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ふたりのカタチ【4】
リンスも終わらせて勇輝を先に湯船に放り込むと、続いて自分の頭を猛ダッシュで洗っていく。
綺麗な勇輝の綺麗な髪の毛の時はともかく、正直俺の頭なんて匂わなければいい。
爪が当たろうが毛先が絡まろうがお構い無く、ガシガシと一気に泡を立てた。
「充彦、髪傷んじゃうよ」
「いいの、いいの。お前みたいにエンジェルリングがあるわけじゃなし、俺の髪なんて何やったってへっちゃらへっちゃら。つかさ、今俺のやるべき事は、一刻も早く頭洗い終わって、お前とイチャイチャしながらゆっくり話を聞く事だからさ」
泡だらけの頭でニッと笑えば、勇輝も少し呆れたように笑顔を向けてくれた。
それがやたら嬉しくて、頭をワシワシする手に更に力が入ってしまう。
「充彦は...いっつも俺を優先してくれるんだね...ほんとに、いつもいつも......」
「おい、間違えるなよ。お前の為に俺が何か我慢してるとかじゃないからな。俺にとってはお前を綺麗に、とにかく幸せにしてやる事が一番大切だってだけだ」
シャワーの水圧をMAXにして、勇輝に背中を向けながらシャンプーの泡を一気に洗い流していく。
今、勇輝の顔は見たくない。
たぶんまた...あのいつもの少しだけ苦しそうな顔をしてるだろうから。
これだけは何度話して聞かせても、どれほど納得させようとも...どうしても勇輝の心の中から追い出しきれない部分。
やっぱり勇輝は、自分の為に俺が犠牲になっていると思っている。
頭では俺の言葉を理解しているはずなのだ...俺の行動のすべては俺自身の為の物だと。
俺の望みの為に俺は俺のやりたい事をやっているだけなんだと。
ただ、心がどうしてもそれを受け入れきれていないのだと思う。
だから俺が、『自分の事はどうでもいい。勇輝こそが大事』という言い方をすると、時に傷ついた目を向ける。
特に今のように、精神的に少し不安定な時にはその表情はあからさまだ。
『ありがとう』と照れる事もなく、『またそんな言い方ばっかりして!』と適当に受け流す事もできず。
ただ俺を見ながら口をつぐんでしまう。
だから見ない。
俺はそんな顔をさせたいわけじゃない。
いつか俺の気持ちを心から理解してくれる日がくるはずだと気持ちを切り替え、リンスを適当に毛先に馴染ませると、それもさっさとシャワーで流した。
そのまま体も軽く洗い、勇輝の顔を見ないようにしながら浴槽に脚を入れる。
何も言わなくてもわかっているのか、勇輝は黙ったままで自分の後ろに少しだけスペースを作ってくれた。
遠慮なくその小さいスペースに体を縮めながら座り込むと、勇輝の腰を挟むようにして脚を伸ばす。
いつもならすぐに俺の胸に凭れてくるはずの勇輝の背中は、いまだ目の前で丸まったままだった。
仕方ないから、後ろから包み込むようにして抱えている膝ごとそっと抱き締める。
「充彦...ほんとに...ごめん......」
「ストーーーップ。いいか、今から二人で大切な話をするよな? それで、勇輝にどうしても守って欲しい約束があるんだけど?」
「やく...そく......?」
「そう。一つは、今みたいにすぐに謝るな。さっきも言ったよな? 今の俺はまだなんにもわかってない。勇輝が何に対してそんなに謝ってるのか、なんでそんなに謝らないといけないのか。だからお前の話聞いてみて、『なるほど、それはどうしても納得がいかない』って思ったら、その時はちゃんと正直に言う。謝るならそれからだ。俺が『謝れ』って言うまで、絶対に謝るな」
「......わかった...」
「もう一つはな......」
抱き締める腕に力を込め、そっと首筋に唇を押し当てた。
丸まっている背中がピクリと小さく揺れる。
「上手く話そうとか、理解してもらわなくちゃなんて考えなくていいよ。時系列がグチャグチャでも、ちゃんとした言葉が浮かばなくても、話がとっちらかってても構わない。だからね...とにかく全部話して。何をどう思ったのか、それに対してどんな風に感じたのか、とにかく全部。それを聞くのは俺だから...勇輝がどんなに混乱して話がメチャクチャでも、文章が繋がらなくても聞くのは俺なんだから。全部ちゃんと理解する、全部受け止める。いいか? わかった?」
勇輝は、前に回した俺の手に自分の手をポンと重ねると、少しだけ俺の方へと体重を掛けてきた。
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