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FACE DOWN【15】

バスルームから手を繋いで出ると、下着も着ける事なく真っ直ぐに寝室に向かった。 いつもなら大抵先導するのは充彦だというのに、今日は俺が手を引く立場。 それが別に嫌なわけはないのだけど、なんだか胸の奥の方がムズムズする。 ドアを開ければ、朝そこを抜け出した時のままの少し皺になったシーツが目に入り、それもまたなんだかリアルで更に恥ずかしくなった。 突然の豪雨のおかげで室温が下がり、湿度は感じながらも汗をかくほどでも無い。 一度エアコンのリモコンに手を伸ばしかけ、すぐにそれを止めた。 その手をそのまま充彦の体に回し、その乱れたシーツに横たわるように目で促す。 特に異議を唱える事もなく、充彦は素直にその視線に従った。 リラックスしたように目を閉じる充彦の体の上にゆっくりと乗り上げる。 顔の両側に手をつき、上からじっと充彦を見つめてみた。 朝家を出た時と、随分と顔付きが変わったように思う。 ひどく疲れたような...けれどどこか、憑き物が落ちたような。 まあ、雨の中であんなに長い時間俺と言い合ってたんだから、疲れるのは当たり前か。 それも、これまで生きてきた30年近い年月...いや、それよりもずっと以前からの家族の歴史と記憶をグチャグチャに引っ掻き回されたんだ。 精神的な疲労は計り知れない。 それでも清らかにすら見えるその顔は、俺との話が決して無駄でも、ただの傷の付け合いだけ終わったわけでもなかったのだと教えてくれた。 覆い被さるように顔を近づけ、ピクピクと微かに震える瞼にそっと唇を押し付ける。 そのまま眉間に、額に、こめかみに...何度も何度も慈しむような口づけを繰り返した。 鼻の頭にチュッとキスをした所で、充彦はうっすらと目を開く。 だらりとシーツの上に力なく伸びていただけの腕がゆらりと動き、長い指が俺の髪を梳いた。 「何、今日は俺が食われちゃう日?」 それも悪くないと言いたげにフワリと笑うその顔があまりに綺麗で、つい俺も『よし、今日は食わせろ!』なんて言いたくなってしまう。 けれど俺はもう...充彦は抱かない。 俺が抱いても、充彦を俺ほど幸せにはできないから。 俺には俺のできる事で、充彦をうんと幸せにする。 「食わないよ、言ったろ? ただ温めるんだ...体も心も全部...全部俺が温めてあげたいから、充彦はなんもしないでね」 その言葉に同意するように髪を弄っていた手が力を抜き、パタンとベッドに落ちた。 再びそっと閉じられた瞼に、改めて恭しく唇を寄せる。 そのまま鼻から頬へ、そして頬からポッテリと厚い唇へと唇を滑らせた。 俺の大好きな、肉感的でセクシーなピンクの唇。 初めはただ押し付けるように表面を啄む。 まだ少しいつもよりも低く感じていた体温は、すぐに熱を取り戻した。 雛が更なる餌をねだるように、その厚い唇を僅かに開く。 充彦の顔の脇に着いた腕をゆっくりと曲げ、腰を跨ぐようにしていた膝を伸ばした。 腿が、腹が、胸がピタリと重なり、少しずつ二人の体温が同じになっていく。 充彦の頭を軽く抱き込むようにしながら、舌先で開かれた唇を丁寧になぞった。 普段ならとっくに熱を訴えるはずの場所に、まだ大きな変化は無い。 それこそが充彦の心の傷の大きさを表しているようで、ひどく胸が苦しくなった。 「充彦、ベーッして?」 今は目を閉じたままで見えるわけもないのに小さく首を傾げて、いつも充彦が『大好きで、すげえそそる』なんて言ってくれる笑顔を精一杯浮かべる。 軽く開いていた唇の隙間から、チラリと赤い先端が覗いた。 その控えめに現れた先端をチロリと舐める。 女優の誰も...そして今まで付き合ってきた女達だって誰も、充彦の本当の性感帯なんて知らないだろ? だけど俺は...そうじゃない。 俺は舌の先でツンツンとそれをつつき、更に伸ばすように伝える。 唇がもう少しだけ開かれ、長く厚みのある舌が俺の方に向かってグッと伸ばされた。 力の入ったままの舌の根元から裏側全体をヌルリと舐め上げる。 途端にピクリと震える充彦の体。 同時に、俺の体で押し潰されている下腹部に熱が生まれ、俺をはね除けようと力を蓄え始めた。 充彦が本当に感じる場所も、一番興奮する事も俺だけが知ってる...そう考えるだけで、どこか自分の陰鬱な部分が悦ぶ。 裏側を散々嬲り、今度は舌の表面をザリと合わせた。 絡めるのではなく、ただひたすらザラザラとした感触を楽しむように舐めるだけ。 時折唇の隙間から漏れてくる充彦の吐息が熱い。 力の抜けたままでダラリと伸びていた充彦の指がユラと動き出す。 徐々に熱と欲を取り戻したその指が俺の腰をサラリと撫で、ギュッと強く抱き締められた。 「いつまで焦らしてんの?」 その声にはいくらかいつもの艶が戻っている。 「焦らしてないよ。気持ちよくしてあげてるのに」 「俺は、もっともっと気持ちよくなりたいんですけど?」 パッチリと充彦の目が開いた。 至近距離で目が合う。 射るような、挑発するような瞳。 それでもさっきまでの殺気だった物とはまるで違う...間違いなく俺を求める欲を隠さない、けれど優しい瞳。 段々と俺の体の奥の熱も高まってくる。 「ちゃんと気持ちよくしたげる。んで当然俺も...気持ちよくなる」 少し顔を傾け、深く唇を合わせる。 俺が舌を差し入れる前に、分厚い舌がズルリと一気に奥まで入り込んできた。

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