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クイーン・ビー・エクスプレス 第7回【3】

「はい、じゃあ...これいってみようか。今までこういう事ってあんまり聞かれた事無かったかも。れいのさんからの質問ね。『恋人に似合いそうな職業は何だと思いますか?』という事なんですが......」 「これは当然『AV男優』って答えは無しですか?」 「そして勿論『ゲイビモデル』も無しですね?」 「お前ら、似たような顔しておんなじような事聞くな。つか、マジかボケかもわからない質問すんな」 「あーん、航生く~ん。みっちゃんに怒られてん。俺、可哀想?」 「今のは明らかに突っ込まれる事を前提に言った言葉なので、さすがに可哀想じゃないですねぇ。寧ろスルーされなくて良かったじゃないですか」 「ちぇっ」 「はいはい。まあ俺らの場合、今の仕事辞めた後の夢まで決まってるから、それもちょっと省いて考えてみるか? 資格・学歴は一旦置いといて、どんな職業が向いてるだろ?」 「じゃあ充彦は...ホストとか?」 「はぁ!? なんで俺がホストなんだよ!」 「いや、口が上手くて酒が強い。抜群の床上手っぷりで枕もオッケーとなりゃ、これはホストにバッチリかと......」 「いやいや、ちょっと待て。とりあえずセックスが前提なのは離れないか? それに、その条件なら勇輝もたいがいだと思うけど」 「俺、充彦ほど堂々としてないもん。なんか充彦って『夜の帝王』って貫禄あるじゃん」 「あります、あります! 『夜の暴君』て感じですよね!」 「航生、それ意味変わってるから。そもそも俺のどこが暴君なんだよ!」 「どこって...存在自体?」 「......喜べ。お前だけは死ぬまで俺の下僕としてこき使ってやるから」 「うわ~ん、やっぱり暴君だぁ」 「それ、自業自得な。自分からちょっかい出すなよ...弄られていじめられるのわかってて。まあ、セックスとか夜を切り離せってんなら...弁護士ってとこかな?」 「俺がぁ?」 「うん。頭の回転早いし、さっきも言ったけどやっぱり口が達者なんだよね。押しも強いし、交渉事とかの駆け引き得意じゃない?」 「別に得意じゃないけどな、単に今まで必要な場面があったってだけで」 「そう? でも、いつも俺が言いたい事を全部先読みして、裏で面倒な手続き終わらせといてくれるでしょ?」 「俺の移籍の時も、充彦さんがあっという間に話纏めてくれましたもんね」 「それは勇輝の為だから! 勇輝絡んでなきゃ、誰が好き好んでめんどくさい交渉なんかするかよ」 「俺の為ってだけでもないと思うけどなぁ。まあ、やっぱり弁護士って似合うと思うよ。何より、スーツに弁護士バッジ姿でちょっと強気に胸を張ってる充彦が見てみたい」 「確かに、めっちゃ似合いそうやなぁ。女がほっとけへんと思うけど。そしたら、みっちゃんは? 勇輝くんに向いてる仕事ってどんなんやと思う?」 「勇輝か? 勇輝こそエロの塊だからそっち方面のイメージしか無いんだけどなぁ。ほんとはさ、手先器用だから『美容師』とか言いたいんだよ。でも案外大雑把でめんどくさがりなとこもあるから、最後の最後でイラッとしそうだし...あ、デパートのバイヤーとかいいんじゃないかな? 勉強家だから商品知識とかなら完璧に身に付けそうだし、メーカーさんとのやり取りもそつなくこなしそうだもん。何より、人にすっげえ好かれるタイプだしな」 「うぅぅっ、交渉とか商談とか、俺たぶん苦手......」 「でも、誠意を見せる為に頭を下げるなんてのは別に苦にならないタイプじゃね? そもそもみんな、人に頭下げるってのが難しいんだし、そこができなきゃバイヤーなんてなれないだろ。うん、勇輝ならバイヤーだな。それも、食べ物のバイヤーなら尚向いてる。食いしん坊だし」 「食い道楽は自分もだろ。じゃあ、航生は? 慎吾だったら何に向いてそう?」 「なんでしょう? あ...やっぱりあれだ...お洒落が好きな人ですし、洋服とかアクセサリーのお店の店員さんとかじゃないですかね? 絵も描けますし、デザインなんかも自分でできそうじゃないですか?」 「ああ、ぽいね」 「でもさ、そこら辺は今後の仕事に繋がるかもしれないじゃん? だから敢えてそこを外すなら、他ってある?」 