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XXX【充彦視点】
僅かに酒の残る怠い体と冴えない頭のまま、外から聞こえる微かな音で目を開けた。
さて...今は何時くらいなんだろうか...?
いくらカーテンが引かれているとはいえ、部屋の中がずいぶんと暗い。
枕元に置いたスマホを手に取り、そこに表示された数字が思っていた以上に遅い時間で一瞬驚いた。
ひどい喉の渇きに、さすがの自分も少々飲み過ぎたと実感させられる、
昨日はテレビの収録が終わった後、MC6人に誘われてそのまま食事に行った。
きっかけは、勇輝との再会に喜んだ熊子さんの言葉だったと思う。
『せっかくこうして会えたのに、これっきりなんて寂しいわ』
そんな事にはならないと勇輝は熊子さんにしがみつき、俺の首には何故だかミホコさんがしがみつき、どうにもこうにも一緒にいかざるを得ない状況になったのだ。
まあ結果として、行って良かったと思う。
途中熊子さんに呼び出され、二人きりでガンガンにウォッカを煽りながら勇輝談義に花を咲かせた。
その頃の勇輝はといえば、女性陣相手に夜の性活を生々しく報告させられていたらしい。
明け方になって店を出る頃にはすっかりただのオッサンに戻った熊子さんに、『みっちゃんがボーイだったら、アタシみっちゃんのファンになってたわ!』と言われるまでになっていた。
勇輝は勇輝で『次は男性をメロメロにする方法を教える』と強引に約束させられたらしい。
まあ、ちっとも嫌がってる顔には見えなかったから、彼女達とのお喋りは肩肘を張ることもなくずいぶんと楽しい時間を過ごせたのだろう。
帰る頃には二人ともすっかりアルコールが回り、照明で汗だくになった体をサッとシャワーで清めるとそのままベッドに潜り込んだ。
勇輝はともかく、俺まで酔うのは珍しい。
更に、キスすらしないでベッドに入るなんて事は、一緒に暮らしだしてから初めてなんじゃないだろうか。
とりあえず今は喉の渇きに耐えられず、隣で眠る勇輝を起こさないように気を付けながら、そっとベッドを下りる。
寝室を抜け出しリビングへと入ると、そこもやはり薄暗いままだった。
バチバチと大きな音を立てて雨粒が窓ガラスにぶつかっている。
冷蔵庫から水を取り出すと、それに口を付けながら窓際へと立った。
少し前のあの日のように、重く垂れ込めた雲の間からはゴロゴロと低い音が鳴っている。
「雨かよ...ついてないな......」
このところ宣伝に追われて忙しく過ごしている日々の中、今日は久々の完全オフだったのだ。
できれば勇輝とのんびり秋物の買い物にでも行き、ついでに映画なんか観たりしてちょっとデートっぽい1日を過ごそうかなんて話していた。
それもさすがに、雷の鳴る中となればちょっと難しいだろう。
「やっぱ車欲しいよな...年明けには買おうかな......」
ペットボトルを握ったまま、静かに寝室へと戻る。
薄暗い部屋の中、ベッドの上には小さな赤が光っていた。
「起きてたの?」
「......うん」
ベッドヘッドに背中を預けぼんやりとしたままのその顔は、どうやらまだ酒が抜けきっていないらしい。
右手の指の間からは、ゆらりと紫煙が立ち上っていた。
「起き抜けのタバコは、ヤニ中の証拠だぞ」
クスッと笑いながら勇輝の隣に座ると、その指の間のタバコを抜き取る。
フィルターに口を付け一度大きく息を吸い込むと、タバコはそのまま灰皿に押し付けた。
ゆっくりと煙を吐きながら、水のボトルを勇輝へと差し出す。
「自分だって吸ってんじゃん」
「俺のが先に起きたもんね~」
渡したボトルを素直に受け取った勇輝は、半分ほどになっていた中身を一気に飲み干してしまった。
頭痛や吐き気は無さそうだが、やはりアルコールはかなり残っているらしい。
「雨だね......」
ガラスに打ち付ける雨音に気づいたのか、勇輝がぼんやりと窓の方に顔を向けた。
薄暗い部屋の中、何の感情も読めない鳶色の瞳がやけにはっきりと見えて、素直に綺麗だとため息が漏れる。
「結構降ってるよ。雷鳴ってるから、これからもっと強くなるかも」
「そっか......」
それを聞いた勇輝が、俺の肩にコトンと頭を預けてきた。
腕を伸ばして肩を抱き寄せると、勇輝の頭にそっと唇を押し付ける。
「さて、今日これからどうするかね...録画したままでまだ観られてないバラエティでも観る? あ、それともなんか観たい映画でもあったら、俺ちょっと走ってこようか?」
「......キス」
「ん? 何?」
「だからぁ...今からどうするかだろ? キスすんの」
それだけ言うと、勇輝が俺の腹の上に乗り上げてきた。
そのまま顎をしっかりと固定すると少しだけ唇を噛み、するりと舌を捩じ込んでくる。
口の中を余す所なく刺激してくるその舌に俺の舌をしっかりと絡め、合わさった唇ごと強く吸い上げた。
勇輝はそれを喜ぶように俺の首にしっかりと腕を回し、上半身の力を抜いてピタリと胸を合わせてくる。
お互いの唇から雫が溢れれば一旦顔を離してそれを舌先でチロチロと舐め取り、そしてまたお互いの唇を、そして舌を激しく貪る。
どれくらいの時間そうしていたのか......
昨日一日触れ合っていなかった俺達のモノは、見なくても触れなくてもわかるほどに大きく熱く昂っていた。
「今日はさ、ずっとこうしてようよ。キスしてセックスして、ウトウトしてまたキスして...うん、それがいいな...ずっとこうしてたい」
「んじゃ、腹が減ったらどうすんの?」
「ん? 冷蔵庫にある物チョコチョコって食って、んでまたすぐベッドに戻ってずーっとキスすんの」
「なんかそれってさ、付き合いだした頃みたいだな」
「......ダメ?」
「んなわけないじゃん、イイ感じ。たまにはただイチャイチャしてダラダラして過ごすのも悪くないよな」
ここのところは忙しくて、それなりにイチャイチャはしててもひたすらじゃれ合ってるなんて時間はなかなか作れなかった。
「こりゃ最高の休日になりそうだな」
「うん、どしゃ降りの雨に感謝だね」
確かに、小雨なら構わず買い物に出ただろう。
さっきよりも強くなった雨が、俺達二人だけを外界から切り離してくれる。
「なあ、また勇輝からキスして?」
「ん? いいけど、ちゃんとご褒美くれる?」
「勿論。最高に幸せで最高に気持ちいい時間をあげる」
「じゃあ、ご褒美ちょうだい」
再び唇が重なると同時に体勢を入れ換え、勇輝をシーツの上へとそっと押し倒した。
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