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好きだから【3】

なぜこんな事になったんだろう...止まらない水音の中で薄ぼんやりと考える。 風呂のウレタンマットの上で四つん這いになっている俺の足許には、外されたシャワーヘッドが転がっていた。 「どう、大丈夫? 痛いとか、気持ち悪いとか無い?」 勇輝の綺麗な指が俺のケツを開き、じっと見つめながらそこにシャワーを当てていると思うだけでなんだかいたたまれなくなってくる。 「...ゴメン...」 それしか言えない俺に、背後からは笑っているような気配を感じた。 「ごめんの意味がわかんないんだけど」 「だって...お前に俺のケツ洗わせるとか...申し訳ないっつうか、情けないっつうか...」 「なんで? 慣れてないんだから、一人でやるの難しいってだけでしょ。俺は慣れてるからって言ってるのに、『俺にやらせろ!』って充彦乱入してくることはあるけどさ。まあ、とりあえず俺がやる方が早いんだし。それにね...充彦がそうやって顔赤くして震えてるなんて姿、案外そそるよ?」 シャワーの位置は動かさないようにしたまま、勇輝はわざとらしいニヤニヤとした笑みを浮かべながら俺の顔を覗き込んでくる。 どうにも恥ずかしくて、俺はそちらから必死に顔を背けた。 「あのさぁ、もしかしてワガママ言ったと思ってる? 無理言ったとか? 俺が本当は嫌がってるかもとか? だったらね、それ余計なお世話。俺は元々タチネコどっちも有りのバイセクシャルなんだよ? 正直、好きな人には抱かれたいと思うと同時に抱きたいって思う」 ちょっと驚いて、火照ったままの顔を勇輝の方に向ける。 まだニヤニヤ笑っているかと思いきや、勇輝の表情は考えていた物とは違い、穏やかでひどく真面目だった。 「確かにね、俺は充彦には抱かれてる方が好き。それは間違いないよ。『愛されてる』ってすごい実感できるから。でもね、心の中では俺だって充彦を愛したいって思ってる部分あった。いつも俺にくれてる幸せを、ちゃんと俺からも充彦にも返してあげたいって」 「で、でもさ...こんなデカイ男抱くとか...萎えるだろ。俺には航生みたいな色気無いし...」 「んもう...わかってないなぁ...」 洗い終わったのか、シャワーのお湯を止めると勇輝が四つん這いのままの俺の前に膝を着いた。 ちょうど目の前にきた勇輝のぺニスは驚く程に猛り、触れてもいない先端にはすでに雫が盛り上がっている。 「萎えてるように見える?」 「...見えない...けど...」 「デカイ云々言うけどさ、普段充彦が抱いてるのは、充彦よりも筋肉付いてるゴツい俺なんだよ? どうよ、萎える?」 「萎え...ない」 「でしょ? 要はいかに相手を好きで、抱きたいって思うかじゃない。俺、今日は充彦を最高に気持ちよくさせてあげたいって燃えてます、見ての通り」 少しふざけるように、ぺニスの先で俺の唇をツンと突いてくる。 俺は舌を長く伸ばし、目の前のそれにゆっくりと絡ませた。 頭の上からはゴクリと唾を飲み込む音がやけに大きく響く。 「充彦ほど上手くは愛してあげられないかもしれないけど、少なくとも初体験の時よりは気持ちよくしてあげられると思う。だってさ、相手は俺だもん。だから大丈夫...充彦はなんにも心配いらない」 先端を擽り、溢れてくる滴を舌先で掬い取る俺の頭が、優しくフワフワと撫でられる。 「あ、そうそう。航生と比べるのはナンセンスな。アイツ抱いたのは、気持ちの上ではお仕事の延長。確かにすげえ可愛いし男前だと思うけど、欠片も欲情はしないよ。俺が本気で抱かれたい、抱きたいって思うのは...充彦だけ」 目の前の物に舌を這わせながら、視線だけを上に向ける。 ジッと見つめていたらしい勇輝と、パチンと視線が合った。 うっすらと笑みを浮かべる口許とは違い、その目からはギラギラとした熱を感じる。 欲を隠そうとしない鋭い目。 途端に、体の内側から全身を焼き尽くすかのように一気に欲が湧き上がってくる錯覚に襲われた。 いや、錯覚なんかじゃないのかもしれない。 俺は今、嫉妬からではなく心から勇輝に抱かれたいと思ってる。 これは本能だ。 本能でこの男に喰われたいと思ってる。 「ほら、口がお留守だよ。ちゃんと...しゃぶって?」 これからこれが俺の中に入ってくる...そう考えるだけで、目の前の物がひどくいやらしく、そして愛しく見えてくる。 大きく口を開きそれを中に招き入れると、勇輝はゆったりと腰を揺らし始めた。 「ほんとにいいの? やっぱり止めとく?」 ここで『止める』と言えば、本当に勇輝は止めるのだろうか? じっとその顔を上目で窺えば、その勇輝の表情は驚くほど自信に溢れ、より艶やかさが増しているように見える。 まるでそれは、質問の答えなど決まっていると言わんばかりに。 「どうする? 今なら止められる。嫌なら、怖いなら一言『嫌だ』って言って。これまで通りの関係でも...俺は構わないよ。なんの不満も無いんだしね。だからここから先の事は充彦が決めればいい」 「......俺は...勇輝に抱かれてみたい...勇輝の全部が見てみたい...俺の全部を見て欲しい......」 俺の口許からぺニスが離れていき、代わりに腰を下ろした勇輝の顔が近づいてくる。 「そう言うと思ってた。体冷えちゃうといけないからぼちぼち上がろうか。まだこれから夜は長いんだもん...風呂場で一回なんて、勿体ないでしょ?」 軽く口づけ、一度お互いの体に少し熱めのお湯を流しかけると、勇輝は俺の手を取って立ち上がった。

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