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好きだから【14】
なんだったんだ...ほんと、マジで。
あの時間は...あの感覚は...なんだったんだ。
ベッドに横になったまま、ぼんやりと天井を見つめる。
腰から下はなんかもう、感覚がなくて力が入らない。
泣き過ぎたのか瞼は腫れぼったくて重たいし、喉がヒリヒリして痛いし。
「充彦、大丈夫? 風呂行けそうなら行った方がいいと思うんだけど...どう?」
洗面器とペットボトルを持った勇輝が、いつもの綺麗で穏やかな顔で寝室に戻ってきた。
いやいや、この綺麗な顔に騙されちゃいけない。
こいつの本性、怖すぎるっつうの...
「風呂、無理。とりあえず水くれ」
思っていた以上に声は出なかった。
...ま、あんだけ喚いてりゃ当たり前か。
勇輝は水を口に含むと、そっと唇を合わせてきた。
チョロチョロと少しずつ流し込まれる冷たい水は、素直に喉を通っていく。
同じ動作を3回繰り返したところで、俺はトンと勇輝の肩を叩いた。
「もういい?」
「ん...」
頷いた俺を確認すると勇輝は洗面器を床に置き、中に浸してあったタオルを取り出した。
「じゃあ、もうちょっと様子見て、落ち着いたら風呂行こうね。勿論中出しはしてないけど、中にローションだいぶ残ってると思うし。あ、ちゃんと俺が連れてってあげるから大丈夫だよ。とりあえず気持ち悪いと思うから、先に少し拭いとくね」
そう言うと、固く絞ったタオルで臍の周りを拭き始めた。
まあな...その辺、俺が散々飛ばしたザーメンでカピカピになってるだろうし。
そのままぺニスを摘まみ、根元から毛の間まで優しく丁寧に拭いてくれる。
また勇輝の触れてる部分が熱い...痺れたように全身の感覚は曖昧なのに、そこに血液が一気に集まるのだけはやけにはっきりと感じた。
「あれ? 元気だね。まだ全然足りなかった?」
「アホか、十分だ十分! あれ以上やったら体バラバラになるわ! 俺のチンコの変化は一切気にするな。お前が触ったら反応するってだけの、言わば生理現象だから!」
「はいは~い」
クスクスと可笑しそうに笑う勇輝の手は更に下りていき、俺の脚をゆっくりと広げる。
恥ずかしくて目一杯抵抗したいところだけど、当然力が入らない。
というか、力を入れた瞬間に腰にあり得ないような衝撃が走るから下手に動かせない。
仕方なく勇輝が俺のケツまで拭き終わるのを、ただじっと待つしかなかった。
「はい、一先ず終了。あとは後で風呂で綺麗にしよう」
タオルを洗面器に放り込みそれを部屋の隅に寄せると、勇輝は俺の隣にゴロンと横になった。
ほんの少しだけ心配そうな表情で、俺の頭をそっと撫でる。
「大丈夫?」
「あぁ!? そう見える?」
「...ごめん、見えない。あのさぁ......やっぱり後悔してる?」
ひどく傷ついた声に、慌てて隣を見る。
勇輝は今にも泣き出しそうな顔で、それでも必死に笑おうとしていた。
「そりゃそうだよね...元々タチの人なのに、俺本気で抱いちゃって...優しくするつもりだったんだ。ちゃんと優しくするつもりだったのに、結局こんな体傷めるようなセックスしちゃうとか...俺、ほんとバカだ...ごめん...。俺、仕事以外で男抱いたことなくて加減がわからなかった。そりゃあ後悔もするよね...」
「あのなぁ...」
ともすればそのままベッドに沈み込んでしまいそうな体に少しだけ気合いを入れて、ゆっくりと勇輝の方を向く。
あんまり情けない顔をしてるから、目一杯からかうような笑みを作ってやった。
「俺が一言でも『後悔してる』なんて言ったか? 後悔なんてこれっぽっちもしてないっての」
「でもさ、体辛いんでしょ?」
「体は辛いよ、そりゃそうだろ。あんだけ何回もイッたんだし、ずっとお前のデカブツ咥えっぱなしだったんだから。でもさぁ、ちょっと俺ががっついた時とか、勇輝だってこんなんなってんじゃん」
「それはそう...なんだけど...」
「俺はさ、やっぱりしてみて良かったって思ってるよ。まあ、勇輝がここまで鬼畜な遅漏野郎とは思わなかったけど」
「鬼畜って...俺、普段充彦としてるエッチ再現しただけですけど」
「俺はあそこまで意地悪しねぇだろ」
「するよ、するっ! なかなかイカせてくれないし、充彦もなかなかイカないし、気絶しても無理矢理起こされるし、その間も平気で腰振り続けてたりするし」
......あ、確かにしてるかも。
勇輝の綺麗な顔の裏の本性が恐ろしいなら、俺の優しげな顔の裏の本性こそが鬼畜か?
