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ふたりのカタチ【10】

タプンタプンと湯の表面に波が立つ。 その波は時に大きくなり、時に不規則な波紋を作った。 水の浮力のお陰で、勇輝の中に埋め込んだ指が傷を付けるほど一気に奥へと進んでしまうことはない。 けれど、それはそれで今の勇輝にとっては甘い責苦も同然で、体を震わせて俺にしがみつきながら、また肩口への抗議の甘噛みが始まる。 もっと強い刺激が欲しいと、もっと激しく愛して欲しいと必死に腰を揺らすものの、その動きは水のクッションに包まれてどうしても緩慢になった。 中を丁寧に解すという俺の目的の為にはこれで十分なのだが、勇輝の方からすれば温い愛撫が延々と続くこの時間はもどかしくて仕方ないのだろう。 「充彦...お願い...お願いだから......」 罰の代わりに焦らされているとでも感じているのか、体と同じく震えるその声は僅かに鼻にかかったものだった。 腰を支えていた手をゆっくりと上げ、後ろ髪を梳きながら顔を俺の方に向けさせる。 潤んだ瞳、少し赤くなった鼻...そんなつもりもなかったが、少々我慢させすぎたらしい。 目元をゆっくりと伝う雫を舌先で掬い取る。 「泣かないでよ......」 「......ごめん、ごめんね充彦...」 「んもう、いじめたくてやったんじゃないんだってば。ほんとにごめんて」 「怒って...ない? ほんとに?」 「ほんとにほんと。怒ってるとしたら、勇輝を誤解させてる事に気づかなかった自分になんだって。今もね、とにかく勇輝を優しく気持ちよくさせてあげたいからずっと後ろ弄ってたんだけど、なんかちょっと意地悪したみたいになって...それも反省してる」 中に収めたままだった2本の指をそっと抜き、腿の上から勇輝を下ろした。 勇輝は焦るようにますます必死にしがみついて来るから、真っ直ぐにその顔を見つめたまま赤くなった鼻のてっぺんにチュッと音を立ててキスを送る。 「そんな顔すんな。ほら、立って?」 先に立つと、膝を抱えるような格好のままで勇輝が俺を見上げる。 いや、見上げてるのは...俺のチンポか? それを見せつけるように真っ直ぐに勇輝の方を向く。 勇輝を感じさせたくて勇輝を感じたくて、中に入りたくて擦りたくて、そこは情けないほどにいきり立っていた。 触れようと伸ばされた指を握り、しっかりと絡め、ゆっくりと立ち上がらせる。 「本気で焦らしたり意地悪したりできるほど、俺も余裕無いってわかる?」 先に浴槽を出て、繋いだままの手をそっと引いた。 指先に力がこもり、勇輝も後について上がってくる。 「充彦は...いっつも一人だけ...余裕あるよ...なんか悔しくなるくらい......」 「あるかよ、余裕なんて。特に勇輝に関しては全然余裕なんて無い......」 勇輝の体を壁へと押し付け、後ろからきつく抱き締めた。 タイルが冷たかったのか、一瞬ピクリと腕の中が強張る。 それに構う事もなく、俺は耳に首に項に唇を押し当てた。 「余裕あるなら、お前が何考えてるのか何やろうとしてたのか、とっくに気づいてるっての。俺は、自分がお前の事考えるのに必死すぎて、お前の本当に考えてる事もわかんなかったんだぞ?」 唇と共に耳に触れる言葉に、そして髪からポタポタと垂れる雫に、勇輝の肌が粟立つ。 ひくつく背中の筋肉があまりに綺麗で、尻の割れ目に自身を擦り付けながらそこに歯を当てた。 「充彦には...っはぁっ...なんでも...お見通しかと...んっ...思ってた...ぁっ......」 「俺だって、お前の事ならなんでもわかってるつもりだったよ。でもさ、やっぱわかんないの...つもりってだけで、黙ってたらわかんないんだよ。だからさ......」 勇輝の手を取り、それをしっかりと目の前のタイルへと付かせる。 俺の求める物がわかったのか、勇輝は手の横に頬を着け、自らくいと尻を突き出した。 「俺がわかってるかもしれないって思ってもちゃんと言って? 怒らせるかもしれないって思っても、恥ずかしいって思っても、何でも言って? 俺、勇輝が正直に話してくれる事に怒ったり笑ったり、絶対しないから。な? 約束して?」 タイルに上半身ごと預けながら、勇輝の目が俺を映す。 俺は背中を手のひらでさわさわと撫で、『ん?』と小さく首を傾げた。 その瞳で伝えるんじゃなく、ちゃんと言葉で教えて欲しいと。 「充彦......」 「うん、何?」 「入れて...充彦でいっぱいにして...充彦ので俺を気持ちよくして...」 「......ありがと、ちゃんと言ってくれて」 男の物にしてはずいぶんと丸く見える白い尻を左右に開くと、ずっとずっと俺を待ち続けヒクヒクと不規則に動く中心にそっとペニスの先端を押し付けた。

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