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ふたりのカタチ【9】

耳たぶを鼻先で擽りながら、腿に乗せたままの腰の下へと手を伸ばす。 「んんっ...充彦ぉ...」 いつも以上に俺の名前を呼ぶ声が甘い。 イベントが終わってからは勿論、雑誌に写真が掲載されてからもセックスはしていた...そう、これまでと変わりなく。 けれど考えてみれば、その頃から勇輝はもうずっと大きな秘密を一人抱え込んでいたわけで、俺に抱かれながらもその行為に本気で溺れる事なんてできてなかったのかもしれない。 辞めると話した後の俺の反応に怯える気持ちや、かつて自分を愛してくれた人達への謝罪の気持ちが、きっと頭の中をグルグル回っていただろう。 改めて思い返してみれば簡単にわかる事だ。 いつも通り丁寧に触れても、激しく中を突き上げても、勇輝はイケない日が増えていた。 『ちょっと疲れてるみたい、ごめんね』と泣きそうな顔で自らを扱いている姿を思い出す。 これまでにも無かったわけじゃないとはいえ、本当に単純に『相当疲れてるんだなぁ』としか思わなかった自分が情けない。 そして、『少し体を休めた方がいいだろう』と、翌日にはその肌に触れようとすらしなかった事が。 あの時、異変は体調のせいなんかじゃないって気づいていれば、こんなに長く勇輝を一人で苦しませる事も無かったというのに。 無理矢理にでも俺自身の手であの時にイカせていれば、秘めていた思いや悩みを吐き出させてやれたかもしれなかったのに。 「充彦、いっぱい触って...俺にもいっぱい触らせて.....」 すべての重荷を下ろした勇輝は、ようやく心から俺を欲しがる事ができているのだろう。 これほど甘える声を聞くのも、ずいぶんと久しぶりのように感じられた。 水の浮力を借りて少しだけ腰を上げさせると、指の腹で会陰から窄まりまでをそろそろとなぞる。 「んふぅ...擽ったいよぉ...」 俺の首にしがみつき、熱い息を吐きながら腰を捩る勇輝。 けれどそれは、決して嫌がっているわけではない。 既に反り返るほど昂った自分のペニスを俺の物に微かに擦り付けながら、じっと俺を見つめてくる。 ゆったりと表面を滑っていくだけの指先の動きに焦れ、無意識にそれを飲み込もうと腰を揺らしているらしい。 胸につかえの無くなった勇輝は、やっぱりどうしようもなくいやらしくて可愛い...こんなねだり方をしなかった事にも気づかないなんて、本当に疲れてたのは俺の方だったのかもしれない。 「触ってほしいの?」 「うう...ん、入れて欲しい......」 「さすがにいきなりはダメ。ほら、ちゃんと抱っこしててやるから、自分でケツ開いてみ?」 プゥと唇を尖らせ、拗ねたような顔をして見せるが、ペニスを握っていた手は大人しく後ろへと回っていく。 「勇輝、いいね...ヤらしくてすげえ可愛い。そのままゆっくり腰下ろして。大丈夫、お前を傷つける事はしない」 奥まった場所に指の腹を当て、ここに下りておいでとトントン合図を送ってやる。 相変わらず拗ねたままの口許と、それに相反するように色を滲ませた目。 こちらの反応が正解だと目元に唇を押し付ければ、艶の中に僅かに戸惑いを浮かべながらもゆっくりと腰を沈めてきた。 まだ今日はそこを掠める程度にしか触れていなかったというのに、指の先は面白いようにツプンと中へとめり込む。 「っん...ふん......」 「すごいね...なんもしてないのに、なんかもうこんなに柔らかい......」 話が終わった事。 隠し事が無くなった事。 俺が変わらず勇輝を愛し続けている事。 そして...体温に近いくらいの温い湯の中で抱き合っている事。 ありとあらゆる緊張が無くなり、勇輝の体の強張りも解けたのかもしれない。 「んっ...だから...もう入れて欲しいって......」 「それはダメだって言っただろ? ここが切れでもしたら、今からたっぷり楽しめない。朝までずっと繋がってたいんだ...二人ともクタクタになって、ドロドロになって、最高に幸せで気持ちよく眠りたい。ダメ?」 「ダメ...じゃないけど......」 「けど?」 中に入り込んだ先端だけを、クイクイと小さく動かす。 「あぅっ...んっ......」 「けど、何?」 「充彦が...クタクタになるまで...したら...俺...ぁっ......起きて...られない......」 「ん? 意識無くなってたら、ちゃんと頬っぺた張ってでも起こしてやるから大丈夫」 「ど...んだけ鬼畜...なんだよ......」 「じゃあ、眠ってても意識飛ばしてても、お構いなしで突っ込むから大丈夫」 「変わんないってば...それなら起こして...もらう方が...マシ...んもう、そんな事より...ねぇ......」 いつまでも入口付近をクチクチと弄っているだけなのが、よほど気に入らないらしい。 抗議のつもりなのか、肩口をカプカプと甘噛みしてくる。 痛いようなくすぐったいような心地好い甘い痺れが走り、ずんと下腹部が重くなった。 「ほら、自分で俺の指、しっかり奥まで飲み込んでみ? んで、俺が我慢できなくなるくらいエッチに誘って?」 先を促すように、ペニスの先端で勇輝の竿の裏側をゴリゴリと擦ってやる。 ちょうどイイ所に当たっているのか、堪えるように肩口の痺れが軽い痛みに変わった。 けど、それすらも気持ちいい。 「ほら、おいで...早く俺の指で気持ちよくなって、俺も中に入らせてよ......」 快感に負けたのか、それとも俺を受け入れたいと必死だったのか。 まだ僅かに羞恥の残る目線を俺に向けながらも、勇輝は自分でケツをしっかりと開いたままでゆっくりと腰を下ろしていった。

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