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ふたりのカタチ【5】
「今回みたいな事考えるようになり始めたのがいつ頃だったのか、実はハッキリはわかんないんだ......」
「そうなの? まあハッキリはしなくてもさ、転機になったのはやっぱ大阪だったって事なんだろ? 違う?」
俺の問いに、勇輝は小さく頷いた。
「俺さ、航生を一生死ぬ気で守るつもりだったのね。ほら、やっぱり俺が無理矢理こっちの世界に引っ張りこんだようなもんだし。慎吾にしても、元々俺がセックスのやり方教えてずっと可愛がってたわけじゃない? そんな俺を追っかけて、アイツ関西に帰ったり東京戻ってきたり...俺にそんなつもりは無かったけど、結果的に振り回しちゃったみたいな気がしてて、だからこそほんと大切にしようと思ってた」
「慎吾くんに関しては、お前が悪いとか迷惑かけたとかじゃないじゃん。どの行動も、あくまで自分の意思だったわけで。それに航生にいたっては、お前が強引にでもこっちに引っ張ってなきゃ、今頃体も心もボロボロだぞ。お前が負い目に感じる事じゃないだろ。だいたい、これからだって別に俺らの関係が変わるわけじゃなくない?」
「あ、うん、それはわかってるんだ...これからも大きくは変わらないよね。この先もずっと俺達と航生達って仲良く並んだまま、きっと支え合って生きてくんだと思う。ただね、俺ってば偉そうな事に『守ってやらなくちゃ』って考えてたんだ、二人とも。でも......」
「......ああ...うん、なるほど、今の言葉か。守らなきゃって思ってたけど、守るんじゃなくて支え合うって気持ちに変わった?」
「...うん。たぶん、航生が自分の意思でゲイビに出るって決めた時に、ちょっとだけ『あれ?』って思ったんだと思う」
自分なりに、ちゃんと思った通りの言葉が出てきたんだろうか。
少しリラックスしたらしく、いくらか力の抜けた背中がゆったりと俺の方に重みをかけてきた。
俺はようやく無防備に開かれた腹の前で腕を組み、更にお互いの肌の触れる面積を大きくしていく。
「でさ、大阪のイベントでね...ほら、ファンの女の子からの質問なんかにはアタフタしちゃって『いつもの』航生だったんだけど、慎吾の事でさ...控室にでっかいワンちゃん達来たじゃない?」
「はいはい、来てたねぇ。怖そうな見た目で実は一番大人しいセントバーナードとか、可愛い見た目のくせにキャンキャンよく吠えるスピッツとか」
「スピッツって...ま、ほんとそんな感じだったけどさ。で、あのメンバーに対しての航生見た時に驚いたんだよ、『コイツはこんなに強い男だったのか? 何がこんなに航生を変えた?』って」
「確かに、あの控室で見た航生は...カッコ良かったな。感情に任せてるように振る舞ってたけど、ほんとは慎吾くんの立場もJUNKS?のメンバーの気持ちもちゃんと考えて動いてて」
「でしょ? アイツはさ、ほんとに優しくて強い...あ、違うな。優しいから強いんだって実感したんだよね。あの場は早く納めないといけなかったから俺ら口挟んだけど、実際航生一人でもちゃんとアイツらを納得させられたと思う。文句のつけようが無かったもん、顔付きも言葉も迫力も...慎吾への強い気持ちに溢れてた。改めて考えてみたら、アイツは最初から強かったんだよな...俺なんかよりずっと。辛くても苦しくても、やりたい夢の為に一人ぼっちで歯を食いしばって生きてきてたんだもん。俺はたまたま周りにいた人に恵まれてたってだけでさ......」
勇輝がこれまで一人ぼっちにならなかった事こそ、勇輝の魅力で強さなんだけどな...たまたま恵まれていたんじゃなく、自分が周囲を自然と惹き付けているんだとは考えないらしい。
まあ今はそれをわざわざ持ち出す必要もないかと、ただ抱き締める力を強くして頷いた。
「慎吾もね、ほんとイイ奴なの。すっげえ可愛い奴なの。ご両親から存在自体を否定される言葉を投げつけられて、何度認めて欲しいって頭下げに行っても汚い物を見るみたいな目を向けられて拒絶されてさ...あ、俺ね、一緒に挨拶に行った事あるんだ、実は。塩撒かれちゃったんだけどね。そういう事情もあって、少し投げやりって言うのかな...見てて心配になるくらい、刹那的な生き方をしてるって感じてた」
「自称ビッチの小悪魔ちゃんだもんな」
「......セックスしてる時だけは自分を認めてもらってる、求められてるって実感できただけなんだと思うんだ。『あの頃の自分を止めてくれたら良かったのに』とか言う事もあるけどね、俺には止められなかったの...あの頃の慎吾にとって、人肌こそが大事なのわかってたから」
「能天気に見えて、慎吾くんもずいぶん辛い思いしてたんだ? 家族がいても、俺らとおんなじ一人ぼっちだったんだな......」
「端から『家族なんていない』って思って生きてきた俺らより、ほんとはちゃんと家族がいるのに『誰もいない』って思い込まないといけなかった慎吾の方が辛かったかもしれないね、実は。でもそんな慎吾に、優しくて強い航生が絶対的な居場所を作った...誰がいなくても自分だけはそばにいるって安心感が、慎吾にも強さを与えた」
一人じゃない今を確かめるように、勇輝が俺の手に自分の手を重ねる。
俺も一人じゃない今を噛み締めるように、目の前に晒された綺麗な首筋にゆっくりと唇を滑らせた。
「セックスこそが自分の存在証明みたいに思ってる人なら、俺も知ってるけど?」
「......それって誰の事?」
「ん? 自覚無し?」
「あるよ...あります。だからさ、一生懸命考えたんだよ。絶対的な居場所を見つけた航生と慎吾に、もう俺のお節介なくらいの助けは必要無いんだなって。じゃあ俺に絶対的な居場所を与えてくれてるのは誰なのか...俺が本当に助けていかないといけないのは誰なのかって」
「絶対的な居場所ねぇ......」
「ステージでさ、俺と慎吾が二人で歌って踊ってってしてる時に、無理矢理航生と替わったの覚えてる?」
「覚えてるよ」
「二人が並んで歌ってるの見てて、俺泣きそうになった...ああ、この二人ならもう大丈夫だって。んでね、俺の隣で充彦が踊ってくれてるの見た時に...俺ももう大丈夫だなぁって思ったんだ。俺の居場所、ここにあるじゃんて改めて気がついた」
腕の中の勇輝の体がゴソゴソと動きだす。
脚を跨ぎ体を反転させると、俺と勇輝は真っ直ぐに対峙する格好になった。
「この体勢、ヤバくない? チンコ同士がチューしてますけど?」
「まだ二人ともフニャフニャだから問題ないって」
そう言うと、勇輝が俺の首にしっかりと腕を回してしがみついてくる。
「俺がこれから守らないといけないのは充彦と、充彦の隣にいる俺。俺が支えないといけないのは充彦と俺が一緒に見る夢。航生と慎吾の姿が、改めて俺にそれを教えてくれたんだ......」
嬉しそうに耳元でそう呟く勇輝の声にあらぬ所が反応しそうになりながらも、俺は構わず勇輝の体をギュッと抱き締めた。
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