そうか、それは悪いことしてたんだな...まあ、嫌がってるようにはまったく見えないけど。
「どっちが真の鬼畜かはとりあえず置いといてだな...」
「置いとくの?」
「うん、置いとく。とにかくさ...抱いてもらってほんとに良かったって思ってんのよ、俺なりに」
怠い腕を伸ばし、そっと勇輝の肩に触れた。
そこには間違いなく俺が付けたであろう赤いみみず腫が痛々しく浮き上がっている。
「実際、めっちゃ気持ち良かった、うん。普通に抱く側だったらさ、俺はあの快感は知らないまんまなんだもんな。昔ビデオでヤったときのあの胸糞悪い感じは何だったのか、マジで疑問だよ。でもそれってさ、勇輝が俺の事ほんとに大切にしてくれてて、少しでも気持ちよくしようって一生懸命になってくれたからなんだよな。そんな勇輝の気持ちごとわかった気がしてさ...」
「それ言うならね、きっと充彦自身の気持ちも違うからだよ。俺も色んな人に抱かれて、最後に充彦に巡り合ったからわかるんだけど、自分が心から大事に思ってる人に抱かれる時ってさ、ほんの少しの動きも逃さないぞってすごい体が敏感になってると思うんだ。だからこそ誰に抱かれてる時よりも気持ち良くて、幸せで...。充彦が俺に抱かれて思ってたより良かったって感じてくれたんなら、それは充彦がそれだけ俺の事大事に思ってるって事なんじゃないかな」
「......何を恥ずかしい事言ってくれちゃってんの?」
「ふふっ、何を今更恥ずかしがってんの?」
お互いに顔を見合わせ、ようやく二人とも心から笑い合った。
確かに勇輝の言う通りなのかもしれない。
大好きな勇輝が、少しでも悦ばせようとしてくれる事に俺が興奮したのは間違いない。
僅かな刺激一つも逃すまいと構えていたのも事実だ。
逆に言えば、そんな些細な気持ちの変化をも汲み取れるほど勇輝は俺の動きや表情を必死に読んでいたわけで、それは間違いなく『愛情』そのものだろう。
お互いがお互いを思い合っていれば、立場はどうであってもこれほど幸せなセックスができる...それを知れた事は、俺にとって何よりの成果だったかもしれない。
航生への嫉妬とか、なんかもうどうでもいいや...やっぱ勇輝は俺のモンだって実感したし。
「んで、どうする?」
「どうするって何が?」
「これからだよ。勇輝はこれからどうしたい? 抱きたいのか、抱かれたいのか」
「えーっ!? それ、俺が決めるの?」
「そう。勇輝が決めて...俺、なんかどっちでもいいなって思いだしてるからさ」
俺が真っ直ぐに見つめながら答えを待っていると、勇輝はふと視線を逸らした。
ほんの少しだけ頬が赤い?
「俺は...やっぱり充彦に抱いてもらってる時間がすごい幸せ...かな」
「うん、そうか...」
「あ、でもねでもね、充彦が抱かれたいって時は言ってくれたら...その...また頑張るから。今度こそ体傷つける事がないように」
「ば~か...どっこも...傷なんて...付いてない...よ......」
あれ...なんか急に...瞼が重くなってきた...
ゆっくりと視界が狭くなっていく。
「少し寝ようか。起きたらお風呂行って、それから何か軽く食べようね。ちゃんと今日は俺が用意したげるから」
勇輝の言葉は最後まで聞こえなかったけれど、しっかりと抱き寄せる腕と額に落とされた唇の感触だけはわかった。
ああ...今の俺、すげえ幸せかもしれない......
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