだ。みんな、俺達の為になるなら、何らかの形で公になる事になったとしても構わないって言ってくれたよ。それにね、社長にも斉木さんにも杉本さんにも、先に話は通してある」
「えっ? みんな...納得済み? つか、知らなかったのって、俺らだけ?」
「そう、ごめん。みんなに言うと、こうやって止められると思ったから。でも実は、この場で言うかどうかはまだ迷ってたんだけどね...充彦の話聞いてたら、やっぱり今話しておいた方がいいだろうなぁって決心ついた」
「どうする、慎吾くん。これって慎吾くんにも関わりあるだろ?」
「......俺はかめへんよ。勇輝くんが決心してるんなら、俺が止めてエエはずがないし」
「慎吾、ごめんな。ほんとはお前だけにでも相談するべきだったかも。じゃあ、改めて...えっとですね、俺は中学を出る頃に実の母親に捨てられました。いやまあ、実際は...産まれた時にはもう捨てられていたのかもしれないな、可愛がってもらったって記憶も無いし...ただ暴力を振るわれなかったってだけで。当時母親が何の仕事をしていたのかは知らないけど、おそらくは複数の金持ちの男の愛人をやってたんだと思います。男出入りが本当に激しかったし。俺の初体験の相手はその頃の母親の恋人と思われる男の一人でした。その事がショックだったのか、他に理由があるのかはわからないけど、実は当時の記憶は曖昧だったりします。まあ、そんな環境の中でも、金だけは常に置いてくれてたんで、一応学校に行く事も飯を食う事もできてました。今思えば、それがあの人なりの精一杯の愛情表現だったのかな? んなわけないか。そんなある日、突然母親は消えました」
「消えた...ん? 消息はわからず?」
「うん、全然。母親よりも途中から俺に入れあげてたおじさんに聞いたら、どうも若いホスト崩れの男と逃げたんじゃないかって。後の事は何も知らない。ただとにかく頭の中は『明日からどうやって生きていこう』って事でいっぱいで、俺を捨てた人の事なんてどうでも良かったんだ。俺ね、中学の時には...俺の体は金になるんだなぁってわかってた。そのおじさん、俺を抱いてはそのたびに結構な金を握らせてくれてたから。それで、母親が出て行った事で生活もままならなくなった俺は、年齢を偽ってゲイバーのボーイになり、同時に客と金で寝るようになりました」
「その店の後輩が...俺ですわ。そりゃあもう、当時から勇輝くんの美しさと気遣いとテクニックは半端やなかった。ボーイみんな勇輝くんに憧れてたもん。俺も勇輝くんに憧れてたからこそ同じ店に入ったんやし。せえけどその店が潰れてもうて、勇輝くん行方不明になって......」
「そこから、AVの世界に入ったんだよな?」
「他にできる事、無かったんだもん。ホストの誘いもあったけどさ、男に狂ったらしい母親に捨てられた俺が、女の子狂わせて金貢がせるわけにいかないじゃない? 俺には学歴が無いし、身寄りも保証人もいない元ゲイボーイを雇ってくれる仕事なんてなかなか無くてね...そんな時にAVから声がかかって、まあ金貢がせるホストやるくらいなら自分の体切り売りする方が向いてるだろうと思ったの。とりあえず夜間の高校に通う為の資金稼ぎくらいにはなるかと思って、腰掛け気分でやってみたんだ。そしたらさ、思ってた以上に変人多くて、優しい人も偏見の無い人も多くて...俺にとっては、難しいけどすごく居心地のいい世界だったんだよね」
「そりゃあもう、勇輝のデビューは業界を震撼させたからね。とんでもない美形の、とんでもないテクニシャンが入ってきた!って」
「そんな評判は知らなかったも~ん。とにかく現場の空気の作り方、女優さんの見せ方...毎日毎日一生懸命に勉強できるのが嬉しくて、頑張ったら頑張っただけ周りに認めてもらえるのもほんとに嬉しくて、朝から晩までセックスの事しか考えて無かったな。ここにしか俺の居場所は無いんだ、ここだけが俺を必要としてくれるんだって信じてたから」
「で、充彦さんと...出会ったんですね?」
「うん、そう。ちなみに今話した過去に嘘は無いので、これ以上探ってももっとエグい話なんて物は出て来ないし、母親に対してはもう何の感情も無いので今更探しても感動の再会なんて事にはなりません。だから、無駄な事は止めておいてくださいね。さて、これで...俺が隠し続けた過去の話は終わり。んでですね......」
「ん? 続きがあるの?」
「あるよ~。なんの為に、俺が足枷になりそうな過去を晒け出したと思ってんの?」
「え? それってどういう......」
「これから俺は...未来の話をします。過去に縛られず、俺が初めて持った...夢の話をします」
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