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似た者同士【9】
「瑠威...じゃないや、航生は?」
「ん? すっごい気持ち良さそうに寝てるよぉ。相当アルコールは強いみたいだし、気分悪くなって起きるとかは無いと思うけど、一応枕元に水のボトルは置いてきた」
泣いて笑って宥めて励まして...かなりの時間を使って色んな話をした後、すっかり気分の良くなった俺達はほろ酔いで昼飯兼晩飯兼酒のツマミを作った。
それぞれ勝手に材料を見繕って、得意な料理をそれこそ適当に。
勝手のわからないであろう他人の部屋の台所にも関わらず、さすがカフェの開業を夢に挙げていただけあって、航生の料理の腕はなかなかのものだったと思う。
冷蔵庫にストックしておいたトマトソースを上手くアレンジしたブルスケッタは、それこそその辺のレストランで提供されている物と比べても全く遜色無い味だった。
まだアマチュアとは思えない手際と味付けのセンスに、思わずニヤリとしてしまったくらいだ。
ま、どれだけ美味い物を作ろうが、勇輝の和食には敵わないけどな。
別に贔屓目だとかそんな事ではなく、勇輝の作る料理はハンパじゃなく旨い。
中でも特に和食は絶品だ。
家事を殆どやらなかったというお袋さんに代わり小さい頃から料理を作っていただけだと本人は言うが、あれは慣れだけの問題じゃないだろう。
まず、勇輝をひたすら可愛がっていたという客達と共に、若いうちから『一流』と評される料理屋を何度も訪れていた事で舌が鍛えられたんだと思う。
更に、誰かさんと同様『美味い物を食べるくらいしか趣味が無かった』という勇輝にとって、食事に行って特に好みだった味を自分なりに再現してみるという事を含めた部分までが趣味だったんだろう。
もっとも、舌が鍛えられているからといって、みんなが同じ味を作れるわけもない。
そこから先こそが、勇輝の天才的なセンスだと言える。
殊更敏感な味覚を持つ勇輝が繊細な和風出汁を使った時のその見事さたるや、感動で涙が出そうになったくらいだ。
自分の料理の根本に出汁がある事を十二分に理解している勇輝は、鰹・昆布・椎茸...あらゆる出汁をストックして冷蔵庫に入れてある。
鮪や大豆の出汁まであるのだ。
そして料理ごとにこれらを完璧に使い分けている。
超ご機嫌モードだった今日の勇輝は、ウイスキー片手に俺の大好物の茶碗蒸しを作ってくれた。
普段は『道具の準備が面倒』という理由で滅多に作ってくれないというのに...
食べられた事は純粋に嬉しいのだが、この茶碗蒸し作りが俺の為ではなかったという部分だけ、ちょっとムカつく。
「充彦ぉ、あのね、あのね...航生、メッチャ可愛いねぇ」
「ん? まあな」
「最初の印象、あ~んなに最悪だったのになぁ...」
「だろうな。あそこまでお怒りモードのお前とか、俺でも初めて見たかも」
ベッドヘッドに背中を預けたまま、『おお、怖い怖い』とわざとらしく怯えた顔を作ってやると、嬉しそうに笑いながら俺の腕に飛び込むようにポンとベッドに上がってくる。
その体をしっかりと受け止め強く抱き締めると、勇輝の腕も俺の背中を強く抱き締めてきた。
「充彦、ほんとごめんね?」
「ん? 何がごめん?」
「航生と浮気した...それも、目の前で」
「ああ...あれね...まだ言うかなぁ...」
そっと前髪に指を通し、露になった丸い額にチュッと唇を押し付ける。
「『航生』とだったらさすがにちょっと妬けるかもしんないけど、あれは『瑠威』だからねぇ...何回も言ってるけど、教育的指導ってやつでしょ?」
「...怒ってない? ほんとに傷つけてない?」
