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ただ今休憩中【充彦視点】

「うわっ、俺結構汗かいてるわぁ。替えの肌着、持ってきてたかなぁ」 衣装であるデニムシャツを脱いだ俺に、さっとタオルとTシャツが手渡される。 俺の言葉を聞く前からこんな状況を想像していたのか、楽屋に入ったのと同時に勇輝はカバンからシャツとタオルを取り出していたらしい。 「サンキュー。ほんとによく気が利く嫁だこと」 「これくらいで気が利くとか言われるても気持ち悪いわ。しかし、着替えられる充彦が羨ましいよ......」 ぷぅと頬を膨らませながら、勇輝はユルユルVネックのセーターをそっと脱いだ。 そりゃそうだよな...俺は肌着を着替えてしまえばスッキリするけど、勇輝の場合は首回りが大きいからって中に何も着ることはできない。 普段の現場よりも数倍強い照明のせいか、それとも次から次へと好奇心いっぱいに浴びせられた質問のせいか、その白くて綺麗な筋肉の間を珠の汗が流れていた。 俺に渡されたタオルで、まず先にそんな勇輝の背中から肩にかけてを丁寧に拭いてやる。 「やばいなぁ...これ結構湿ってる気がする。買い取りしないとマズイよね?」 「そんなにメチャクチャ高い服ってわけでもないんだから別に買い取りくらいは構わないんだけどさ、それならそれで、せめて違うブランドだったら良かったのにな」 「ほんとに。まったく同じデザインのニット持ってるよぉ」 胸元から腹へと滴っていた汗もサッと拭ってやってから、俺は今脱いだばかりのシャツで適当に体を拭いた。 同じようにカバンから勇輝が出してくれたチャック付きのビニール袋に、シャツとタオルを突っ込む。 「疲れてない?」 「あー...どうだろうねぇ。疲れてるっちゃ疲れてるんだけど、言っていい事と悪い事を頭の中で必死に考えてるうちに、なんかアドレナリンが出てきたみたい」 「お前、ほんとに考えてたかぁ? まだ正式発表してない話も言っちゃうし、本人にすら伝えてない話もうっかりしちゃうし、相当デンジャラスだったぞ」 ニヤニヤと笑いながらお茶のペットボトルを差し出せば、勇輝はそんな俺の表情なんてものともせず涼しい顔でそれを受け取り口を付けた。 「だってさ、あの人達だもん。メチャクチャで下世話な興味丸出しに見えて、それでもちゃんと距離感わかってくれてる人達だからさ、もし俺がああやってダメな事言っちゃってもすぐに編集のお願い出してくれるでしょ?」 「まあ、その通りではあるけどさ...つか、熊子さん、超怖ぇぇ」 本番の間、勇輝に笑いかけたり涙ぐんだりって場面はずいぶんあったものの、俺に対しては本当に厳しい視線が向けられていたのだ。 これまでにも『ユーキのファン』を名乗る人には何人か会ったけれど、あそこまで俺に敵意剥き出しの人は初めてなんじゃないか? あ、馨さんがいたか...まああれは、俺の気持ちと覚悟を試してただけだったけど。 「俺のファンだからこそ、この収録が終わる頃には...たぶん『みっちゃん』じゃなく『坂口充彦』のファンになってると思うよ」 至極当たり前の顔で言われると、まあ勇輝がそう言うならそうなんだろうな...なんて思えるから不思議だ。 さっきまで、殺気すら感じるあの目に、顔では笑いながらも内心本気でビビってたってのに。 そう言えば、最近の俺はこんな事ばかりのような気がする。 勇輝が言うんだから大丈夫、勇輝がいるから大丈夫...... 俺が弱くなったんだろうか? 誰よりも自分を信じていた俺は、それなりに強かったはずだ。 あの頃の俺よりも、今の俺は弱いのか? いや、そうじゃない。 守る者ができたからこそ、そして大切な者に守られているからこそ、今の俺は無敵だ。 熊子さんが俺をどれだけ睨みつけたって、その強い気持ちは変わらない。 「しゃあないなぁ、あの怖くてデカイおネエ様を、今からメロメロにしちゃいます?」 「その調子、その調子。優しいのに強気で、イケイケかと思えばちゃんと気を遣える充彦に、きっとメロメロになるよ。俺はとっくにメロメロなんだけど」 「そんなもん、俺のがずっとメロメロだもんね~」 俺のが上だ、俺のが惚れてるとしばしくだらない言い合いっこをした所で楽屋のドアがノックされる。 「収録再開の前に、少しだけメイク直させていただきたいんですけど」 スタッフさんの声にふと目を合わせると、珍しく勇輝の方から一瞬掠めるだけのキスを仕掛けてきた。 「は~い、すぐに行きます」 改めてセーターを着直すと、クスクスと笑い楽屋から飛び出す勇輝。 俺はと言えば、どうにもにやけ顔が戻らず、そんな勇輝からは一歩も二歩も遅れて楽屋を後にした。

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