「えーっ、難しいなぁ...えーっ? なんだろう............あ、じゃあライターさんとかどうですか? 取材される方じゃなくて、する方」 「俺、そんなん向いてる? 考えた事も無いし、俺めっちゃワガママやん?」 「ワガママ...かなぁ? 確かに、結構ズケズケと怖いもの無しで物言う所もあるんですけど、でもちゃんとそのワガママを言う人や加減を考えてますよね? あ、違う...考えてなくてもできてるんだ。図々しいとかじゃなくて、無意識に相手との正しい距離感を測れてるんだと思うんです。だから、取材対象の人の懐に入っていくの、上手なんじゃないかなぁって」 「あ、それちょっとわかるわ。慎吾に初めて会った時ってさ、すごいきちんとしてて敬語だったんだよ。大人しすぎるくらい大人しくて。でも、『コイツ可愛いな』って思ったタイミング見計らったみたいに急に甘えてくるようになって......」 「相手の気持ち読むの、すごく上手でしょ?」 「確かに確かに」 「でもさ、俺が初めて会った時は、結構グイグイ来てたよ?」 「それはね、充彦が俺の彼氏で自分に絶対靡かないのがわかってたからだよ。勘違いなんて絶対しないし、何かを言い過ぎたりしても全部冗談で済ませてくれる人だってちゃんと理解してのあの態度だって」 「なんか俺が計算高いみたいやんか」 「そうじゃないですって。その場の空気をきちんと読める人なんですよ」 「ほんまに? そういう意味?」 「まあな、慎吾は甘えていい人と距離取らないといけない人を見極めるのは本当に上手いわ」 「なるほどねぇ...ライターとか、俺思い付かなかったわ。じゃあ、慎吾くんは? 航生だったらどんな仕事向いてそう?」 「......保育士さん。もうね、それ以外思い浮かべへん」 「俺?」 「うん。感情の起伏はそない大きないし、ほんでもとことん優しいし......」 「いや、俺は...」 「昔はな、そら拗ねてたかもしれへんで。せえけどそれはほんまに拗ねてただけやん? 今は真面目に自分の仕事に向き合ってる。見てて痛あなるくらいに必死に頑張ってる。んでな、みっちゃんだけにはガーッってムキになって向かっていく事もあるやん? けど別にそれは本気でムカついてるわけでもなくて、どっちかって言うたら構ってもらってんのが嬉しそうやもん。いっこも本気で怒れへん...優しいねん、ほんまに」 「あ、いや...それは......」 「真面目でさ、どんな相手でも一生懸命話を聞こうとする航生くんやから、子供とでも目線合わせて真剣に向き合おうとすると思うねん。せえから...時々俺、申し訳ないなって思う事まであるよ。絶対エエお父さんになれるんやろうなって...俺は赤ちゃん産んであげられへんけど」 「俺、そんな事思ってません!」 「わかってるわかってる。俺が勝手に時々考えるだけやから。航生くんが保育士さんとかやったら似合うなぁって、実は前からずっと思っててん」 「慎吾、お前航生の事好きなら、その考え止めてやれよ?」 「え?」 「それ、俺も経験済みだから。自分に会ってなければ普通の結婚して、幸せな家庭築いて...とかさ、俺も考えたの。でもさ、航生言ってくれるだろ? 『あなたといられるからこそ幸せです』って。普通の結婚より、自分といられる方が幸せなんだって思わないと、相手がすっげえしんどいんだぞ。どうしても信じてもらえないのかって自分を責めるんだぞ。だから、航生が保育士似合いそうは同意するけど、『自分には子供が産めない』は考えちゃダメだ」 「......ちょっと真面目な話になっちゃったな。航生、お前も慎吾くんにあんな事言わせないように、もっと頑張らないとな」 「勿論です。みっちゃんみたいに、『自分が幸せになる為に慎吾さんといます』って言い続けて、ちゃんと信じてもらえるように頑張ります」 「という事でれいのさん、今の仕事以外だったら、みんなこんな感じの事考えてます」 「でも、本当にやるべき仕事はもう決まってるから、『向いてそう』で終わりなんだけどね」 「じゃあそろそろ、近況報告と、軽いお知らせして...終わりますか?」

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