295 / 420
FACE DOWN【14】
充彦が少し落ち着いた所で、俺達は部屋に戻る事にした。
本当ならこんなにボロボロの充彦じゃなく俺が運転してやりたいところだけど、情けない事に俺は免許を持っていない。
申し訳ない気持ちのまま、俺は黙って助手席に座った。
車を貸してくれた社長にも後でちゃんと謝らなくては......
ワイパーをMAXで動かしても前が見えにくいほどの雨の中で体が冷えきるまで抱き合っていた。
おかげでシートはすっかりグショグショだ。
それでもあの人なら、今の俺や充彦の顔を見れば...『クリーニング代は給料から天引きな』なんてニヤリと笑って許してくれるだろう。
何も言わなくてもきっと伝わるはずだ。
充彦が誰かを恨んだまま、笑顔を忘れた人間にならなくて済んだのは...やっぱりあの人のお陰なんだから。
車をパーキングスペースに入れ、玄関のドアをくぐると同時に充彦の洋服を脱がしにかかる。
「服くらい脱げるよ......」
「いいから。今日は俺が全部やらせて? 全部俺が綺麗にするから」
ニコリと笑いかければ、俺の言葉の意味を理解したのかそれとも抵抗する元気もなかったのか、充彦はされるがままになっていた。
シャツもデニムも下着も脱がせ、その足許に跪いて靴下も片方ずつ脱がせる。
いつだって大きくて頭が良くてカッコいい充彦が、今日は心細げなボロボロの野良犬みたいだ。
それすらも愛しい......
俺にしか見せないであろうその姿があまりに愛しくて...全裸になった充彦をキュッと抱き締める。
「まずはお風呂入ろうな」
背中をトントン叩きながらそっと話しかければ、小さく頷いたのを感じた。
さすがに寒いのか、その体が微かに震えている。
気づいてしまえば体がゾクゾクしだして、急いで俺も服を脱いだ。
手に乗せるだけでボトボトと雫の落ちてくる服をそのまま洗濯機に放り込み、充彦の手をギュウと握る。
ぼんやりとしながらもそれだけは忘れまいとしているのか、充彦は俺の指に自分の指をしっかりと絡めてきた。
そのまま浴室のドアを開け、バスチェアに充彦を座らせる。
少し熱めのお湯を出し、シャワーで頭から全身へとそのお湯をかけた。
本当なら体の芯まで冷えている今は、バスタブにたっぷりと湯を張り、ゆっくりと浸かるべきなのかもしれない。
けれど今日は...どうしても今日だけは俺が充彦を温めてあげたかった。
ボディソープを手のひらで泡立て、その手をサッと充彦の肌の上を滑らせる。
「まだ寒い?」
「......いや、勇輝の手が...すごい気持ちいいよ......」
その言葉に、背後から胸元へ、腹部へ、そしてその下へと泡を擦り付けていく。
いつだってほんの少し肌を合わせるだけですぐに反応を見せるはずのそこは、けれど充彦の言葉とは裏腹にいまだ下生えの奥に隠れて息を潜めたままだった。
俺の体温のすべてを分けてあげたくてピタリと背中に胸を付け、その隠れたままの場所も丁寧に洗う。
袋の裏側まで手を伸ばし、先端の皮の間まで念入りに。
あまりの入念さが可笑しかったのか、ようやく充彦がクスリと笑いながら首を捩って俺の方を見る。
「ん? 何?」
「なんか、勇輝の顔も手も、すっげえ真剣だからさ...ちょっと前にやったソープごっこ思い出しちゃった」
「お客さま、指入れは止めてくださーい、別料金ですぅ...ってか?」
「それそれ。でもさ...やらしい意味じゃなく、今こうやって洗ってもらってるのって、なんかあの時より気持ちいいよ」
その言葉の通り、いまだ俺の手の中のモノはフニャリとしたままだ。
けれど心底リラックスしていると伝えてくるように、その背中はゆったりと俺の胸に預けられていた。
「頭洗う?」
「......いや、後でいい。今はただ...温まりたいんだ...いい?」
俺は言葉では答えず、急いで体に付いた泡をシャワーで流す。
俺のしたいことを...俺のしようとしていることを言わなくてもわかってくれる充彦がやっぱり好きだ。
「俺の事、怒ってない?」
答えなんてわかってるけど、何故だか確認したくて口にしてみる。
「怒ってるどころか、感謝してるし...めちゃくちゃムラムラしてる」
普段なら、『言わなくてもわかるだろ?』とばかりに笑顔とアイコンタクトで終わるような質問。
けれど俺が敢えて質問した気持ちをやっぱりわかってくれて、ちゃんと言葉で答えてくれた。
まあ、まだムラムラはしてないってのは見ればわかるけど。
「行こう。ちゃんと本当にムラムラさせてあげるから」
充彦の手を取り立ち上がらせると、充彦はそれに大人しく着いてくる。
今日はすべて俺がやる...その言葉通り、浴室から出てきた充彦の体をフワフワのバスタオルで優しくくるむと、隅々まで丁寧に水滴を拭ってやった。
ともだちにシェアしよう!