「俺を傷つけない為に、わざわざ俺がいるここに連れてきたんだろ? 外に連れ出して内緒にしとく事だってできたのにさ、そうしたら俺を本当に裏切る事になるって思ってたんじゃないの? そういう勇輝の気持ちとか、俺ちゃんとわかってるつもりだから...まあ、世間的に見れば変なカップルなんだろうけどさ。マジで、仕事で女相手にセックスしてるの見学してるときと変わんないって」
勇輝が俺の頬に鼻を擦り付けながら、クスクスと笑う。
「嬉しいっ。俺の事、ぜ~んぶわかってくれてんだね」
「ぜ~んぶわかりたいとは思ってるんだけどねぇ...これがなかなか。どんだけわかったつもりでいてもさ、次から次に新しい顔見せてくれるんだもん。勇輝といるとほんと飽きないわ。いっつもワクワクする」
「飽きない?」
「飽きてる暇なんてないよ...好きすぎて」
「俺もね、充彦といたらワクワクするし...ずっとドキドキする」
背中に回っていた勇輝の腕が、もぞもぞと動き始める。
スルスルとその手が俺のシャツに潜りこんでくると、まるで指先だけで気持ちを伝えようとするように背中をゆっくりとなぞった。
「勇輝も飽きない?」
「飽きないよぉ、全然。飽きてる暇が無いの、充彦のエッチに付き合ってたら」
「そっちかよ!」
ケタケタと笑いながら、勇輝の体を思いきりベッドへと押し倒す。
「俺、もしインポになったら勇輝に捨てられそう」
「大丈夫大丈夫。充彦とだったら、キスだけでも昇天できるから」
「そう? んじゃ今日はキスだけにしとく?」
ニヤニヤと笑ってやると、いきなりグルリと景色が変わった。
俺の下にあったはずの勇輝の顔は上にきて、その背後には真っ白い天井が見える。
「充彦、やっぱ怒ってんだろ~」
「んにゃ、面白がってるだけですよ。ヤりたくてウズウズしてる勇輝見てるのも飽きない」
「んなこと言って...ほんとは充彦もウズウズしてんじゃん」
俺の腹に跨がった勇輝が、少しだけケツの位置を後ろへとずらす。
ちょうど俺のモノと自分のが重なるくらいの場所をキープすると、まるで見せつけるようにクイクイと腰を振りだした。
擦り、揺さぶられる感覚に、俺のチンポはどんどん大きくなっていく。
けれど、自分からは何もしてやらない。
頭の下に腕を組み乾く唇を時々舐めながら、勇輝一人が昂り乱れる様をじっと見る。
「充彦もビンビンになってきてんじゃん...」
「なってるねぇ」
「したくないの?」
「ん? したいの?」
「...したい」
「じゃあ、目一杯エッチにおねだりして、俺をその気にさせてみ?」
ほんとはとっくにその気だ。
勇輝だってわかってるだろう。
でも今日は俺が...いや、勇輝だってそんな気分なのだ。
いやらしく甘えて、思いきり甘えさせて、二人きりでお互いを感じ合って。
愛し合って求め合って、幸せで最高に気持ちいいセックスがしたい。
勇輝は俺の上から降りると、穿いていたスウェットとパンツをスルリと脱ぎ捨てる。
俺に見えるようにベッドに座ると左手でシャツを乳首の所まで捲り上げ、脚を開いて右手で少しだけケツを開いて見せた。
「充彦...俺、もう風呂で準備してきたよ。中解して、ローションも馴染ませてきた。ほら、見て...」
「ああ、ほんとだ。俺なんにもしてないのに、もうすっかりいやらしくヒクヒクしてんねぇ」
「そう。充彦に見られてるだけで、早く中一杯にして欲しくて勝手にヒクヒクすんの。だから...充彦の硬くて熱いので、俺を苦しいくらい一杯にして? 気持ちよくして? 幸せにして?」
「...合格。つか、参った...さすがに勇輝は俺を煽る言葉もよくわかってるわ」
俺は急いでスウェットとパンツをベッドの下に投げ捨てた。
「おいで、俺のいやらしい子猫ちゃん。最高に幸せにしてあげる」
その言葉に、子猫と呼ぶにはあまりに精悍で獰猛な肉食獣は満足そうな笑みを浮かべ俺に跨がると、後ろ手に俺のモノをしっかりと握りゆっくり腰を下ろしていった。
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