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好きだから【充彦視点】

朝起きて飯を食ってすぐ、勇輝は仕事だと出ていった。 仕事といっても、今日はビデオの撮影ってわけじゃない。 俺達がこのたび専属契約を結んだビデオ制作会社に航生を連れて挨拶に行き、そのまま記念すべき移籍1本目の打ち合わせをする為だ。 航生がゲイビデオ出身である事、プライベートでの女性経験が極端に少ない事は予め説明してある。 そこで今回の企画や設定自体は勇輝に任せてみようという話になり、どうやらセックスの伝道師『勇輝先生』が、未熟な弟子である航生に女性の悦ばせ方をレクチャーする...なんて感じでいく事になってるらしい。 このビデオの内容を細かく打ち合わせ、共演女優についての希望を伝え、ついでにその会社が運営しているウェブサイトでの配信用インタビューの収録もしてくるんだそうだ。 航生にかこつけてはいるが、実際問題今回の専属契約は勇輝にとっても大きくプラスになると思ってる。 激しく荒々しいセックスは嫌いではないけど、強引で力ずくな...まあいわゆるレイプ紛いのセックスは大嫌いな奴だ。 自分と縁あって肌を合わせる事になった以上、相手役の女の子はとことん気持ちよくしてあげたいと思ってる奴だ。 けれどこれまでの現場では、必ずしもそれを100%叶える事は難しかった。 航生がゲイビで求められていた部分と同じで、嗜虐的な内容を好む人は決して少なくない。 ハードで『グロテスク』とも思えるようなSM作品については断固として断っていたものの、それでも必ずしも女の子にとって到底快感を追えないであろう内容のビデオの現場に呼ばれる事も決して少なくはなく、辛そうな顔を見せる事も度々あった。 抱かれる立場の辛さも快感も知っている勇輝だからこそ、相手役の女の子に気持ちが入りすぎてしまうのかもしれない。 撮影する内容に沿ったセックスを前もって俺としているのだ、尚更だろう。 今回の専属先は『女性の為のAV』を謳い文句にして急激に売り上げを伸ばしている会社だ。 当然男優には『女性が悦ぶセックス』を求めている。 通常のAVに多い『とにかく舐めて触る』『突っ込む』『ぶっかける』ではない。 気持ちを高める為の会話や、大切な前戯としてのキスを重要視してくるだろう。 その為に、かなり本格的なドラマ仕立てになっている作品も多い。 勇輝には...もってこいの現場だと思う。 役にのめり込み、相手を悦ばせる為に全神経を使う勇輝には。 最初に専属の話が来たのは、ちょうど俺の引退が決まった頃だった。 俺からすればすぐにでも契約すればいいのになんて思っていたけれど、勇輝はその話を保留にし続けた。 俺の引退が決まってしまった事で仕事が減り、そして収入が減る事を心配したのだろう。 向こうの会社は、俺とのニコイチでの出演を希望しているのは明白だったから。 俺が引退する事で『勇輝』という男優の存在価値自体が薄れるのが怖かったんだろう。 今の勇輝は、一人の名前だけでビデオの売り上げを左右できるだけの力を持っているというのに、俺が一緒でなければ現場から求められなくなるんじゃないかと不安がっていた。 そしてここに、降って湧いたような航生の登場だ。 大切にしてやりたい、可愛がってやりたい、夢の実現を少しでも助けてやりたい...そんな航生への気持ちが、専属に二の足を踏んでいた勇輝の背中を押した。 俺がどれほど説得してもどこか頑なだったのに。 確かに航生は可愛いと思う。 俺だって間違いなく大切にしてやりたいと思ったし、アイツの夢を応援することは将来俺自身の夢の実現にも繋がるはずだ。 「わかってんだよ...ほんと、アイツの必要性も人間性もわかってんだって...でもな......」 誰もいない部屋。 まだ日は高いというのに、一人ブツブツと呟きながら冷蔵庫からビールを取り出してソファにドンと腰かける。 何も映っていないテレビの電源を入れ、DVDの再生ボタンを押した。 そこにデカデカと現れたのは、数日前の勇輝と航生...いや、『瑠威』か。 体を開かれる恐怖と、内臓を押し上げられるような感覚から来る苦悶の顔。 それが煽るような勇輝の吐息と共に、少しずつ欲と艶を帯びてくる。 「イイ顔してんだよな、ほんと...」 無意識に漏れた声は、自分でも驚くほど冷たく陰鬱なものだった。 これから勇輝と一緒にいれば、航生はどんどん変わっていくだろう。 元々の容姿の美しさに加え、誰もが魅了されるような色気も身に纏うはずだ。 そのきっかけこそ、この勇輝とのセックス。 俺の知らない勇輝の感触を知った事で航生は花開いた...そのことが無性に腹立たしい。 「ハッ...まさか俺が...あんなガキに嫉妬してんのか?」 背負った傷が似ていたせいなのか。 俺では溶かしきれなかった勇輝の心のわだかまりを優しく溶かし、新しい仕事に二の足を踏んでいた勇輝の背中を押した。 航生が...俺ではできなかった事を簡単に成し遂げていく。 勇輝は俺の物なのに...俺は勇輝の物なのに...。 目の前では、快感に目覚めた『瑠威』が必死に勇輝を『もっと、もっと』と求めていた。 「勇輝...早く帰って来いよ...マジで俺のチンコ、嫉妬で爆発しそうだ...」 航生が知っていて俺が知らない勇輝の姿がある事が許せない、納得いかない。 たとえそれが航生のせいではなくても、このままでは航生を嫌いになってしまいそうだ。 「勇輝...航生ばっかり構わないで...早く帰ってきてよ...」 俺はビールの瓶をくわえ中身を一気に喉の奥に流し込み、画面の中で涙を流しながら勇輝を呼ぶ『瑠威』の堪らなく淫らな顔を見つめたまま、ズボンの前を寛げた。

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